●ラジオドラマ「こんにちは、金光さま」
第8回「厄年」
金光教放送センター
登場人物
・福嶋儀兵衛 42才
・みよ 32才
・佐助 20代
・教祖
(火事。半鐘の音)
みよ (走って来る) 儀兵衛さん儀兵衛さん、偉いこっちゃ。
儀兵衛 おみよさん、慌ててどないした?
みよ か・か・火事や! 心斎橋の権三さんの家の方角やないかと思うんやけど。
儀兵衛 いや権三さんの家はもっと西の方やで。
みよ そうかー。いやね、昨日厄年の話をしててな、権三さん今年42歳の厄年なんやて。そやからわて慌てて心配してしもて…。
儀兵衛 それにしてもおみよさん、えらい格好やなあ。おでこにたんこぶ作って、手にぶら下げてるのは、鼻緒の切れたげたやないか。
みよ そやから急いで走って来たら、石にけつまずいて、げたの鼻緒が切れて転んで、おでこぶつけましてん。あーあ、うちも33の厄年来年や、転んだの前厄やろか…。
儀兵衛 そんなアホなこと。
みよ アホちゃいます。あのねえ、やっぱり厄年の平助さんが、こないだ泥棒に入られて、ごっそり売上金取られたて言うてはった。
儀兵衛 それは聞いたけど…。
みよ 八百屋のおつねさん知ってるやろ?
儀兵衛 ああ。
みよ おつねさん、やっと縁談がまとまりかけたら、厄年や言われて断られたて、泣いてはった。
儀兵衛 へえー。
みよ 儀兵衛さんも42歳でっしゃろ、気いつけなあきまへん。病気になった人もいるて聞くし。
儀兵衛 縁起でもないこと、言わんといて。それよりおみよさん、げたの鼻緒すげてあげますわ。
みよ ほんまに、おおきに。
佐助 ごめん下さい。
儀兵衛 あ、これは佐助さん、おいでやす。
佐助 また、ご燈明の皿、頂きに来ました。
儀兵衛 毎度おおきに。ところで、ご燈明の皿、何という神様をお祭りしてはるんですか?
佐助 金光様という生き神様が岡山におられまして、ありがたいお方で、私は信心しております。
儀兵衛 ほうー、そうですか…。はい、どうぞ。
佐助 ほな、これお代。
儀兵衛 毎度おおきに、ありがとうございます。
(みよに)おみよさん、金光様って知ってるか?
みよ うちも知らんなあ、わては近くのお稲荷さんしか行ったことはないし。
儀兵衛 んー、一度行ってみようかなあ…。
みよ へ? 岡山まで?
儀兵衛 そうかて、おみよさんが厄年厄年て言うから、気分が重とうなる。岡山まで船で行けるやろ、あの佐助さんに聞いて、その金光様とやらへ行ってみるわ。
儀兵衛 金光様、初めてお参りさせて頂きます。
教祖 遠方からよう参られました。
儀兵衛 お伺い致しますが、ここの神様はどういう神様なのでございましょう。
教祖 この神様は人間の親なのです。
儀兵衛 と申しますと…?
教祖 昔から、天は父、地は母というでしょう。実の両親は年を取ると亡くなってしまいます。しかし天地という親は亡くなるということがない。寒い冬が来てどうなるかと思っても、また今日のように暑い夏の盛りが来る、それは天地が生きているからです。
儀兵衛 ごもっともでございます。
教祖 ですから、あなたはこの天地の神様のおかげを受け、信心すればいいのです。
儀兵衛 それでは、どのようにして拝めばよろしいのでしょうか。
教祖 神様を拝むのに決まりはありません、形より心です。日々生かされていることのお礼をまず申し上げ、真心でお願いをすればいいのです。
儀兵衛 それだけのことで? 何か行のようなことは?
教祖 世間では、水の行、火の行などあるようですが、そのような行はしなくとも良いのです。それより毎日の家業を…。
儀兵衛 家業と申しますと、家の商売でございますか?
教祖 そのとおり、家業を信心の行と心得てしっかり勤めれば、それが神様のみ心にかないます。
儀兵衛 よう分かりました。それで…私は今年が厄年になりますけど、どないしたらええものですやろか、お伺いしたいと思いまして…。
教祖 この神様では、厄年の厄の字を、「人様の役に立つ」という「役」の字を使います。
儀兵衛 ははあ…。
教祖 ですから、やく年とは役に立つ年のことで、大やくの年というのは、一段と大きな役目を務める年と心得て、神様を信心し、人を助ける働きをすればいいのですよ。
儀兵衛 それは金光様、目からうろこでございますなあ。なるほどなるほど、厄年の厄は、「役に立つ」の役でございますか、ええことを教えて頂きました。何や身も心もすっきり軽うなりました。それでは信心する心で人の役に立つ、それでよろしいのでございますね。
教祖 そのとおりです。
(げたで走ってくる)
みよ 儀兵衛さん、おったおった。儀兵衛さん帰ってるて聞いて。…どうやった? 厄年のおはらいしてもろたんか?
儀兵衛 いいや。
みよ わざわざ岡山まで行って何でやの?
儀兵衛 おみよさんよう聞きや、厄年の厄というのは、ほんまは違うんや、人の役に立つ「役」という字を当てて考えてみ。
みよ 役に立つの「役」。そうかー、ほんまや、ええこと教えてもろた。早速、店の表に、書いて貼り紙しとこ。
儀兵衛 あんたとこうどん屋やろ、そんなん表に貼ってどないするねん。
みよ (笑って) そやな。ほな店の中に貼り紙しますわ。みんな、安心しますやろ。