寄り添いリレー


●こころの散歩道
「寄り添いリレー」

金光教放送センター


 やっと洗濯が終わった、と思ったところに、同居している夫のお母さんの洗濯物が出てきた。イライラしていると、今度は、郵便屋さんが来た。手を止められたことに、またイライラ。私宛ての小包だった。中身は、防水シーツ。義理のお母さんの介護が始まった私に、介護経験のある友人からのサプライズだった。お礼の連絡をすると、「買い置きしていたのが出てきたんだよ。すごく助かった優れモノだから、使ってみて」。プレッシャーにならないように、応援してくれている彼女の優しさが伝わってくる。ささくれだっていた心のとげがちょっと引っ込んだ。私も、彼女のように、そっと寄り添える人になりたいと思った。

 ある時、友人が主催している子育てサークルのお手伝いに行った。わが子はみんな成人し、大人ばかりの生活で、癒し要素が欠けていたので、久しぶりの赤ちゃんにとても癒された。介護生活の中でのちょっとした気分転換でもある。部屋の中央では、子どもやお母さんたちが集まって、楽しそうに遊んだりおしゃべりしたりしている。そこから離れたすみっこのほうで、大きな声で泣き続けている赤ちゃんがいた。初めての場所で不安なのだろう。
 その赤ちゃんのお母さんも、せっかく来たのに、他のお母さんたちとおしゃべりすることもできず、あやし続けていた。お母さんまで泣きそうだ。私は、「初めての場所で不安になってるんだね」と声をかけた。「こんなに泣くのおかしいですか? うちの子だけですか? 検診に行った時も泣き止まないんです。みんな泣いていないのに。楽しそうに遊んでいるのに」。畳みかけるような質問に、お母さんの心細さが伝わってきた。
 「大丈夫だよ。みんなそうだよ。うちの子もよく泣いていたんだから」
 「そうなんですか? うちの子だけじゃないんですね」
 「そうだよ。だから、ぜんぜん大丈夫!」
 ほっとした様子で、少しだけお母さんの顔が和らいだ。
 泣きじゃくる赤ちゃんをあやしながら、息子のことを思い出した。人がたくさんいるところが苦手で、よく泣いていた。子育てサークルにボランティアで来ていた方に「こんなに手がかかる子は初めて」と言われ、悲しくなった。もうサークルに行くのは止めようと思っていると、そばにいた先輩ママさんが、「元気な証拠。大丈夫大丈夫。またおいでー」と声をかけてくれて、すごくほっとしたことを思い出した。
 わが子は、かわいくて、愛しくて、子育ては、幸せな気持ちもたくさんもらえるけど、それと同じ量の不安や心配もついてくる。常に不安な気持ちを抱えながら子育てしていた自分と重なり、お母さんの話をゆっくり聞かせてもらった。お母さんがほっとしたからか、場の雰囲気になれたのか、赤ちゃんもご機嫌になって遊び始めた。

 社会人一年生の娘と久しぶりの買い物デートの帰り、お土産にドーナツを買うことにした。お店は、長蛇の列。並んだ前には、バギーに乗った1歳ぐらいの男の子とお母さん。男の子は、ぐずっているが、お母さんは、疲れている様子で、あやすこともなくスマホを見ていた。「神様のお導き」と感じた私は思わず、「かわいいねー! いくつ?」と話しかけた。娘は、「またママのおせっかいが始まった」と、あきれ顔。
 「1歳です。すみません、うるさいですよね」と、すぐに謝るお母さんに、胸がギュッと締め付けられる。私は、「ぜんぜんうるさくないよ! むしろ、かわいくて、癒されてるよ」と伝え、坊やをあやした。バギーから出たがっている坊や。抱く気力もないお母さん。私は心の中で、「どうぞお母さんの心が穏やかになりますように」と祈り、アルコール消毒液を出して、「ほら、消毒したし、抱っこしていい?」と言うと、お母さんは驚いた様子で、「全然いいですけど、いいんですか?」と笑ってくれた。抱っこすると、坊やは泣き止み笑顔になった。「これぐらいの時が一番大変だよねー」と、お母さんへのエールを込めて、自分が子育てしていた頃、「やってほしかったこと」「されてうれしかったこと」を、ついやってしまう。
 お会計が終わる頃には、お母さんも笑顔になっていた。にっこり笑顔で、「ありがとうございました!」と帰って行った。後ろ姿を見送りながら、娘がぽつりと、「前は、おせっかいだと思ってたけど、こういうの必要だよね」と言ってくれた。娘も、働きはじめて社会でまれているのだろう。いろんな体験をして、寄り添う大切さを感じているようだ。私は、「オーバーかもしれないけど、世のお母さんが助かったら、世の中の悲しい事件とか、半分ぐらい無くなるんじゃないかと思うんだよね。だから、『お母さん』を助けたくなるんだよね」と話すと、「ほんとだね」と共感してくれた。
 
 ささいなことでも、「されてうれしかったこと」「してほしかったこと」をすれば、寄り添いのリレーになるように思う。そんな寄り添いのリレーでつながる世の中になったらいいなあ、と願いながら、おせっかいおばさんを楽しんでいる。

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