●天地は語る
第1回「よい方をあげよ」

金光教放送センター
(ナレ)「どんな物でも、よい物は人に融通してあげれば人が喜ぶ。それで徳を受ける。人に物をあげる時でも、自分によい物を残しておくようなことではいけない。たとえ前かけ一枚でも、よい方をあげ、悪い方を自分が使うようにせよ」
これは金光教の教祖、金光大神の教えの一つです。今日はこの教えについて先生にお話を伺います。
(聞き手)先生、よろしくお願いします。
(先 生)こちらこそ、よろしくお願いします。
(聞き手)この教えでは「よい方をあげ、悪い方を自分が」ということですが……。
(先 生)ええ。まあ、なかなかそうはいかないですけどね。欲を放すというのは、すごく勇気が要ることですから。
(聞き手)私、このことで苦い思い出がありまして……。
(先 生)ほう。
(聞き手)大学生の時なんですけど、夏に花火大会がありまして、友達と浴衣を着て2人で一緒に見に行くことになったんです。
(先 生)はい。
(聞き手)でも、私も彼女も、帯の結び方が分からないので、私の母に着せてもらおうという話になったんですね。それで、彼女は浴衣を持ってうちにやって来たんですけど、肝心の帯を忘れてきちゃったんです。
(先 生)ああ。で、どうしたんですか。
(聞き手)今から取りに帰る時間もないし、うちにある帯を貸してあげようということになったんです。で、新しくて可愛い帯と、いかにも古くさい地味な帯とが2本あって……。
(先 生)さあ、どっちをとるか、ですね。
(聞き手)私、その時はもうこの教え、「前かけ一枚でも、よい方をあげなさい」というの、聞いたことがあって知ってたんです。で、これがパッと頭に思い浮かんだんですね。でも、「新しいの使って」とは、どうしても言えなくて、それで、「どっちがいい?」って。
(先 生)分かりますねえ、その気持ち。それでどうなりました?
(聞き手)彼女の方が、「私、これ」と言って、迷わず古いのを取ったんです。
(先 生)友達の方が遠慮して気を利かしてくれた、と。
(聞き手)そうなんです。私は内心、ほっとしたんですね。それで、私が可愛い方の帯を締め、彼女は平気で似合わない帯をして、2人で花火を見に行ったんですけど、それがいまだに心に引っかかってるんです。彼女に悪いことをしてしまったなあ、って。
(先 生)この教えを知ってるだけに、余計に気になったんでしょうね。それで、今も苦い記憶として残っていると。
(聞き手)そうなんです。
(先 生)よかったですね。
(聞き手)え?
(先 生)私ね、教祖の教えというのは、自分を見せてくれる鏡だと思ってるんです。
(聞き手)鏡……?
(先 生)誰も、なかなか自分の正体が分からないものですけれども、あなたは、この教えを知っているおかげで、自分にはほんとは嫌なところがある、ということをずっと心にとめておくことができた。それが、これまでずっと、生活のいろんな場面で、いい働きをし続けたと思うんですよ。
(聞き手)そうでしょうか。
(先 生)そうですとも。自分はいい人間だ、と思い込んでる人と、本当は自分本位なところがあると自覚している人。これは大きな違いですからね。
(聞き手)そう言っていただくと、ちょっと気が楽になりました。それにしても…、この教えは、ちょっと見ると簡単そうなんですけど、実行しようと思ったら、難しいですね。
(先 生)誰でも自分が可愛いですからねえ。少しでも自分によい方を、と思ってしまう。でもそういう心が、いろんな争いを引き起こしたりもするんですね。
(聞き手)ああ、うちの子どもなんか、コップにジュースを入れてやったりしますと、横から見て、こっちが多い、あっちが多いと言って、よく取り合いをするんです。そんなの、どっちでもいいじゃないって、思うんですけど。
(先 生)そうそう。神様からご覧になったら、きっとそんな感じなんでしょうね。神様にとっては、人間みんなが、可愛いわが子なんですから、子どもの誰かが喜んでも、それによって他の誰かが泣いているようなことでは、うれしくないですね。でも、自分から進んでいい方をあげようとするような、きょうだい思いの子どもがいたら……。
(聞き手)親としては、うれしいですね。胸がキューンとなって、思わず抱き締めたくなります。
(先 生)そうでしょう。こんなうれしいことはありませんよね。今の教えの中に「それで徳を受ける」というのがあったでしょう。
(聞き手)はい。
(先 生)これは、神様に喜んでいただけるということなんです。人と人が助け合ったり、親切にし合ったりすることを、神様は人間の親として、何よりも願っておられるんですね。
(聞き手)私、子どもを見てますと「もっと仲良くしてよ」ってもどかしく思うんですけど、神様も私たちをご覧になって、そんなお気持ちなんでしょうか。
(先 生)まさにそのとおりだろうと思うんですよ。
(聞き手)ああ、そういう親の思いを想像したら、私も神様にもっと喜んでいただけるようになりたいな、という気がしてきます。
(先 生)教えの中に込められた神様の温かい親心というか、人間に対する切ない思いや願い、そういうものを味わっていきたいですね。
(聞き手)はい。
(先 生)失敗しながらでもね。
(聞き手)はい。先生、ありがとうございました。
(先 生)いや、こちらこそありがとうございました。
(ナレ)「どんな物でも、よい物は人に融通してあげれば人が喜ぶ。それで徳を受ける。人に物をあげる時でも、自分によい物を残しておくようなことではいけない。たとえ前かけ一枚でも、よい方をあげ、悪い方を自分が使うようにせよ」
今日はこの教えについて先生にお話を伺いました。