●ラジオドラマ「鈴木家の教訓」
第4回「元気な顔で」
金光教放送センター
登場人物
・房子
・誠
・鈴木健二(房子の次男・清一の弟)
(セミの鳴き声)
誠 夏休みも終わりに近い日曜日、健二叔父さんが来た。お父さんの弟だ。
健二 あれ、母さんと誠君しか居ないの?
房子 そうよ、みんな出掛けちゃって。
健二 誠君が家に居るなんて、夏休みなのに珍しいね。
房子 だって、ね。
誠 何だよ、おばあちゃんまで。
房子 夏休みの自由研究、まだ終わってないんだって。
誠 おばあちゃんのいじわる!
(袋から物を出す)
健二 はい、これ。
誠 何?
健二 はい、これとこれとこれだ。
健二 お土産っていうか…。
誠 えー、これって、パチンコの景品?
房子 健二、あなたパチンコもうやめたんじゃなかったの?
健二 うん、2年ぶり、何だか、パチンコ屋の前を通ったら、ついふらふらっと入っちゃった。
誠 2年ぶりでこれだけの収穫ってすごいよ。チョコにクッキーにビールなんて!
房子 どうしたの? 何だか元気ないみたい。
健二 元気…ねえ、なかなか出ないんだよ。(ため息)
誠 叔母さんとけんかしたの?
健二 違うよ。どんなに忙しくても、月に1度は家族で出掛けてるよ。
房子 仕事忙しいの?
健二 ううん。勤めはそうでもないんだけど…。僕さあ、ホームレスの人たちのボランティアやってたの、知ってたでしょ。
房子 ええ、ええ。
誠 ねえ、叔父さん、ホームレスの人って怖くない?
健二 誠君は、ちょっと怖いとか近付きたくないって思ってるだろ。
誠 うん、まあー…。
健二 僕が始めたそもそもは、友達に誘われたんだよ。寒い冬に古毛布を集めて、テント村に持って行ったんだ。ホームレスのおじさんたちはとても喜んでくれたよ。初めは近付き難かったけど、親しくなると、どこにでもいる普通のおじさんだよ。
誠 へえー、そうなんだ。
健二 でね、相手の人が喜んでくれる、そのことが僕はとてもうれしくて、どんどんのめり込んでいったんだ。
房子 そう。
健二 炊き出しやったり、おにぎり作ってテントの人に配ったり。
誠 へえー。
健二 それが今年の2月にね、親しくしていたお爺さんが亡くなったんだ。
誠 病気?
健二 凍死。
誠 えっ?
健二 寒さで死んじゃったんだよ。雪のちらついていた夜だった。寒そうに段ボールで寝ていたから、毛布とカイロを渡したんだ。で、「明日ブルーシートを持って来るね」って言ったら、「ありがとう」って。…あくる日行ったら亡くなってた。もしかしたらあのおじいさんは、死にたかったんじゃないかって思ったんだ。毛布だって使ってなかったのかも知れない。僕に、「ありがとう」って言ってくれた顔が今でも浮かぶんだよ。
房子 …そうなの。
健二 もしあのおじいさんが自分で死ぬことを選んだんなら、多分それは経済的なことじゃなくて、精神的なことなんだろうなあって思ったり。…悲しいよ。
房子 もしそうなら、誰にも助けられないんじゃないの?
健二 それからもさあ、僕一生懸命やったんだよ、やらなきゃいけないって。だけどやるにつれて、何だか僕自身が、追い詰められてるようになってきて…、僕はどれだけ人の役に立ってるんだろう、って思うと、自信がなくなって。プツンと糸が切れたみたいに…。それで足が段々遠のいて…。めったに行かないパチンコ屋に、ふらっと入ったりして…。
房子 健二、今まで相当無理をしてたんじゃないの? そのホームレスのおじさんたちを大事にすることも大切だけど。私たちの心と体は神様から頂いたものだから、自分自身も大事にしなきゃ駄目よ。
健二 え?
房子 だから、そんなうっとおしい顔してちゃ駄目よ。ほら、おじさんたちだって、あなたの元気な顔を見た方がうれしいに決まってるでしょ。
健二 そうか、母さんありがとう。僕は自分を捨てて、頭でっかちにボランティアしてたんだ。
(セミの声)
房子 外は暑そうね…。
誠 テレビで熱中症とか言ってるよ。
健二 あのおじさんたちどうしてるのかなあ、顔見たくなっちゃった。また…行ってみようかな…。
誠 叔父さん、僕も連れてって。
房子 誠、何か魂胆があるでしょ。
誠 おばあちゃんは鋭い。
房子 まさか、夏休みの自由研究の…?
誠 へヘヘ…。
房子 そんな気楽な考えで行ったら、おじさんたちに悪いんじゃない…?。
誠 僕、真面目だよ。
健二 母さん、新しいタオルとかせっけんとかある?
(玄関のドア、バタン閉まる)
誠 ただいま! おばあちゃん、おばあちゃん。
房子 何です騒々しい。
誠 ホームレスのおじさんがね、健二叔父さんの顔を見て、「ずっと顔を見掛けなかったから、病気じゃないかって心配してたんだよ」って言ったの。叔父さんったら涙ぐんだりして。僕のこと孫みたいって、可愛がってくれたよ!
健二 今日の教訓『人も大事、自分も大事』