ラジオドラマ「鈴木家の教訓」最終回「鈴木家の一大事」


●ラジオドラマ「鈴木家の教訓」
最終回「鈴木家の一大事」

金光教放送センター


登場人物  
 ・信一郎
 ・房子
 ・清一
 ・治美
 ・美絵
 ・誠


美絵  誠、お父さんが呼んでるわよ。
誠   何? 宿題もうちょっとで終わるのに。
美絵  何だか難しい顔して、みんなで集まってる。
誠   姉ちゃん、何か怒られることした? 
美絵  するわけないでしょ、誠じゃないの?
誠   僕、何もしてないよ。

清一  実はね…。会社から転勤の話が出た。
美絵  え、お父さん、みんなで? それとも単身赴任?
清一  なるべく家族でってことだ。
美絵  (嫌そうに)えー、どこー? 転校するのー?
清一  2年間の海外赴任だ。
美絵  わっ、カッコいい。
信一郎 何だ、手のひら返したみたいに。
美絵  ねえ、どこ、どこ、アメリカ? フランス? イギリス?
治美  ブラジル、サンパウロだって。
誠   サッカーの国だ。サッカー見られる。
美絵  カーニバルだってあるんでしょ。
房子  そう単純に喜ぶっていうのもねえ。海外旅行じゃないのよ。
美絵  分かってるわよ、そんなこと。
清一  サンパウロには会社のアパートがあるし、日本食のスーパーも、日本語の新聞もあるそうだよ。生活水準が高くて、物資も豊富にあるって。あっそうそう、もちろん日本人学校もある。
美絵  日本人の2世・3世なんて居るんでしょ。
清一  居るけど、もう日本語しゃべる人は少ないだろう。
誠   じゃあ、何語なの?
清一  ポルトガル語だ。
誠   僕、行きたい、行きたい!
清一  ただし…。
美絵  どうしたの?
清一  サンパウロは治安が悪いそうだ。
信一郎 日本だって、物騒な事件が度々起きる。若者は大いに海外に行くべきだ、と俺は思うな。
美絵  おじいちゃんいつもそう言うけど、前に私が将来アメリカの大学に行きたいなって言った時、お父さんが、「家にはそんなゆとりはない」って言ったわよ。
清一  事実だからだ。
信一郎 清一は視野が狭い。
治美  美絵、話を脱線させないで、お父さんの話を聞きなさい。
清一  ネットで調べたり、聞いたりしたんだけど、サンパウロは大都市だ。貧富の差が激しいから、スリやカッパライがたくさん居るそうだよ。
房子  怖いのね。
清一  キョロキョロしないで、真っすぐ歩け、とも書いてあった。
誠   どうして?
清一  お上りさんだって、すぐにスリに分かるじゃないか、いいカモになるんだよ。
房子  清一、そんな怖い所へ子どもたちや治美さんを連れて行くって言うの? 
治美  でも仕方ありませんよ、お義母さん。
房子  清一は昼間会社で危ないことはないけど、子どもたちや治美さんはそうはいかないわ。それに……。
清一  何よ。
房子  海外赴任の奥さんが家にこもりっきりで、ウツになったって聞いたことがあるわ。
治美  私は大丈夫ですから。
房子  そんなこと、行ってみなくちゃ分からないでしょう…。(ため息)どうして清一が海外赴任なんかになったのかしらねえ…。
清一  それは、僕が優秀だからだよ。
信一郎 あるいはリストラ予備軍で、追い払うとか…。
清一  父さん、それが自分の息子に言うこと?
信一郎 ハハハ…。お前の勤めてる小さな会社でも、海外に行く時代なんだな。
房子  この話、断ったら駄目なんでしょうね?
美絵  もしかしてクビになるの?
清一  そんなことはないと思うけど。
信一郎 大体、ばあさんは心配のし過ぎだ。うちに居たって転んで大けがをすることもある。神様にお願いして、守ってもらえばいいじゃないか。どこへ行っても神様の懐の中だからな。世界を見る良いチャンスだ、清一行って来い。

誠   という訳で、それからは父さんはポルトガル語の辞書を買い、僕たちは強制的にラジオのポルトガル語講座を聞かされ。おばあちゃんは神様に無事を祈り…。

(ワンワン…)

誠   僕は、ジローと離れるのがとてもつらかった。

(飛行機の飛び立つ音)

房子  おじいさん、何ですか、毎日毎日郵便受けをのぞいて、この間サンパウロの奇麗な絵葉書が届いたばかりじゃありませんか。
信一郎 分かってる。
房子  治美さんや子どもたちは環境が変わって忙しいんですよ。度々手紙なんか書いてる暇はないんです。自分で行けって言ったくせに、そんなに心配なら電話を掛けたらいいんですよ。もっとも時差が12時間ほどあるそうだから、ちゃんと計算して下さいね。
信一郎 心配なんかしてない、うるさいな。(犬に)ジロー、散歩に行こう。

(ワンワン)

信一郎 おっ、郵便屋さん、ご苦労さん。ばあさん、ばあさん、治美さんから手紙だ。

(手紙を広げる)

房子  元気なんですか?
信一郎 ああ、そう書いてある。何々、えーと「こっちに来てみたら、日本では見たことがないほど、目や肌や髪の色の違う外国人が、世界各地から来ていてびっくりしました」。何言ってるんだ、あっちから見たら清一たちが外国人だ。
房子  おじいさん、早く続きを。
信一郎 「日系3世のイザベルという人とお友達になりました、私は日本語を教えて、彼女からはポルトガル語を教えてもらっています。身ぶり手ぶりで大変です。みんなでサンパウロの生活を楽しんでいます」
房子  やっぱり、神様は見守っていて下さったのですね。

全員  今日の教訓『いつでもどこでも神様と一緒』
ジロー ワンワン。

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