●ラジオドラマ「ようお参りです」
第2回「私だけ、どうして…」
金光教放送センター
登場人物
・美恵子(40代)
・さゆり(美恵子の友人)
・教会の先生(70歳・男性)
(喫茶店)
さゆり どうしたの美恵子、ここのケーキおいしいのよ。食べないの?
美恵子 うん。
さゆり もう、久しぶりに会ったのに、さっきから「うん」「うん」ばっかりで。顔色悪いし、体どこか悪いの?
美恵子 べつに…。
さゆり じゃあ、何か心配事?
美恵子 …。
さゆり 何か悩んでるんだったら、私の行ってる教会の先生に相談してみたら? とっても優しいおじいさんの先生よ。
美恵子 教会って宗教でしょ。宗教って何だか怪しげだし、嫌だわ。
さゆり もうっ! 失礼ね! 心配してあげてるのに。私、帰る!
(街のノイズ)
美恵子 ここだわ、さゆりの言ってた教会。あ、掲示板がある。(読む)『あなたは一人で悩んでいませんか。一人で重い荷物を背負っていると倒れてしまいますよ。お話を聞かせて下さい』
どうしよう…。
先生 よく来られましたね。お話を伺いましょうか。
美恵子 あのー。
先生 は?
美恵子 話を聞いていただくのに、お礼というか、お金…なんかは…。
先生 はは、結構ですよ。
美恵子 …実は、…夫のことなんですが。
先生 はい。
美恵子 こんなことを言うのはお恥ずかしいんですが…。
先生 私がここでお聞きすることは、誰にも話しません。ご安心下さい。
美恵子 …夫が…アルコール依存症で…。
先生 はい。
美恵子 こんなこと言うの変ですが、夫は一流企業の社員で。でも、度々お酒が原因で失敗して。会社を遅刻して、私がそれをかばったり。酔っ払って駅で眠り込んで駅員さんから連絡を受けたり。
先生 ええ。
美恵子 アルコール依存症の診断は下されているんです。今までも専門の病院に入院を繰り返していました。退院する度に「もう酒は止める」って宣言するんですが。
先生 その繰り返し…?
美恵子 はい。会社もそのことを知っているので、責任のある仕事を夫には与えないし、それが不満で夫はまた腹を立ててお酒を飲むんです。
先生 なるほど。
美恵子 で、夫は家の中でもお酒を隠すんです。私がそれを探して捨てる。たんすの中にあったり、本棚の後ろに隠してあったり、もういたちごっこ…。
先生 ほう…。
美恵子 日曜日に夫がちょっと出かけるって言うんで、私も一緒について行ったんです。本屋さんに入ったので、安心して私も本を見ていると、いつの間にか夫が消えている。探し回ると、コンビニの前でお酒を飲んでるんです。私…もう情けなくて、情けなくて。疲れてしまいました。(吐息)
(やや・間)
美恵子 あっ、済みません。長々とグチを申しまして。多分先生は「そんなことを言ってはいけない」っておっしゃるんでしょうね。
先生 いいえ。あなたはこれまでとてもご苦労をなさった。誰にも相談せずに一人で抱え込んでこられたんですから、グチを言いたくなるのは当たり前です。
美恵子 …ありがとうございます。聞いていただいて、気持ちが少し楽になりました。
先生 では、いろいろ伺いましたから、これからあなたとご主人のことを神様にお願いさせていただきます。
美恵子 先生はくるりと祭壇の方を向き、長い間、神様にお願いしてから私の方を向いて。
先生 どうぞご安心下さい。もうご主人のことは神様が責任を持って下さいますからね。あなたが責任を持たなくていいんですよ。ご主人がお酒を飲んでも放っておいて下さい。あなたはこれまでいろんなことを我慢された。もう自由になさっていいんですよ。
美恵子 えっ、本当ですか?
先生 はい。
(救急車のサイレン。電話のベル)
先生 あ、もしもし。
美恵子 (電話の向こう)先生! 夫が酔っ払って道で倒れて、頭を強く打って血を流して、病院に運ばれました。
先生 それはご心配ですね。無事に回復されますように、お祈りします。
美恵子 それからひと月程して、私は教会に行った。
先生 その後いかがですか?
美恵子 この前先生がおっしゃったこと、私、信じてみようと思って、夫がお酒を飲んでも黙って放っておいたんです。すると、お酒の量がどんどん増えて…。
先生 はい。
美恵子 でも、先生がお願いして下さってると思うと不思議に心が落ち着いて。それで、あのけがも思ったより軽くて退院したんですが、夫が急に改まって「話がある」って。そして「これまで迷惑をかけたけど、もう酒は一口も飲まないように頑張ってみる」って言ったんです。
先生 良かったですねー。神様が助けて下さいましたね。
美恵子 はい。友達も旅行に誘ってくれるようになって。今までは、夫のことが心配で行けなかったんです。
先生 ゆっくりと楽しんでいらっしゃい。
美恵子 私、信心って何か堅苦しいことだと思っていましたけど、そんなことはないんですね。
先生 はい、そうですよ。神様と一緒に、安心して楽しく生きて行くのが信心なんですよ。
美恵子 (元気に)はい。