●ラジオドラマ「花ものがたり」
最終回「ひまわり」
金光教放送センター
登場人物
・夏子
・さだ(パン屋のご隠居・82歳)
(商店街ノイズ)
さだ 夏ちゃん。
夏子 あ、パン屋さんのおばあさん、おはようございます。今日は何のお花になさいます?
さだ (吐息)あー、つまらないの…。
夏子 どうしたんですか?
さだ こんなに良いお天気なのにね。
夏子 だから…。
さだ 今日はおじいさんの月命日なのよ。
夏子 で、お墓参り?
さだ 駄目だって。
夏子 どうして?
さだ だって、店のバイトの子が休んで、忙しいから嫁が一緒に行けないって。私、一人でも行けるのにね、年寄り扱いして…。近所はともかく、一人でなかなか外に出してくれないのよ。
夏子 お幾つ…、あ、聞いちゃ悪いかな?
さだ 82よ。でも、年で決められるのって、わたし嫌だわ。
夏子 フフ…。わたしよりお元気なくらいなのにね。
さだ あらあら、お世辞なんか言って。
夏子 いいえ~、じゃあ…、今日は注文少ないと思うから、わたしご一緒しましょうか?
さだ え? いいの?
夏子 はい。おじいさんのお好きだったひまわり、持って行きましょうね。
(鳥のさえずり)
さだ 夏ちゃんまで、ひまわりお供えして、お参りしてくれて、ありがとう。
夏子 だって、わたしおじいさんに子どものころよく遊んでもらったから、大好きだったのよ。それに電車に乗ってこんな郊外まで来るなんて、ピクニック気分ですよ。はあー、ここ空気良いし、最高!
さだ そう、じゃあ帰りに駅前のおいしいうなぎ屋さんで、お昼でもごちそうしましょうか。
夏子 あー、やったあ!
(小鳥の声など)
さだ わたしね、いつもお参りした帰りに不思議に思うんだけど、おじいさんが後ろから見守ってくれているような気がするの。同じ向きになって一緒に帰って行くような気がしてね、心丈夫になるの。
夏子 そうなんだ?
さだ それとね、若いころなんて「お父さんまた出掛けちゃって、帰ってくるの遅いわね、お酒飲んだりパチンコでもしてるのかしら。子どもは子どもで、言うこと聞かないし、勉強もしないし…」。なんてぶつぶつ言いながらご飯を作るわけ。すると、恨みつらみの入ったご飯が出来るわけでしょ。
夏子 (笑う)
さだ お風呂の掃除だって、めんどう臭いなって、ぶつぶつ言いながらお掃除してると、恨みの入ったお風呂になるでしょ。家族のみんな、毎日毒入りのご飯を食べて、毒入りのお風呂に入って、恨みのこもった洗濯物を着ていることになるの。
夏子 なるほどねー…、考えたこともなかった。
さだ でもそうでしょ、ブツブツ言いながらご飯作るのと、みんなが元気になりますようにってご飯を作るのと、違うでしょ。
夏子 確かにね。ウフフ。
さだ おじいさんがこんなこと、言ってたわ。
夏子 え?
さだ 飛行機に乗った時にね「怖いから落ちませんように」って祈ったんだって。でもね、いくら自分で祈ってもパイロットが心臓まひでも起こして、「うっ!」って言ったら一巻の終わりだって気付いたんだって。だから、飛行機で働いている人たちの無事を祈ることにしたんですって。
夏子 確かにそうだけど…。
さだ 病院でもそうよ。自分の病気のことばかりお祈りするよりも、お医者さんや看護師さんのお仕事をお祈りするんだって。患者さんが喜ぶ結果より、お医者さんが喜ぶ結果の方がいいんですって。
夏子 そうだけど、どうして?
さだ だって、患者さんがね、もう退院していいですよって言われて、良かったって喜んで帰っても、例えばお医者さんが「あれはもう手遅れで、家に帰すしかない」。そんなことだってあるわけでしょ。
夏子 それもおじいさんが言ったの?
さだ そうよ、だからお世話になっている人のことを先に祈るんだって。「パチンコ屋に行っても、そこで働いている人の幸せを願うとパチンコが稼げ…」。そこまでおじいさんが言った時の顔、見せたかったわよ。慌てて口を押さえて…。
夏子 あはは、バレたんだ。
さだ そう、パン屋の組合の仕事とか言って出掛けたのがバレて。「いやいや、つい付き合いで…」なんて。
夏子 (笑う)でも良いおじいさんだったわ。
さだ わたしもそう思いますよ。
夏子 わたしだって愛情込めてお花を売っているの。大事に飾って、みんなに喜んでもらえますようにって。
さだ 分かる分かる、夏ちゃんの気持ち。
夏子 あ、ねえ。
さだ なあに?
夏子 おばあさん、ちょっと矛盾してない?
さだ 何が?
夏子 だって、今朝お嫁さんが一人で外に出してくれないって、愚痴をこぼしたでしょ。
さだ ええ。
夏子 それは、おばあさんのことを心配してくれているわけでしょ。
さだ まあ…。
夏子 だったら、感謝しなきゃ。
(街のノイズ)
さだ あらあら、一本やられたわね。さあ、駅に着きましたよ。ここのうなぎ屋さんよ。
夏子 わあー、おいしそうなにおい!