●先生のおはなし
「劇団GAHが目指すもの」
金光教麻布教会
松本信吉 先生
(ナレ)私の奉仕する金光教麻布教会を拠点に活動する劇団があります。アルファベットのG・A・Hで、「ガー」と呼びます。元々は別々の活動をしていたメンバーが集まり、劇やコントで子どもたちを笑顔にしたいとの思いから、2016年に劇団GAHは誕生しました。劇団を主宰する源清治さんは私の弟でもあり、私も彼らの思いに感銘を受け、教会のホールを稽古場所として使ってもらい、活動の後押しをさせていただいています。
そして、舞台を開くと彼らの願いどおり、たくさんの子どもたちが集まってくれました。劇団の中心的存在、中村優太さん30歳は、次のように語ります。
(中村)ここは今、「子どもたちの笑顔のために」という目標があって、みんなで笑い合いながらやってるんですけど、すごく何かそれが素敵だなと思って…子どもたちの笑い声とか、距離も近いですし、普通の舞台とか劇場より、全然身内感覚でやってるんですけど、それもまたすごい良くて…。子どもたちを笑顔にしてあげようという思いで、こっちがやってあげてるという思いで始めたんですけど、逆にもらってるものがたくさんあるなということに、次第に気付いてきました。素晴らしいことをやらせていただいているなと思っています。
(ナレ)また、松良茉侑さん21歳は、声優の学校に通うために上京しました。今は卒業し、アルバイトをしながら、劇団GAHでも生き生きと活動しています。
(松良)やっぱり声優になりたいという気持ちで上京してきたので、学校で学んでることを、こういうGAHでのコントとかで生かしていけたらいいなという気持ちで最初はやってたんです。けど、それよりもここでコントとか何度も出させてもらうにつれて、学校で学んでることじゃないことを…それこそ子どもたちとどう触れ合っていくべきなのかとか、お芝居の技術じゃなくて、どういう関わり方をしていったら周りのみんなが笑顔になってくれるかということを学ばせてもらっていて。笑ってくれたらうれしいし、こっちも向こうが笑ってくれたら笑顔になれるし、お互いの関係でお芝居というのができてるんだなということを、ここで一番学びました。
(ナレ)2020年の2月、麻布区民センターで上演された「があ校」はGAHの学校という意味で付けられたタイトルで、大勢の子どもたちを含め、3日間5公演で520人の観客を動員。舞台の役者と客席と一体となって劇を楽しむのがGAHの演劇の特徴です。
(中村)でも「があ校」も、ここでご近所さんを含めた小さいコントだったのが、まさかあんな大きな劇場でやらせてもらえるようになるとは思ってもみなかったので、すごい幸せなことだと感じてます。
(ナレ)メンバーそれぞれが手応えを感じ、劇団活動が波に乗り始めた矢先、新型コロナウイルス感染症が拡大し、活動が厳しくなります。
劇団員の大半は20代の地方出身者の学生やフリーターです。緊急事態宣言が出て、彼らは、地方の実家に帰ることもできず、都内のアパートで一人部屋にこもっての生活は不安と寂しさが募り、心細くなっていました。そこで、徐々にメンバーが麻布教会のホールの稽古場に集まり、「3密」を避け、感染予防対策を施しながら、少しずつ稽古を再開。その時に、今できることとして、ユーチューブでのコント動画を作成しました。
(中村)コロナで不安を感じない人はいないと思うんですよ。みんな周りもマスクをしてるし、周りがコロナ持ってるんじゃないかみたいな…テレビとかも、けっこうやばいぞみたいな感じで流されるんで。でもやっぱり演劇を通じて僕が感じているものは、「人と人とのつながり」とか、なんだろうな。「助け合う」「一人じゃ人間生きていけない」ということを30歳になってヒシヒシと感じてるので。やっぱり笑うということはすごく大事だと思うし、むしろ今、一番必要なことなんじゃないかと思うんです。
(ナレ)新型コロナウイルスが流行し、感染の不安や、人間不信で孤独に陥ったり、寂しさが募る中、彼らは東京都が募集した「アートにエールを!」という事業に自分たちの作品の動画を応募し、見事入選しました。
「損得勘定」を英語にもじった「son talks can joke~おかげは和賀心にあり」と題したこの作品は、野球のグローブをいじめっ子に奪われてしまった男の子が、物を大切にしなかったことを反省したところから、グローブが返ってきて、いじめっ子とも仲良くなるというストーリー。ズームを活用したこの動画は、登場人物を9分割した画面の中で上演。「物を大切に、人を大切に」することを訴えます。
劇団主宰者の源清治さんは、「今の世の中はキャッチボールではなくてドッジボールになっている。自粛警察のように一方的に叱るよりも、お互いの心が助かる言葉のやりとりを大切にしたい」と願っておられます。
自粛やソーシャルディスタンスが叫ばれる中で、今こそ心のキャッチボールの救いが必要となっています。相手のどこに、どのスピードで投げれば捕りやすいか、お互いに気を配っていく。
私も、この劇団の活動をとおして、今まで以上に、人も我が身も助かる金光教の生き方が、多くの人たちに伝わることを願っています。