あなたの声を聞かせて


●共に生きる
「あなたの声を聞かせて」

金光教伊予三いよみよし教会
池川道和いけがわみちかず 先生


 私は現在、自殺予防の電話相談のボランティアをしています。
 相談者のほとんどは、周囲に悩みを打ち明ける相手がいなくて、独りで悩みを抱えています。一生懸命考えているつもりでも、同じ考えが堂々巡りをしています。
 人は独りで考えていると、とてもつらく深く落ち込みます。もう自分はいない方が楽だとも思えてくるようです。電話相談はそんな人のために、ボランティア相談員が待機しています。自分の考えや思いを誰にも伝えることがなかったら、「自分なんか要らない人間だ」「そんな苦しい日々を生きていくよりも、死んだ方が楽」と思ってしまうようです。もし、このラジオをお聞きのあなたが同じような思いでいるなら、電話でお話をしてみて下さい。お話をする中で、きっと何かが見えてくると思います。
 電話相談は“助けてあげる”というのではありません。相談者自身の中にある心の力がよみがえり、少しでも気持ちが明るく、楽になって欲しい、と願っています。そして問題があるとしたら、それを解決する方法も自ら考えられるように、と毎日活動をしています。
 ある日、机に向かうと電話のベルが鳴りました。50代ぐらいの女性でしょうか。「聞いてもらっていいですか」と話し始めました。声が小さく元気がない様子です。出来るだけしっかり聞こうと受話器を耳に押しあてて、受話器の向こうの声に耳を傾けます。「体はボロボロで老人のようだし…、気持ちは子どものように不安定で何に対しても自信がない」と話します。「うつ病と診断されてからしばらく経ちますが、良くなる気配もなく、今では寝込むことも多い。夫は自分の病気に対して全く理解がなく、『何を怠けているのか…、毎日の家事がそんなに大変とは思えない』と言われている。子どもたちはそれぞれに自立していき、話し相手にはなれず、とても孤独感が強い」とのことです。
 私は、「本当に寂しく、つらい思いをしていらっしゃるのですね」と声を掛けると、「そうなんです。分かってもらえますか」と、少し元気が出てきたようです。つらい気持ちがこちらに伝わったと感じて安心したのか、不安に思っていることを徐々に話し始めました。
 小さいころ、母が厳しく、何をしても叱られ、全く自信が持てなかった。結婚しても今度は夫が厳しく、常に夫の顔色を見て過ごしてきた。そのため子育てにも自信が持てなかったと。「自信がない」という言葉が何度も出てきます。私は、「それでも、あなたは生活に、子育てに一生懸命頑張ってきたのですね。子どもたちもそれぞれに自立して、巣立っていけたのですね」と話すと、「そうなんですよ…」と答え、安心した声が聞けました。
 1時間近く話を聞き、「また私の愚痴を聞いて下さいね」と言われ、話を終えたのでした。つらい気持ちを話すことにより、初めの元気のない声からは徐々に落ち着いてきた様子が感じられました。
 「あなたとお話が出来て良かった」「誰にも話せないこんな話を聞いてくれてありがとう」と言われると、「私もあなたとお話が出来て良かったです。ありがとう」と返しています。「電話をしてくれてありがとう。私を相談の相手にしてくれてありがとう」という気持ちさえ生まれます。
 「ありがとう」という感謝の言葉を聞くたびに、多少なりとも誰かの役に立ったと感じます。そんな時はボランティアをやって良かったと思います。
 またある女性からは、「生きているのが苦しい、死にたい」との電話がありました。親の期待に応えたいが出来ない自分を責め続けているとのことでした。「生きているだけで充分ではないですか?」と、私は言葉を返していました。「えっ、生きているだけで充分なんですか? それなら出来るかもしれません」との返事です。
 中には、怒りながら話し続ける人、また、こちらの何気ない言葉に怒り出す人もいます。
 でも、気持ちをぶつけるところが他になく、ここにしかないのでしょう。掛かりにくい電話を何度も掛けて、やっとの思いで繋がり、そしてその怒りが、電話を掛けてきた人の重い苦しみとして伝わってきます。
 人間は生きる力を持っています。それは、神様が生かそう生かそうと働きかけているように思うのです。
 人が悩み苦しむということは、何とか自分を支え、より良く生きようと努力している過程でもあります。その気持ちや心に寄り添うということは、相手の苦労をねぎらい、エールを贈ることでもあります。
 一本の電話を通して、顔は見えないけれどその人を大切に思い、「大丈夫ですよ」と、その人の中にある生きる力を信じ、生かそうとする働きに手を合わせながら、一生懸命聴かせて頂いています。何も言わない無言電話にも、その背後にあるさまざまな声にならない叫びを大切に受け止めたいと思います。人の苦しみや深さは他人には測れません。でも、寄り添うことは出来ます。
 あなたも充分生きている意味があります。生きている価値があります。生まれた意味はあるのだと励まします。生きる意味が分からなくても、本当に好きでない仕事をしていても、生きていていいんだ。と思って欲しいのです。
 悩む人の心の中に、明るい希望の兆しが現れることを信じて、これからも一人でも多くの方々の気持ちに寄り添っていきたいと願っています。

タイトルとURLをコピーしました