●ラジオドラマ「ようお参りです」
第7回「言葉はナイフより痛い」
金光教放送センター
登場人物
・大介(子供)
・父(大介の父・教会の先生)
・母(大介の母)
母 大介、ご飯よー。
大介 …。
母 (呼ぶ)大介ー。
父 庭におるんや。
母 何してるの? こんな夕方に。
父 リフティングの練習やろ。
母 リフティングて何?
父 サッカーとラグビーの区別もつかん母さんに、説明してもなあ…。
母 もう、そんなら、早よ呼んできて。
(カラスの鳴く声。リフティングの音)
大介 95・96・97・98・99・100…
父 お、大介、えらい続いてるやないか。
大介 101・102…あー、新記録やー!
父 はは、そのスパイク気に入ったか?
大介 うん、友達がカッコええって。
母 もう、二人とも何してるの。呼んでるのに。
大介 数、数えてたんや。返事したら分からんようになるやん。
父 私は金光教の教会の先生をしている。
ある日のことだ。大介が学校帰りに教会に来た。ぼんやりと隅の方に座っている。
父 大介、どないした。
大介 …。
父 どないしたて、聞いてるんや。
大介 神様は僕のお願い聞いてくれはるやろか?
父 お前、今までお祈りもろくにしたことないのに…。お父ちゃんに言うてみ。
大介 転校して、部活に入ってきた子がおるねん。
父 うん。
大介 その子、前に住んでたとこで、サッカーのクラブチームに入ってて、ものすごうまいんやけど、僕らがミスすると「うざい」とか「このどアホ」とか言うねん。
父 ああ、そらあかんなあ。皆黙ってるのか?
大介 言い返せるようなやつおらんし、言い返せへんほどそいつは上手なんや。そやからサッカーやっててもちっとも楽しいことない。
父 楽しみながらやるのが一番やのになあ。
大介 うん、上級生は「あいつはあんなやつやから、あんまり気にするな」て言うてくれるけど、誰も何も言わへんし、どんどん付け上がるんや。毎日走ってボール蹴って、一生懸命に練習してんのに、レギュラーにもなられへんし、僕、部活がしんどうなってきた。
父 大介が可哀想や思うし、その子に対しても腹が立つ。しかしこういう経験も将来役に立つかと、私は祈るだけやった。
夏休みに入った、部活は毎日ある。朝になると…。
父 おい大介、いつまでトイレに入ってるんや?
大介 お腹が痛いんや。
父 毎日やないか、もう20分も入ってるで。どこか悪いんか? 病院に行こか。
大介 ほっといて!
父 その夜、大介に聞いた。
父 どうや、まだその子何か言うてくるんか?
大介 もうええやん。
父 言葉はナイフやからなあ。
大介 ナイフより痛いわ。「うっといねん」とか「死ね」なんか言われたら、自信なくすし、そんでまたミスしてしまう。もう嫌や、辞めてしまいたい。
父 辞めたい割合は、どれくらいや?
大介 8割や、けど2割は続けたい。サッカー好きやから。
父 そうか…。
大介 もし辞めたい言うても、監督は辞めさせてくれへんと思うわ。
父 うん、分かった。もしお前が辞めとうなったら、お父ちゃんが何としてでも辞めさせたる。いつでも言うんやで。
大介 うん。
父 大介の安心した顔を見て、「神様は大介と一緒になってこのつらい状況を支えて下さっている、守られて頑張っている」そう思った。
(ひぐらしの鳴き声)
母 大介、おかえり。
大介 (深いため息)ハーッ!
父 どないした?
大介 9対1や、9割辞めたい。
父 明日、自分で判断してこい。もう辞めてもかまへんからな。
大介 分かった。
父 私は神様に「大介に、自分で続けるか辞めるか判断させます。本人はサッカーが大好きです。どうぞ続けることが出来ますように」とお願いした。
父 あいつ、どうするかなあ。
母 同じこと何遍も言わんといて。
父 お前かて、さっきから落ち着かんやないか。
(ドアを開ける音)
大介 お父ちゃーん。
父 お、大介どうやった?
大介 神様ってすごいなあ。
父 え? どういうことや?
大介 監督がな、今まで頑張ったから、今日からお前はレギュラーやって。そんなん言われたら、辞めるなんて言われへんやん。
母 へえー、そうやったん、良かったなあ。
大介 秋に隣町の学校との試合があるんやって。
父 神様が私たちを包み込んで「大丈夫。この子はここを通って成長しているんや、安心しなさい」と言われているのを感じた。
(ワアーワアー、歓声)
父 おい、見てみ、大介が…、ワアーやったー!
母 何をやったん?
父 大介がアシストして、1点入った!
母 アシストて何?
父 ああ、もうー、面倒臭いなー。
母 お父さん、大介がこっち向いて手振ってるよ。