お役に立つ人になります


●先生のおはなし
「お役に立つ人になります」

兵庫県
金光教常盤木ときわぎ教会
原田恵一郎はらだけいいちろう 先生


 私が奉仕する教会に沙也香さやかさんという、大学1年の女の子がいます。
 この沙也香さんは生まれた時から両親に連れられて教会に参っていました。教会には子ども会があります。この沙也香さんも幼い時から、その子ども会の集会にはよく来ていました。
 この子ども会には誓いの言葉があります。それは「教祖様の教えにより信心を進め、お役に立つ人になります」というものです。このお役に立つ人になることを願いとする子ども会は、野外活動を中心に、駅前での募金活動や、施設への慰問活動、災害復旧活動などのボランティア活動を含めて、月に2回ほどの集会を行っています。その沙也香さんも、子ども会でのボランティア活動のなかで、様々な苦労はあっても、それをやり遂げた達成感と充実感を味わって育ったうちの一人です。
 そんな沙也香さんも高校生となり、進路を考えるころとなりました。2年生になった一昨年のこと「国際関係」という授業で大変な衝撃を受けました。世界の多くの子どもたちが学校にも行けず、働かされているという現実を知りました。また、貧しい国での児童虐待のことや、児童の労働に対して、不当に賃金を支払わないという事実も知りました。そんな世界で起きている問題を学んだ時、自分の生活がこの上もなく恵まれていることを知ったのです。そして、沙也香さんは心に誓ったのです。「私は将来、難民の子どもたちを助ける仕事に就きたい」と。
 そう誓った沙也香さんは、いろんな大学の資料を集めました。そのなかで、A大学の国際関係学部の資料に巡り会い、昨年の夏休み、入学を希望する人たちに施設を紹介するオープンキャンパスに行きました。そこは予想以上に、国際関係を勉強するには最適な大学でした。でも、沙也香さんの学力では到底難しい大学であることも事実でした。「でも入学したい! この大学で勉強したい!」という思いで胸がいっぱいになりました。
 沙也香さんは、私の奉仕する教会に参ってきました。「先生! 昨日、A大学のオープンキャンパスに行って来ました。心から入学したい大学に巡り会いました。一生懸命に勉強しますので、ぜひ合格させて下さい」と願って来たのです。私は、その真剣な眼差しに打たれて神様に取り次ぐ、祈りを捧げました。
 それから私は毎日祈り続けました。そして約4カ月が過ぎた秋に、推薦入試を受けました。その結果は残念ながら不合格でした。そして年が明け、一般入試を受けることになりました。そしてそのA大学以外に、B大学も受験をしました。A大学に至っては2回受験しましたが、いずれも不合格でした。でもB大学には合格しました。教会にやって来た沙也香さんは「神様にお願いして、やるだけのことはやった結果です。B大学に行って、これからも難民の子どもを助ける仕事に就く、という夢は諦めずに頑張ります」と元気に話しました。
 ところが次の日の朝、担任の先生から電話が掛かってきたのです。その内容は「沙也香さんが非常に頑張っていたことは先生もよく知っている。だから非常に残念でならない。出来れば、3月の後期試験に再チャレンジしてみないか!」というものだったのです。しかし、沙也香さんは、長い間の受験勉強に疲れ、気力も限界に達していました。もう今から気持ちを切り替えての受験はできませんと、担任の先生には申し訳ない気持ちいっぱいでお断りしたのです。
 電話を切り、部屋に戻った沙也香さんは、机に向かってメモに「私はB大学に行くんだ!」「私はB大学に行くんだ!」と何回も書いては、自分に言い聞かせていました。しかし、担任の先生の言葉がどうしても耳から離れず、沙也香さんは、学校に行って担任の先生と話し合うことにしたのです。
 家族や担任の先生と話し合った沙也香さんは、教会に参って来ました。そして開口一番、私に「やっぱり先生! A大学の国際関係学部に行きたい! 今、担任の先生とも話し合ってきました」と言って、その場で泣き崩れたのです。私は沙也香さんの一心に打たれて目頭が熱くなり、思わず「悔いが残るか!」と聞きました。すると沙也香さんは「はい」と答えました。「じゃ分かった! 願い主が諦めてはならない。難民の子どもたちを助けるための仕事に就くことに、一番適した大学であり、そのチャンスがあるんであれば、その夢に向かって、もう1回挑戦してみよう!」と申しました。
 そして3週間後、4回目の挑戦となるA大学受験に取り組んだのです。ところがその結果は、またしても不合格でした。
 その報告に、教会に来た沙也香さんは、なぜかさっぱりした面持ちでした。それは、沙也香さんのお母さんがいつも言う「神様にお願いしてできた結果は、あとあとすべてよし。おかげになる」と、幼い時から聞かされていたからこその潔さでした。
 その沙也香さんは私に言いました。「先生、不合格でした! でも夢に向かってB大学で頑張ります! 夢は諦めません。…わたし、お役に立つ人になれますよね、先生」。
 そう言って私と固い握手をかわした彼女の眼差しは、未来に向かって光り輝いていました。

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