心イキイキ、デザイン キラキラ!


●共に生きる
「心イキイキ、デザイン キラキラ!」

今北紘一いまきたこういち さん


 私の仕事は、グラフィックデザイン。これは、文字や絵などを用いて人と人、人とモノのコミュニケーションをスムーズにするものです。具体的には、ポスターや冊子、パッケージ、ディスプレイ、サイン、WEBなど広い範囲のデザインを指します。このようなデザインを通して2つのかかわりの中で感じていることをお話してみたいと思います。
 1つ目のかかわりとして、私が所属している日本グラフィックデザイナー協会があります。この協会はグラフィックデザインを通して文化や産業の向上、発展に貢献することを目的とし、事業は、展覧会、講演会、刊行物の発行や、国際交流などがあります。
 ある時、パリにある国連のUNESCOによる、シンボルマーク世界公募の記事が目に留まりました。
 これは、一人でも多くの人が文字の読み書きをできるようにする運動によるものでした。20年前、当時世界人口の約50億のうち1/5の10億人が、文字の読み書きができないという状況でした。特に、発展途上国のアフリカなどを中心とした国々では、文字が読めないため、母親が、農薬をミルクと間違え、赤ん坊に飲ませて死亡させる事件が後を絶たないということでした。そのため、これらの人々に対し、国連が学校施設をつくり、教師の派遣や教科書を与えていこうとするものです。
 私はこのような大きな問題は若いころはとても手に負えないとすぐあきらめておりましたし、また、先人の優れた言葉に対しても無関心の態度が多かったように思います。しかし自分にできることから始めなければ世界は助からない、とその時、俄然がぜん奮起し、即、教会にお参りし「お役に立ちますように…」と願いを立て、デザインに着手しました。
 デザインの考え方は、どこの国の人々が見ても、一目瞭然理解できるものであることが大切です。これを基本に、自宅や通勤途上でいろいろ、アーでもない、コーでもないとイメージを巡らせ、50点ばかりのスケッチをしたでしょうか? 最後に3点にしぼり応募いたしました。
 その後しばらくして、パリから電話の連絡が入りました。意外にもマークがグランプリに入ったとのこと。思わず「ワー、本当~?」と心の中で歓声をあげました。
 この作品は本を読んでいる人を真ん中に配置し、その両側を国連旗にもあるオリーブの枝が囲むデザインです。一夜明け、全国紙の「この人」の欄に、顔写真と共に堂々と掲載され、思わずうれし涙が溢れ出てきたことを覚えています。
 その後、このマークは、2000年までの10年間、発展途上国や先進諸国の国々で、政府書類、切手などに使用されていました。小さなシンボルマークがこんな大きな運動に貢献させて頂いたとは、まさに10億の人々に文字の読み書きが出来るように一歩前進、国際貢献をさせて頂いたのだなぁ、と改めて感動を覚え感謝せずにおられませんでした。
 2つ目のかかわりは、滋賀県内の芸術系大学であります。
 私は、この大学で講師として基礎デザインを教えています。その一つ「自分のシンボルマークのデザイン」という実習課題があります。考え方をしっかり立てさせ、ラフスケッチは100個以上。学生の中には、中々思うようにアイデアが浮かばず、不安と焦りが先立ち、落ち込む者が少なからずあります。
 私も含め、えてして人は、過去の体験については、スイスイと事が運ぶことが多いようですが、初めてのことについては悪戦苦闘の末、壁にぶち当たる傾向にあります。私はこんな時、教会に参拝し、先生にアドバイスを頂くと不思議と事が運ぶのです。
 同時に、金光教には「信心は日々の改まりが第一である。毎日、元日の心で暮らし、日が暮れたら大晦日と思い、夜が明けたら元日と思って、日々うれしく暮らせば家庭に不和はない」という教えがあります。これを分かりやすい言葉で学生に「デザインは、いつも心は晴れ、正月気分で! 成せばキット出来る。…くよくよ考えたらあかん!」と伝えます。
 すると次の週、なんと面白いアイデアが出てくるではありませんか! 白い円の中に、黒い大きな口。その中に白い豆粒ほどの点が7~8個。目や鼻は無い。そして白い円の下から駆け足で走る二本足。尋ねてみると、このデザインの考え方は「いつも星空を見つめるのが好き。そんなイメージを自分のマークとしてデザイン化したんだ」と。何ともユーモラスな元気なマークで、私のひと言でこんなに面白いデザインが出てくるとは、何とも不思議です。困っている学生には、励みの言葉、心の持ち方、改まりの言葉をかけることが大切だなぁと実感し、デザインは単なる理屈で指導するのではないということが改めて分かった次第です。
 毎日、デザイナーとして、企業の仕事や、大学の講師をさせていただく中で、いろいろな依頼事をどのようにとらえ、どのように生かせば、地域や、産業、文化、環境に貢献させていただくことができるのか? そのためには、常に教えをしっかり念頭に入れて貢献させていただくこと。人々に分かりやすく伝えるためのデザインの考え方とその表現が重要であること。そして最後に、デザイナーの資質、すなわち人に優しい温かい資質がなければ務まらないということ。この3点を肝に銘じてさらに前進させていただきたいと心に誓っているところです。

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