人生の分かれ道


●先生のおはなし
「人生の分かれ道」

金光教大崎おおさき教会
田中たなかさくら 先生


 私は以前、会社員として働いていました。楽しく働いていましたが、同僚と険悪な仲になったり、上司とけんかしてしまったり、人間関係の上に問題を抱えていました。また、何か嫌なことがあるとすぐに、「死にたい」とか「死ぬ」など、本気でそう思っていなくても、軽々しく口にしてしまう一面もありました。
 5年前、そんな私の生き方を大きく変える出来事がありました。それは、ある男性との出会いがきっかけでした。
 彼は東京にある金光教大崎教会で生まれ育ちました。当時、彼は世界中を航海する豪華客船で、フィットネスジムのトレーナーとして働いていました。ところが、2011年、東日本大震災が起き、余りの被害の大きさに、「東北に行ってお役に立ちたい」と仕事を辞めて東北へ向かいました。その後1年間に渡り、津波で大きな被害を受けた宮城県気仙沼市でボランティア活動をしていました。
 金光教では、気仙沼教会を拠点として、ボランティアを受け入れ、復興支援活動や被災者の方々の心の支援が行われていました。
 彼はそこで、現地代表として、避難所や仮設住宅を回って、どのような支援が求められているのか、被災者の方々のお話を聴いたり、物資の配布や、泥かきをしたり、またボランティアがどんなお役に立てるのかを考えて企画したりする活動を行っていました。
 その年の7月、私は震災からの復興支援をテーマにした金光教の集会に参加しました。そこで聞いたのが、彼の話でした。彼は、ボランティアが必要とされていること、またその大きな働きなどを熱く語り、「皆さんにも出来ることが必ずあります」と呼び掛けました。私はそれまで、自分のことだけを考え、被災された方々のことを真剣に考えることはなく、ボランティアに行こうと思ったこともありませんでした。ですが、彼の話に心が動かされ、「私も役に立てるかもしれない!」と即、気仙沼へ行くことを決めました。
 8月、初めて訪れた気仙沼で、津波による被害の爪痕を見て、言葉を失いました。
 仮設住宅の集会場へかき氷の提供に行かせてもらいました。一緒にかき氷を頂いていると、壮絶な津波の経験を語られる方もいました。中には、「聴いてくれてありがとう」と言って涙を流される方もいました。
 また集会場で遊び回る子どもたちを見て、「この子たちは一体どれだけ怖い思いをしたのだろう」と思うと、胸が痛みました。その日の夜、ボランティアが感想を話し合うミーティングがありました。私は、感想を話すうちに、抑えきれなくなった感情が込み上げ、涙があふれました。
 東京へ帰ってからも、私の頭の中は気仙沼の人たちのことでいっぱいでした。また同時に、自分が今生きているということは当たり前ではない、不思議なことのように思えてきました。そしてふと、「生かされている」という思いと、「もっと人の役に立つ生き方がしたい!」という思いが心の底から湧いてきたのです。
 一方彼は、引き続いて気仙沼の人々と悲しみや喜びを共にしていました。大切な人や生活を失った人の悲しみに触れては、教会でその人のことを神様に祈り、教会の先生に教えを頂いて、活動に当たっていました。
 私は彼の生き方に触れて、「自分さえ良ければいい」という生き方をしてきたことや、神様に生かされている尊い命を軽く見ていたことを反省しました。
 彼が大切にしていたのは、「人が人を助けるのが人間である」という、金光教の教祖様の教えでした。神様は私たち人間が、人に親切を尽くし、人を祈り、助ける働きをすることを願っておられること、そして私たちといっしょに喜び、悲しんで下さっていることを知りました。
 何の取りえもないと思っていた私が、神様に願われている…。そう思うと、何事にもやる気が湧き起こりました。
 それ以来、教会へお参りすることが多くなりました。職場での人間関係の問題を教会の先生に話すと、「相手の事を祈ってあげなさい」と教えられました。相手のことを悪く思うばかりで、祈るなんて考えもしていなかった私にとってそれは驚きの一言でしたが、それを機に、相手のことを神様に祈るようになりました。そうしていくうちに、それまでお互いに目を合わせることも出来なかったのが、目を見て笑顔で会話が出来るようになり、関係がどんどん良くなりました。今では大切な友人です。相手を変えようとするのではなく、自分が変わらなければならないということと、相手を祈る気持ちになることで、それまで見えなかった相手の良い所が見えてくるということを教えて頂きました。
 毎朝お参りするようになると、その他の多くの問題も良い方へ向かっていき、神様の働きを感じずにはいられませんでした。神様の願いを感じ、日々の命に感謝しながら生活をすると、人生が明るく変わっていったのです。
 彼はその後、金光教の教師となりました。今から3年前、私はその彼と結婚しました。そして共に神様の願いを現す生き方をしたいと思い、教会で奉仕する人生を選びました。
 大震災という大きな悲しい出来事から気付かされた命の尊さ。そして、苦しんでいる人を助けてやってくれと神様から願われている私たち。
 生かされ、願われている命を、お役に立つように、輝かせていけたらと思っています。

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