ラジオドラマ「LIFE」第7回「結婚」


●ラジオドラマ「LIFE」
第7回「結婚」

金光教放送センター


登場人物 
・夏美 (26歳)
・健一 (夏美の従兄弟・36歳)
・ファミレスの店員


夏美 私は仕事の休みの日曜日に、いとこの健ちゃんをファミレスに呼び出した。年は10歳も離れているが、昔から仲良しだ。私のことを妹みたいに思っている。

(ファミレスの雰囲気)

健一 おう、夏美ちゃん待たせたな。
夏美 ごめんね休みの日に。
健一 そうだよ、家族サービスを犠牲にして君のところに来てやったんだ。
夏美 だから、ごめん。
健一 いや、いや、逃げ出す口実ができて良かった。
夏美 えっ、結婚すると、そうなるの?
健一 ヘッヘヘ…。あ、ホットコーヒー一つね。
店員 はい。
夏美 嫌あねえ、笑ってごまかして。
健一 夏美ちゃんの相談事って、もしかして結婚するのか?
夏美 どうしようかって、迷ってるの。
健一 何を迷ってる?
夏美 好き、イコール結婚なの?
健一 まあ、普通そうなんじゃないのか。相手はどんな人?
夏美 誠実で優しい人。私にはもったいないくらい。
店員 お待たせしました。
健一 で、夏美ちゃんは結局のろけに来たのか?
夏美 違うわ。あのね、今が結婚するタイミングなんだろうか、とか。この人は一生私を裏切らないという保証はあるだろうか、とか。私はこの人を幸せにしてあげられるだろうか、とか。
健一 おいおい、どうしてそんな先のことを勝手に想像するの?
夏美 だって、彼が大好きだから、すごく好きだから、先のことがとても不安で、どんどん考え方が悪い方へ行くの。
健一 うん、「明日塩辛を食べるからといって、今日から水を飲んで待つわけにはいくまい。取り越し苦労をするな」っていう教訓があるんだよ。まさにそれだね。
夏美 じゃあ、どうしたらいいの?
健一 ぼくに聞かれてもねえ…、会ったこともない人だし、仮に知っている人だとしても、やっぱり先のことは分からないとしか言えないよ。
夏美 そう…。
健一 人生にはねえ、幸せへのルートを示す地図は無いんだよ。それはね、幸せの形は一つじゃ無いからだとぼくは思うんだ。100人居れば100通りの幸せがある。
夏美 それは、確かにそうだけど。じゃあ健ちゃんの家はケンカなんかしないの?
健一 するよ派手に。
夏美 えー…?
健一 意見が違えば、言い合いしなきゃならないことだってあるだろ。
夏美 そうだけど…。
健一 ぼくは、言いすぎたと思ったら、2、3日してから謝ってる。
夏美 へえー、そうなんだ…!
健一 あのさ、一緒に喜んだり悲しんだり、それが夫婦ってもんだろ?
夏美 そう…かもしれないけど。
健一 夏美ちゃんが彼を大好きで、どんなことがあっても彼を幸せにしてあげたいと思うんなら、もう答えは出てる。
夏美 え?
健一 2人で地図の無い道を歩いてもいいと思っているんなら…。
夏美 地図の無い道?
健一 そうだよ、人生には地図は無い。一緒に歩けるか、それが答えだ。よく考えてごらん。
 ところでプロポーズはされたの?
夏美 まだ。
健一 はあ、それなのに心配してるのか。全く取り越し苦労する奴だな。さっさとプロポーズされて、結婚しちまえ。ぼくなんて仏滅の日に結婚式やったんだよ。
夏美 そうだったっけ…。
健一 その日しか式場が空いてなかったんだよ。何カ月も待っていられなかったんだ。
夏美 あ、思い出した!
健一 そう、そうだよ、嫁さんのお腹の中に子どもがいたし、早く結婚したかったんだ。おかげでボクたちだけで結婚式場を独占できた。いいか、迷うことは無いんだよ。迷ってる間に10年たっちまう、ハハハ…。
夏美 ひと月後にとんでもないことが起きた。私はまた健ちゃんを呼び出した。

(ファミレスの雰囲気)

健一 夏美ちゃん、今日は結婚式の報告か?
夏美 (涙声)違う。別れた。
健一 え? 何でまた…。
夏美 あのね…あのね(泣き出す)
健一 え? あっちょっと、おい、泣くのは止めろよ。皆がじろじろこっちを見てる。
夏美 彼ね、北海道に行っちゃったの。
健一 どうして?
夏美 彼のお母さんが急に脳こうそくで倒れて、彼は一人っ子でお父さんはもう居ないの、だから…。(グスッと鼻をすする)
健一 いずれ帰って来るんだろ。
夏美 ううん、仕事辞めて、北海道に帰っちゃったの。
健一 仕事って?
夏美 介護福祉士。
健一 ああ、なるほど…、仕事を親の介護に生かすって訳だ。で、夏美ちゃんはそれをボーッと見送ったって訳か?
夏美 仕方ないでしょ。
健一 彼は、そういう状態で結婚するのは、君が可哀想だと思ったんだよ。しかし、夏美ちゃんはバカだなあ。
夏美 どうして?
健一 本当に好きなら、ぼくなら北海道まで追いかけて行くよ。夏美ちゃんの仕事は薬剤師だろ、どこでだって就職できるじゃないか。
夏美 …うん。
健一 そして、君からプロポーズするんだよ。

(飛行機飛び立つ)

夏美 私は飛行機の中でプロポーズの言葉を考えた、何て言ったらいいだろう…。「人って文字は2本の線が重なり合って一つの文字になってるの、私はあなたの支えになりたい」「私にお母さんのお世話をさせて、だって私の大好きなあなたを生んでくれた人だもの」。どれもイマイチだなー。私はしゃれた言葉を、あれこれ考え続けた。
夏美 空港で彼の姿が見えた、手を振っている。私は走った、そして彼の胸に飛び込んで言った。

夏美 結婚しよう!

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