●ラジオドラマ「ようお参りです」
最終回「ひとりじゃない」
金光教放送センター
登場人物
・教会の先生(70歳・女性)
・理沙(中学生)
・父(理沙の父)
(病院のノイズ)
理沙 おばあさんは…あ、ごめんなさい、えっと…。
先生 おばあさんでいいのよ。
理沙 いつもお見舞いに来る人が先生って言ってるけど、何を教えてる先生?
先生 学校の先生じゃないの。
理沙 え?
先生 金光教って教会の先生なの。
理沙 教会の? だからいろんな人がお見舞いに来るのね。
先生 そうよ、私はその人たちのお話を聞いていたの。
理沙 どんなこと?
先生 何でもいいの。その人が聞いて欲しいこと。
理沙 じゃあ、私の話も聞いてくれる?
先生 もちろんよ。ベッドのお隣さんなんだから。
理沙 私ね、白血病なの。骨髄移植以外に治る方法はないんだって。私死んでしまうのかしら?
先生 大丈夫! 治るためにこうして病院に入院しているの。あきらめたら駄目。…理沙ちゃんは、何年生?
理沙 中学3年生。高校受験で一生懸命勉強してたのに…。学校に行きたい、友達と遊びたい。それなのに卒業式にも出られない。私の人生はもう終わり。
先生 終わりじゃない! 理沙ちゃん、病気に勝つって強い気持ちを持つのが一番大事なのよ。
理沙 でも…今の私の世界は、この窓から見える四角い空だけ。動く物は雲だけ。
先生 ちょっと待っててね。
(引き出しの開け閉め)
先生 ねえ、この手鏡で外を見られるかしら。鏡の角度を変えるから、見えたら言ってね。
理沙 うん。
先生 どう? こう?
理沙 …あっ。
先生 こうかしら?
理沙 うん、車が走ってる、ビルとか、人が寒そうに歩いてるのが見える。
先生 そうよ、みんな生きてるの。理沙ちゃんも生きてるのよ。希望を捨てないでね。
理沙 ねえ、あそこで光ってるの…。
先生 ん? ああ、クリスマスのイルミネーションよ。
理沙 もう…?
先生 ええ、夜になったらもっと奇麗よ、また見ましょうね。
理沙 うん、ありがとう。
先生 ふと、理沙ちゃんの枕を見てハッとした、髪の毛が抜け落ちている。そっとくず籠に捨てた。鏡は…引き出しにしまう。
父 理沙、遅くなってゴメンな。実はね、ママが自転車とぶつかって、転んで、足の骨を折って。
理沙 え! 入院したの?
父 いや、それほどひどくない。でもここに来られなくなった。これからはパパがなるべく会社の帰りに来るから、な。
理沙 うん…。
先生 その夜、理沙ちゃんは泣いていた。私は、理沙ちゃんが助かりますように、助けて下さいと、お祈りした。
(公衆電話をかける)
先生 あ、もしもし私。あのね、お見舞いの人、断ってちょうだい。あ、それとピンクの毛糸と編み針買ってきてね。
先生 ある朝のことだ。
理沙 おばあさん!
先生 どうしたの?
理沙 ゆうべ夜遅くパパが来たの。それでね、いい知らせが2つあったの!
先生 何?
理沙 一つはね、骨髄の適合者が見つかって、移植を受けられるって。
先生 良かったわね!
理沙 うん。
先生 もう一つは?
理沙 あのね、クラスの友達の寄せ書き。
先生 見せてもらっていい?
理沙 いいわよ…うーんと…これ。
先生 (読む) 「理沙、早く元気になって、また一緒に遊ぼうね。由香」 「理沙ちゃんのお休みの間のノート、私のを見せてあげるから。琴子」
わあー、他にもぎっしり書いてあるわねー。
理沙 うん。私…私…一人ぼっちじゃなかったのね。
先生 そうよ、いろんな人に支えられてるのよ。骨髄を下さる方もそう。
理沙 私は、新しい命をもらうのね。
先生 理沙ちゃんがあまりに可愛くて、リンゴのような頬っぺたをつついた。
ねえ、これは私からのクリスマスプレゼント。
理沙 わあー、ピンクの帽子可愛い…。ありがとう!
先生 やがて私は退院した。理沙ちゃんのお見舞いに毎日行った。しかし、理沙ちゃんの治療が進むにつれて、だんだん会えなくなった。
私は理沙ちゃんのことをひたすら祈りながらも、日々は過ぎて行った。
先生 5年ほど経ったある日。
理沙 ごめん下さい。おばあさん、私のこと分かる?
先生 まあ、理沙ちゃん!? すっかり元気になって!
理沙 今日、私の成人式なんです。
先生 おめでとう! 本当におめでとう!!
理沙 あのね、昨日友達から、中学の教室に来てくれって言われたの。行ったら、教室に卒業式の飾りつけがしてあって、先生や友達が揃ってて、私に卒業式のプレゼントしてくれたの。
先生 まあー!
理沙 これ、その時の写真です。おばあさんにぜひ見てもらいたくて。