●ラジオドラマ「LIFE」
第5回「はじめてのアルバイト」
金光教放送センター
登場人物
・幸子 (大学生)
・母
幸子 お母さん、友達がアルバイトしてるんだって。私も夏休みの間だけアルバイトしてもいいでしょう。
母 まあ、ねえ。幸子もやっと大学生になったことだし。
幸子 私、前からバイトしたかったの。
母 でも…、お父さんが良いって言ったらね。
幸子 やったー。
母 まだ良いって言ってないのに…。一体何をやるの?
幸子 駅前のハンバーガーショップ。アルバイト募集の張り紙がしてあったの。
(ドアの音)
幸子 ただいまー。
母 仕事どうだった?
幸子 うん、店長さんの言うことを聞いて一生懸命仕事をした。ドキドキの連続。
母 どんなこと?
幸子 今はね、裏方。食品を冷蔵庫から出して、焼いたり揚げたり。マニュアルがすっかり決まってるの。だから店長と主任さん以外は全部バイトの人、へっへっ先輩とも仲良くなれたよ。私にしたら結構重労働かな…?
母 そう、まあ社会に出て良い経験が出来たわね。
(ドアの音)
幸子 (元気無く)ただいま…。
母 お帰りなさい。どうしたの? 元気無いわね。バイト始めて2週間なのに、そんなに疲れるの?
幸子 別に…。
母 心配してるのよ。
幸子 …あのね、先輩から、何だか距離を置かれてるの。
母 どうして?
幸子 分からない、でもあと2週間ほどだから、我慢して続ける。
(玄関ドアの開閉)
母 あら幸子、こんなに早く。
幸子 (泣き出す)私、バイト辞めたい。
母 どうして?
幸子 先輩に店の裏に呼び出されて「あんたが良い子ぶって仕事するから、店長の私たちへの風当たりが強くなる」って言われたの。だから私が「あなたたちがちゃんと仕事をしないから、私が頑張ってるんじゃないですか」って、それから大げんかになって、びっくりして出てきた店長に「今日はもう帰りなさい」って言われた。
私、真面目に仕事してるのに、何であんなこと言われなきゃいけないの? 絶対におかしい!
母 そうね、だけど…。
幸子 マニュアルの最後にね、「お客様に喜んでもらえるように創意工夫をしましょう」って書いてあるのよ。マニュアル以上のことをしたから責められるなんて、もう最低。
母 でも、いい体験をさせてもらったわね。
私も昔、そんなことがあったわ。
幸子 え、どういうこと?
母 誰でも嫌なことを経験するから成長するんじゃないかな。自分は正しい、間違ってるのは相手なんだと思っても、でもあの人はどうしてあんなことを言うんだろうって、考えることも大切なのよ。
幸子 だって、私は悪くない!
母 もっと、その先輩と話し合ったら…?
幸子 嫌だ! 顔も見たくない。
母 ふふ…(笑う)
幸子 何で笑うの!
母 幸子はまだまだ子どもね。
幸子 お母さんは見てないから…。
母 そうじゃなくて、たとえ幸子が正しくても、幸子もけんかした子も、お互いが自分の考えを相手に押し付けたわけでしょ。お互い様じゃないの?
幸子 理屈ではね…。
母 幸子ねえ、自分を抑えるってことも考えなきゃね。そうしたらけんかしたりしないで、ちゃんとそのことに向き合っていけるのよ。
幸子 そんなの、しんどい。
母 しんどいのを我慢するから、人間が大きくなるのよ。あとちょっとよ、頑張りなさい。私も応援してるわ。
(ドアの音)
幸子 お母さん、バイト無事に終わりました。
はい、これお店のハンバーガー。
母 あらー、ありがとう。(食べながら)これ、おいしいわ。幸子が生まれて初めて頂いたお給料でのプレゼントだから、余計おいしいのかしら。
幸子 私、これを売りまくったの。もう、見たくもない。
母 (笑う)
(電話のベル)
幸子 はい、そうです。え、去年の? ごぶさたしてます。あ、はい。…はい、分かりました。
母 電話、誰から?
幸子 去年の夏休みバイトしてたお店の、店長さん。
母 ああ、ハンバーガーショップの?
幸子 今年の夏休みも来てくれないかって。夏休みになったら、友達と旅行に行こうかって話してたのに…。
母 どうするの?
幸子 私…バイトに行く。だって、ぜひ来て欲しいって言われたの。それに、お客さんへの君の笑顔がとっても良いって。
母 (笑いながら)あらまあ…。
母 今年はどうなの?
幸子 今日ね、新しく入った若い子がね、お客さんにどなられて控え室で「もうこんなバイト辞める」って大変だったの。
母 まあまあ、去年の幸子と同じね。
幸子 私、その子と一緒に帰って来たんだけど、「去年私も辞めようと思ったのよ」なんて話してて、お母さんが言ってくれた言葉を思い出したの。
母 へえー。
幸子 ほら「嫌なことを経験するから人間は成長するんだ」って。そうしたらその子ちょっと元気になって。「幸子さんのお母さんってすごいですね」って褒めてくれたの。
母 へえー、私のこと褒めてくれたの。うれしいなあー。