●ラジオドラマ「ようお参りです」
第3回「大粒の涙」
金光教放送センター
登場人物
・さやか(高校三年)
・母(さやかの母)
・先生(教会の先生・30代女性)
・男1(20代)
・男2(20代)
(電話のベル、出て)
さやか はい、そうです。…え! 鈴木先生が…! はい…はい、あさってですね。…え? 金光教の…? はい、失礼します。
(電話切って)
母 さやか、どうしたの? 何かあったの?
さやか 副担任の鈴木先生が亡くなったって。
母 ええ! だってまだ20代でしょ。
さやか 急に亡くなったって、お葬式はあさってで、金光教のお葬式だって…。
母 お若いのに、お気の毒に…。
さやか 大好きだった鈴木先生が亡くなった…! 私は真っ暗な深い穴の中に突き落とされた。私は…高校を卒業したら、後半年したら、卒業式の日に告白しようと思っていたのだ…。ずーっと片思いだったけど、学校に行けば先生に会えるのが唯一の楽しみだった。先生の笑顔、もう会えない…!
(鳥のさえずり)
母 さやか、早く起きないと学校遅れるわよ。
さやか 頭、痛い…。
母 昨日もでしょ。学校行ったり休んだり、一度ちゃんとお医者さんに行きなさいよ。
さやか 先生のいない学校なんか行きたくない。寂しいだけだ…。母がパートに出かける玄関のドアの閉まる音を聞いて、のろのろとベッドから起き上がり、パソコンを立ち上げる。
(パソコンを開く音、キーを叩く)
さやか 意味もなくインターネットをしているうちに、出会い系サイトにアクセスしていた。
男1 毎日一人で寂しいです。仲良くなって、ご飯とか食べながら、お互いの悩みとかそんな会話の出来る方。
さやか 私はその人と会った。寂しいと言ったその人は楽しそうで、私の話なんて何も聞いてくれなかった。ただ、ご飯を食べてカラオケに行った。
男2 楽しい時間を過ごしましょう。楽しい関係になりましょう。
さやか お金なんていらない!
さやか 私は悪いと知りながら、いろんな男の人と付き合った。パーッと遊ぶようになった。心の隙間を埋めてくれる人なら誰でもよかった。
(パソコンを開く音、マウスをクリックする音)
さやか また、インターネットをしていた時だ。
さやか あれ? 金光教のホームページ? そう言えば、鈴木先生のお葬式も金光教だった。(読む)「教会では、いつでもどんな悩みでもお聞きしています」
さやか 好奇心で行った教会に着いてびっくりした。若い女の先生だったのだ。
先生 よくいらっしゃいましたね。
さやか あの、ここは誰が来てもいいんですか?
先生 はい。
さやか 私、誰かと話したかったんです。
先生 そう。ここは誰にも言えないどんなことでも、神様が聞いて下さる所なの。だから、何をお話してもいいのよ。
さやか 見ず知らずの私なんかの話も?
先生 あなたは何かつらいことを抱えていらっしゃったんでしょう。ここではいい話をしようなんて思わなくていいの。人間は、一人で重い荷物を抱えていたら、潰れてしまうでしょ。
さやか 私は初めて会った先生にいろんなことを話し始めていた。男の人と付き合ったこと。学校に行っていない、生きている意味が分からない、など。すると先生は目をつぶって、静かに祈って下さった。
さやか それから時々この教会に来るようになった。先生は本当のお姉さんのように優しく接してくれた。ある雨の日だった。
(雨)
さやか 先生、私が好きだった学校の先生が先月亡くなったんです。
さやか いつもは静かに返事をしてくれる先生が黙っている。顔を見ると、目から大粒の涙が頬を伝っていた。
さやか 先生、どうしたの?
先生 …。
さやか 先生!
先生 私も…先月婚約者を亡くしたの。
さやか えっ!
先生 高校の先生をしていたの。美術を教えてた。
さやか 美術? 鈴木先生だ。そうだ、鈴木先生は金光教の信者さんだった。この先生の婚約者? 私は思わず外に飛び出した。
(雨)
さやか 私は走った。あの物静かな人が鈴木先生の婚約者…? 鈴木先生が死んで、どんなに悲しいだろう。私の…私の…何百倍も悲しかっただろう。それなのに、今まで私の話を一生懸命聞いてくれた…。私は空を仰いだ。雨が顔に打ちつける。強い雨の勢いと共に、色んな思いが体から抜け出た気がした。
(雨音消えて)
(学校のチャイム)
生徒 さやか、おはよう。
さやか おはよう。
さやか いつも私のために祈ってくれた教会の先生に、学校に行けるようになったと報告しよう。
きっと笑顔で迎えてくれるだろう。