●ラジオドラマ「LIFE」
第3回「高校受験」
金光教放送センター
登場人物
・修 (中学3年)
・父 (修の父)
・教師 (女性)
修 ぼくはカレンダーを見る、高校の受験日まであと3日。 取りあえず頭に鉢巻きをする、「うん」これで気合いが入る。頑張るぞ!
父 こらあ!
修 …あ。
父 勉強してるのかと思って見に来たら、また、居眠りか!
修 さっきまで勉強してたよ。
父 弁解無用。こんな受験生が居るか! しっかり勉強せい。
修 大丈夫だよ、今までだって勉強してたんだし、落ちるわけ無いって。自信あるよ。
父 お前の自信ほど当てにならんものはない。油断大敵と言うだろう。ちゃんと勉強しろ!
修 ぼくが目指したのは、というより父親が命令したのは、地元のレベルの高い歴史のある高校だ。
合格発表の日。…「無い、ぼくの番号が無い!」。まさか! と思った…。喜び合っている友達を横目に、行くあてもなく、仕方なく、とぼとぼと家に帰った。
父 バカもん! しっかり勉強しないからだ!
修 一番ショックを受けているのは、このぼくなのに、父はどなる。誰のためにどなってるんだろ。父は大学の先生をしている、その息子があの高校を落ちた…、父の見栄かも…。ぼくは一応頭を下げて嵐の通り過ぎるのを待つ。
修 ぼく、中学浪人はしたくありません。
父 当たり前だ。
修 あのー、働きます。
父 何を言うか! 高校も行かずに働くなんて許さん!
修 じゃあ…。
父 隣の市の高校を受験しろ、まだ間に合うだろう。あの高校は落ちこぼれの集まりみたいな高校だが。まあー、仕方ないか。
(学校のチャイム音)
修 学校に通い始めたころ「格好悪いなあ、遠くだし、行きたくないなあ」という気持ちでいっぱいだった。多分、授業態度にもそれが出ていたのだろう。昼休み、校庭でボンヤリしていると、担任の先生がそばに来た。
教師 どう、学校に慣れた?
修 はい、まあ…。
教師 あなたの顔を見ていると、何だかつまらなそうな顔をしてる。
修 べつに、そんな…。
教師 高校生活って楽しいものよ。この高校でだって、いろんな人との出会いがあったり、素晴らしい出来事に出会うかもしれないでしょう。これからのそういうことを、大切に、楽しみにしましょうね。
修 はい。
教師 自分の気持ちの持ち方次第で願いは変わるのよ、ほら。
修 先生は手の平をぼくの前に出した。
教師 ほらね、手にも表と裏があるように、裏が出た時は、早く表になるように努力するの。この高校に入って、良かったと思える3年間にしましょうね。
修 そうだ、ここがぼくの居場所なのだ。落ちこぼれの学校と言われているが、他の高校を不合格になってここに入学してきた生徒たちがたくさんいる。みんな同じ痛みを味わって来た者の集まりだ。ぼくと同じなのだ。そう思ったら、気持ちが前向きになった。エリートには分からない、痛みの気持ち。
父 修、学校はどうだ?
修 友達もたくさん出来たし、楽しいよ。それに…。
父 何だ?
修 良い先生がいるんだよ。親身になって相談に乗ってくれるんだ。
父 ほうー。最近お前の顔が穏やかになったな、結構結構。遅刻せずに行ってるようだし。
修 父は父なりに、ぼくのことを心配してくれていたんだ。半年後、その父が脳こうそくで倒れた。母もぼくもとてもうろたえたが、幸い軽くて済んだ。
(病院のノイズ)
修 父さん、具合どう?
父 お前学校が遠いんだから、毎日見舞いに来なくてもいい。
修 だって、当たり前だろ、心配なんだから。
父 大したことはないんだ。お前だって帰ってから宿題があるだろう?
(かばんからノートなどをごそごそ出す)
修 ぼくはここでやるよ。分からないことは、父さんに聞ける。フフ…。
父 お前も…。
修 何?
父 高校受験に失敗して、かえって良かったのかもしれん。
修 父も倒れてから、人の痛みが分かったのかもしれない…。
父の顔を見た。かすかにほほ笑んでいた。