●ラジオドラマ「ようお参りです」
第4回「離婚する…?」
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金光教放送センター
登場人物
・洋子(50歳)
・あけみ(洋子の娘・25歳)
・茂(洋子の夫・52歳)
・教会の先生(60歳・男性)
(バタン! 玄関ドア閉まって)
あけみ ただいま、お母さんお母さん!
洋子 どうしたの? 騒々しい…。
あけみ お父さんは?
洋子 会社。
あけみ 日曜なのに?
洋子 ここのところ忙しいんだって。だから、土日も出勤。
あけみ うそ!
洋子 え?
あけみ 違う!
洋子 何言ってるの?
あけみ ラーメン屋。
洋子 ラーメン屋って?
あけみ 週刊誌で見た行列の出来るラーメン屋に、友達と今日行ったの。そうしたらお父さんが働いてるところを偶然見たの。
洋子 ハハ…(笑う)もう、そんなわけないでしょう。
あけみ 実の親よ! 見間違えるわけないわよ! 前は土日は家にいたわ。
洋子 だって、背広にネクタイしめて出かけてるのよ。
あけみ お父さん!
茂 何だ?
あけみ 今日、お父さんをラーメン屋で見た!
茂 え!?
洋子 あけみって変なこと言うの。フフ…。
あけみ 否定しないの?
(やや間)
茂 ああ。
洋子 そうなの? どうして!?
茂 (重苦しく)…会社…リストラされた。
洋子 えーっ! いつ?
茂 3カ月前。
洋子 どうして早く言ってくれなかったの?
(やや間)
洋子 都合が悪くなると黙っちゃうのね。再就職先がラーメン屋ってどういうこと?
洋子 開き直ったのか、夫は次の日から普段着で出かけるようになった。何の説明もなく、私とのけんかの日々が続くようになり、家の中は氷のように冷え切り…。
あけみ お母さん、私、この家を出る。
洋子 あけみ! 何を言うの?
あけみ こんな家いられない、もう決めたの。私、一人暮らしする。…私…ラーメン屋に行かなきゃよかった。お母さんに言わなきゃよかった。後悔してる。
洋子 この家は積み木を崩したようにガラガラと壊れていく。私の頭の中には「離婚」の2文字がちらつく…。パートを探して働きだした。
(自転車のベルなど、町の様子)
洋子 パートの帰りに金光教の教会の前を通る。表に掲示板が出ている。いつも横目で通っていたのだが、ふとその文字に目が行った。
「夫婦は他人の寄り合いです」
本当にそうだ! ついふらふらと教会の中に入った。
先生 どうかなさいましたか?
洋子 あ、あの、表の掲示板に。
先生 はあはあ。
洋子 「夫婦は他人の寄り合いです」って。本当にそうだと思います。私あれを見て、離婚の決心が固まりました。夫は自分のことは何も私に話しませんし、詳しく聞き出そうとすると、怒るか、黙ってしまうか、どっちかです。もう一緒に生活していくことなんて出来ません!
先生 では…あなたの心が納得して離婚出来るように、神様にお願いしてみますか?
洋子 心が納得って…?
先生 人にはそれぞれ、いろいろな生き方がありますからね、離婚もあなたの生き方です。んー…。ではご主人を責める前に、あなたの良いところを見つけ出してみませんか?
洋子 そうすれば、納得して離婚出来るのですか?
先生 はい。1週間後、あなたの良いところを探して、またここに来て下さい。
洋子 1週間ずっと、私は「自分の良いところ、良いところ…」と考えながら過ごした。
先生 どうでしたか、良いところはたくさんありましたか?
洋子 いいえ、一つもありませんでした。かえって嫌な面ばかり浮かんできました。夫を責めてけんかばかりして、そんな家が嫌で娘は出て行ってしまいました。全部私のせいです。夫はリストラに遭って、家族に心配をかけたくなくて言い出せなかったのだと思います。(涙声)夫の方が、私の百倍も苦しんだ…。
先生 そんなに自分を責めなくていいのですよ。ご主人のことを思いやる、それはあなたの心の中に神様がいる証なのです。…ところで、表の掲示板、最後まで読んでここに来られたのですか?
洋子 いいえ…。
先生 ハハ…、ではご一緒に。
(外に出る。交通音)
洋子 (読む)「夫婦は他人の寄り合いです。けんかをしても、後から仲直りをすると、どうして仲直り出来たのかと不思議に思いませんか? それは天地の神様より授かった心があるからですよ」
あっ、私慌て者で…。
洋子 顔が真っ赤になった。
先生 (笑いながら)いやいや。
洋子 また、お伺いしてもいいですか?
先生 ええ。いつでも、どうぞ。
洋子 その1年後、夫は小さなラーメン屋を開店した。開店の日、教会の先生も来て下さった。
(ラーメン屋の雰囲気)
あけみ いらっしゃいませー。はい、みそラーメン2つですね。
洋子 毎度有難うございます。ご注文は、はい、バターラーメンに…。
あけみ お父さん、頑張って行列の出来るお店にしようね。私、ホームページ作るよ!
茂 おう、頼むよ。