ラジオドラマ「LIFE」第9回「子育て」


●ラジオドラマ「LIFE」
第9回「子育て」

金光教放送センター


登場人物
朱美
・由紀   (朱美の友人)
・リサ   (朱美の子・3歳)
・お婆さん



由紀 そう、この子が3歳なの。お名前は?
リサ (小声)リサ。
朱美 リサ、もっと大きな声でお返事するのよ。
由紀 可愛いわねえ、お目めパッチリでお人形さんみたい。
朱美 今お昼寝してるのが、1歳半の健太郎と5カ月の麻衣。
由紀 朱美も偉いわねえ、29才で3人の子どもの母なんだ。少子化に貢献してるじゃん。
朱美 あはは、そんなこと、考えたこともない。
由紀 ご主人、手伝ってくれるんでしょ。
朱美 全然、会社忙しい忙しいって。
由紀 そうなの…。
朱美 由紀は結婚する予定は無いの?
由紀 うーん、今のところはね。仕事も面白いし、30代でもいいかな…なんて思って。そうそうこの間の短大のクラス会、朱美来られなかったでしょ。
朱美 こんな状態で行けないもん。
由紀 その報告もあってね。

朱美 由紀の話は延々と続く。友達の近況、ファッションの話題、おしゃれなレストランの話…。私は時計をちらちら見る、もう5時近い。夕食の支度をしなくては…。それに気付いた由紀が。

由紀 ああ、私、明日もお休みだから大丈夫よ。心配しないで。

朱美 私は忙しいの! 心の中で叫ぶ。でも、せっかく来てくれたのに、「帰って」とは言えない。

(赤ちゃんの泣き声)

朱美 ごめん由紀、麻衣にミルクやらなきゃ。
由紀 ああうん、じゃあ、また。
朱美 タイミング良く泣いてくれたものだと、変なことで感謝する。それからは大忙しだった。食事をさせて、お風呂に入れて…。
 夜、鏡の中の自分の顔を見る。ひどい顔、髪はボサボサ、口はへの字に曲がっている。そういえば…。

リサの声 ママのお顔、こわい。

朱美 いつかリサがそう言っていた。
 だって仕方ないじゃないの。こんなに忙しいのに、睡眠時間だって少ないし、楽しみなんて何もない。由紀は私を見て、結婚なんてしないほうが良いと思ったに違いない。

(道、自転車のベルなど)

朱美 子どもたちを連れてスーパーからの帰り、家の近くまで来た時、リサが立ち止まり、よそのお庭のヒマワリの花を指差した。
リサ ママ、見て、お花が笑ってるよ。
朱美 私はぼんやりとヒマワリを見る。
 花に目や口があるわけじゃなし…。ただ咲いてるだけで、笑ってるわけじゃない。  
お婆さん (突然)あらまあ。
朱美 あっ、すみません。
お婆さん (笑う)どうして?
朱美 だって…よそのお庭を。

朱美 すみませんというのは、最近の私の口癖だ。スーパーでベビーカーを押して子ども3人連れて通る時、嫌な顔をする人がいる。私は済みません済みませんと言って通る。

リサ ママ、ヒマワリがわらってるの、おひさまみたいね。
お婆さん あらお嬢ちゃん、いいことを言うわねえ。本当にお日様みたい。あ、どうぞお庭に入ってゆっくり見てちょうだい。
朱美 でも…。
お婆さん どうぞどうぞ、遠慮しないで。お嬢ちゃんにはヒマワリのお花切ってお土産にしましょうね。そうしたら、お家の中にもお日様がいるみたいよ。
朱美 すみません。
お婆さん あらまた…。あなたはねえ、3人ものお子さんを育てているの。子どもは神様から授かった宝物よ、偉いわ、社会に貢献しているのよ。
朱美 そんなこと考えたこともありません。私は、社会とはかけ離れているって。独身時代のように会社で働いて、何かの役に立っているわけではないし…。
お婆さん 何言ってるの。お子さんは将来成人して社会に関わっていくの。だから子育ては社会に貢献よ。
朱美 社会に貢献?  
お婆さん だから胸を張って、自信を持ってね。
朱美 はい。
お婆さん あなたのお家は近いの?
朱美 そこの角を曲がった所です。
お婆さん じゃあこれからも遊びにいらっしゃいね。お子さんのお守りぐらいお手伝いできるわ。
朱美 帰り道、自然に顔がほころんで来た。「お花が笑ってる」。疲れ果てた私の顔を見て、あのお婆さんは「社会に貢献」なんておまじないを私にかけたのかもしれない。それでもいい、大事な仕事を引き受けている。「子育て」という仕事だ。

由紀 こんにちわー。朱美、久しぶりー、差し入れいっぱい買ってきたよー。

朱美 友達も家に呼ぶようになった。そして、親バカ丸出しで子どもの自慢話をする。

由紀 朱美、幸せそうだね。私も結婚して子どもが欲しくなった。

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