ラジオドラマ「LIFE」第1回「誕生」


●ラジオドラマ「LIFE」
第1回「誕生」

金光教放送センター


登場人物
ぼく (赤ちゃん)
・母親 (20代)
・父親 (20代)
・医者 (女性)


ぼく ぼくは目覚めた。うーん、温かくていい気持ち、ぼくはふわふわと漂っている。ここはママのお腹の中だ。ところが、外では…。

(食器の触れ合う音)

父親 ごちそうさま。あれ、君あんまり食べないんだね。
母親 うん、何だか自分の作った物って食欲無くて。ねえ今度の日曜日、久しぶりに外でランチでもしない?
父親 あ、悪い悪い、ゴルフなんだ。
母親 またなのー。
父親 仕方無いだろ、上司の付き合いゴルフ。課長が始めたばっかりで夢中でさ、ぼくが学生時代ゴルフ部に居たからって、何かっていうとぼくのこと誘うんだよ。
母親 その話、聞き飽きた。
父親 だって、本当なんだぜ。
母親 ハイハイ…。(ため息)さ、片付けよ。  

(水を出して、食器を洗い始める)

母親 いいなー男の人はー。夜遅くにお酒を飲んで帰って来るし。私なんか、パートが終わったら、毎日毎日家に飛んで帰って夕食の支度! 遊びにいったこともない。
父親 嫌みか?
母親 この間の結婚記念日だって、あなた忘れてたでしょ!
父親 会社が忙しかったんだよ。

(ガチャン、コップが割れる)

父親 コップに当たることないだろ。
母親 手が滑ったのよ。あーあ、子どもがいたらなぁ。そしたらあなたなんか要らない。
ぼく ぼく、ここにいるよ。
父親 子どもは神様からの授かりものだよ。
母親 こんなにけんかばっかりしてたら、赤ちゃん来ないかも。
ぼく ここに、ちゃんと居るって!

(ピイピイ鳥の声)

父親 あー良かった、ゴルフ日和だ。
母親 行ってらっしゃい。
父親 無理して起きてこなくたっていいって言ったのに。
母親 でも、…あ、ううっ…。
父親 どうしたんだい?
母親 気持悪くて、吐きそう。ちょっとトイレ…。
父親 (奥へかけて)何か悪い物でも食べたんじゃないのか? 行ってくるよ。

ぼく ママは、お医者さんに行った。お医者さんの声がした。「おめでたですよ、いいお母さんになりましょうね」。やっとぼくのこと分かったみたい。ウフフ…。その夜。

父親 やったやったー。バンザーイ。
母親 まだ生まれてもいないのに。
父親 パート辞めろよな。
母親 まだ3カ月よ、働けるわ。
父親 えー、でも仕事中つわりがひどくなったらどうするんだ? ぼくも、これからは、なるべく早く帰って手伝うよ。

ぼく 数カ月して、ぼくは気持ちが良くなって、うーんと伸びをした。

母親 あ、赤ちゃんが動いた。
父親 本当? ぼくにも触らせて。…えー、全然動いてないよ。
母親 だって、さっき私のお腹けったもの。
父親 動かないって!
母親 怒らなくたっていいでしょう、確かに動いたんだから。

ぼく え、またけんか? せっかくいい気持ちで寝ようと思ってたのに。よーし、ママのお腹の中で暴れてやれ。

母親 ほら。
父親 あ、動いてる動いてる、感動だなあ。あのねえ。
母親 え?
父親 いつかさあ、子どもが居たら、ぼくなんか要らないって言ったろ。あれ本当?
母親 さあー、そんなこと、言ったっけ…?

ぼく そして、いよいよだ!

母親 痛っ、痛い…。あなた、あなたっ…。
父親 (寝ぼけ声)どうした。
母親 生まれる…らしい。あ痛っ…。
父親 よ、よし、タクシー呼ぼう。

(電話、ダイヤル)

父親 今出払ってる?

(また、ダイヤル)

父親 え? こんな時間に車は出せない?

母親 (うめいている)

父親 ぼく、外に行ってタクシー拾って来る。
母親 (うめきながら)こんな夜中にタクシー通る…?
父親 任せろ!

(夜中のノイズ、たまに車の音)

父親 ああ、来ないなあ…、うーん、どうしよう…。神様、助けて下さい…!(やや・間)…あ、来た! あー、人が乗ってる。…おっ、止まった、客が降りる。(叫ぶ)運転手さーん!!

父親 先生、出産に立ち合わせて下さい。
医者 奥さんはね、あなたのお子さんを生むために命をかけて頑張っていらっしゃるんですよ、しっかり励まして上げて下さいね。

ぼく ママは、命をかけてる…?

母親 (苦しそうな息)

父親 お、おい、苦しいか、背中なでてやろうか。

ぼく ママが苦しがっている。ぼくだって苦しいんだよ。でも、パパはただおろおろしてるだけだ。
ぼくとママは最後の力を振り絞った。

(オギャー!)

父親 生まれた! 生まれた! 神様ありがとうございます。ママありがとう。坊や初めまして、パパだよ。この家に生まれてきてくれて、ありがとう!!

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