お礼の心


●先生のおはなし
「お礼の心」

金光教常盤台ときわだい教会
三宅史子みやけふみこ 先生


 一昨年の夏、私は待ちに待った第一子を出産させていただきました。「おぎゃー!」と元気に泣いた声を今でもハッキリと覚えています。
 赤ちゃんが生まれて、実際に目にするまで、自分のお腹に新しい命があるということが何だかとても信じられませんでした。
 一つのいのちが誕生するということは、とても不思議です。自分が意識して子どもを育てるわけではないのに、目に見えないほど小さかった命がお腹の中で少しずつ成長し、10カ月もすると一人の人間として生まれてくるのです。私たち一人ひとりは皆、神様からいのちを与えられて、この世に誕生します。
 息子が1歳の誕生日を迎える頃のことです。同じ年頃の赤ちゃんがいる友達はすでにお乳を止めていたり、止める計画をしていたり、また、育児雑誌でもお乳を止めるという断乳の記事を目にすると、私もそろそろお乳を卒業させようと思うようになりました。
 というのも、生まれてからこれまで、2~3時間おきに授乳をしていたので、お昼も一人で遠くに出掛けたり、夜もぐっすりと眠ることができないのです。最近では日中はご飯を食べるようになって、授乳の回数も減ってはきたものの、夜中はそうはいきません。
 やっと寝付いたかと思うと、「えーん」と泣き出し、また授乳して寝かしつけるということが何度もあります。特に私が疲れている時は「もう、また目を覚ましたの…」という気持ちになります。そして、少しずつ授乳の回数を減らそう、と思った時に限って、よく目を覚ますのです。
 「何でもっとぐっすり眠ってくれないの!」とイライラしながら息子に問い掛けますが、ただただ泣くばかりです。
 仕方なくもう一度お乳をあげながら、私は、息子の顔をしばらく見つめていました。そうすると、これまでのことが思い出されてきました。
 生まれてしばらくは、なかなかお乳が出なくて悩みました。
 ある日、とても体がだるく、発熱し、風邪でも引いたのかと思っていると、胸がパンパンに腫れて痛くなり、ベッドに横たわることも起き上がることもできなくなってしまいました。「これはおかしい」と、うようにして病院へ行き、診察を受けると、乳腺炎にゅうせんえんであることが分かりました。涙の出るほど痛いマッサージを受け、食事についての指導を受けました。病院から帰ると母がお乳に良いように、野菜たっぷりの食事を作ってくれました。母の味はとても温かく、体に染み渡るようでした。
 これまで当たり前のようにして食べていた食事は、母が家族のことを思い、心を込めて毎日作ってくれていたのだということや、ずっと両親の愛情を受けながら、育ててもらっていたのだということを改めて感じ、心から感謝せずにはおれませんでした。おかげでだんだんと体調が戻り、母乳で子どもを育てることができるようになり、息子は、大きな病気をすることもなく、今日まですくすくと成長させていただきました。
 この1年を振り返り、そのようなことを懐かしく思い出していると、ふと、四代金光様よんだいこんこうさまが詠まれたお歌が心によみがえってきました。
 『できないと悲しむよりもできること喜ぶべきとまたしても思う』
 それはまさになかなかお乳を卒業できないと悩んでいる私自身のことを言われているのだと気付きました。
 神様からいのちを授かり、お腹の中で無事10カ月間育てていただいたこと。そして元気に出産できたこと。小さいからまだ言葉の意味は分からないだろうと思っていると、想像以上によく理解していたり、昨日までできなかったことが急に一人でできるようになったりと、日々子どもが健康で成長し、子どもと接する毎日の中でたくさんの喜びを頂いていること、そしてここまで十分にお乳も出、親子共に健康で過ごさせていただけていることなど、なぜもっと感謝できなかったのか…。まず、もっとお礼を申し上げなくてはならないことがたくさんあったという思いになりました。
 これまでのことにしっかりとお礼を申し上げ、そしてここから先のことをお願いさせてもらわなければならない。できていないことばかり思い悩んで、できている、させていただけたことに感謝をする生活になっていなかった…、と今までの自分を省みることができました。
 不満や不足の心で過ごすと、知らず知らずのうちにその心は言葉や態度に現れます。子どもに接する親の心は、そのまま子どもに伝わるのです。また、子どもは親の背中を見て育つと言われるように、手本であるはずの親が、不足ばかり言っていたら、子どもの純粋な心に影となって残ってしまうのではないでしょうか。
 不足の心になっていないか、子どもの良いお手本になっているかと、私はいつも心に問い掛けています。
 どんなに疲れていても、子どもの満面の笑みや、ぐっすりと眠っている姿は、本当に心が安らぎます。お乳を飲みながら、安心してスヤスヤと眠るわが子に、母親としての幸せを感じ、胸がいっぱいになります。
 まだ育児は始まったばかりですが、神様からお預かりしている大切ないのちのお世話をさせてもらう中で、喜んで生活させていただく姿を子どもに見てもらいたいと、願っています。
 これから子どもが成長し、人を思いやる優しい心を持ち、世の中や人のお役に立つ人間となってくれるよう、日々神様にお願いしながら、子どもと共に育っていきたいと思います。

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