ラジオドラマ「LIFE」第4回「高校三年生」


●ラジオドラマ「LIFE」
第4回「高校三年生」

金光教放送センター


登場人物
・徹 (高校3年)
・あかね (徹の姉・大学4年)
・父
  


 ぼくは山村徹やまむらとおる、高校3年生、どちらかと言うと出来が悪い。4歳年上の姉がいる。姉は成績抜群で、現役で国立大学に合格した。
 そしてぼくはというと、高校の担任の教師が、運の悪いことに、かつての姉の担任の教師だったのだ。だから、事あるごとに優秀な姉と比較された。
 「なぜお前はそうなんだ? 姉さんはあんなに優秀なのに」と…。
 もういいよ、うんざりだ、腹が立ってくる。ぼくは山村徹ではなく、「出来の良い姉の弟」でしかなかった。
 こんなことばかり言われると、余計勉強する気がなくなる。そしてクラスの悪い仲間とつるんで、遊び感覚でコンビニで万引きをして、交番まで連れて行かれたことがある。

(戸の音)

あかね (突然)徹。
 何だよ、急に人の部屋に入ってきて、びっくりするじゃないか。声ぐらいかけろよ。
あかね 徹、バイク欲しいってお父さんに言ったんだって?
 言ったよ。友達が乗ってるの、安く譲ってくれるって。オレさあー、前から欲しかったんだー。
あかね 何考えてるの? 徹はのんきね。もうじき1学期終わるってのに、どこの大学受けるとか、進路決める時期でしょ。ふらふらしてないで、勉強に集中しなさい。バイクはやめなさいよね!
 何でだよ。
あかね 危ないからよ、分かった?
 姉貴は何でも一方的に決め付ける。こうなれば、意地だ。ぼくは親父の機嫌を取りまくって、念願のバイクを手に入れた。ヤッター!

(バイクの走行音)

 いつもクラスの友達とバイクで走っているうちに、自然に友達が増えた。暴走族のような奴もいた。ぼくたちは暴走行為が、自分たちの存在を示す、唯一の手段だと思い込んでいたのだ。
 走っている時は姉とは比較されない。風がぼくの体を巻いて後ろへ流れる。早く、もっとスピードを上げて…。

(暴走音続く。ややあって、パトカーの音)

 慌てふためいたぼくはバイクごと転んで、腕に擦り傷を作った。そして、捕まった。最悪だ! 
 鑑別所に移された。目の前が真っ暗になった。「何でぼくが…」。「どうして…?」。
 家族はすぐに面会に来てくれた。父とは二言三言話したが、いつもおしゃべりな母は黙って目に涙を浮かべ、姉貴はぼくと目も合わせない。

 それから1週間ほどして、姉貴が一人で面会に来た。しばらくぼくの顔をにらみ付けていたが…。
あかね 徹、あんたお母さんの財布から、ちょくちょくお金を抜いてたんだって。
 えっ?
あかね お母さんもお父さんも、とっくに知ってたのよ。そのお金何に使ったの?
 別に…。
あかね そんな言い方って無いでしょう! うちはそんなに裕福じゃないのよ。
 …分かってるよ。
あかね 私、お父さんに言ったの、徹に好き勝手にやらせたらこの家はつぶれる。それでもいいのって。
 …え。
あかね お父さん何て言ったと思う?

父の声 それでもいい。自分で気付いて立ち直ってほしい。

あかね 私言ったの。「その結果がこうなんでしょ」
 …。
あかね そうしたらあのおとなしいお父さんが大きな声で。

父の声 (どなるように)結果は出てないぞ! あの子の結果はまだ出ていない!

あかね 私さあ、ぶ然としてたら、お母さんが、「お父さんはね、毎日徹のことを思って、神様にお参りしているのよ」って。そんなに徹のこと思ってくれてたなんて知ってた?

 「結果は出ていない」。父の言葉を噛みしめて、ぼくは素直な心になって面接官と話をし、2週間で鑑別所を出られることになった。

あかね え? あのバイク売るの?
 うん、そして学校に行って先生に謝る。
あかね 本当なら自主退学でしょう? よし、私が付いて行ってあげる。
 いいよ、子どもじゃあるまいし。
あかね 違うわ、私が先生に会いたいだけ。

(校内ノイズ)

 学校でぼくはひたすら先生に謝り、真面目になりますと誓い、先生は久しぶりに優秀な姉貴と会ったことで喜び、ぼくは何とか退学にならずに済んだ。
 先生は「人生には必ず転機というものがある、これを生かすも殺すもお前次第だ、お前は今その転機にいる、よく考えろ。…そうだなあー、夏休みが後2週間ある。何か有意義なことをして、レポートにして出しなさい」と言った。

 ぼくは考えて、老人ホームにボランティアに行くことにした。ぼくが若いというだけで、お年寄りから歓迎された。
 手の不自由なお婆さんの塗り絵を手伝った。「あなた上手ね」と褒めてくれた。生まれて初めて人に褒められたような気がする。ぼくは素直にうれしかった。
 そうだ、高校を出たら福祉の専門学校に行こう。

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