ラジオドラマ「鈴木家の教訓」第1回「ケーキの分け方」


●ラジオドラマ「鈴木家の教訓」
第1回「ケーキの分け方」

金光教放送センター


登場人物
 ・鈴木すずき信一郎しんいちろう(祖父・78才)
 ・鈴木 房子ふさこ(祖母・74才)
 ・鈴木 清一せいいち(父・45才)
 ・鈴木 治美はるみ(母・42才)
 ・鈴木 美絵みえ(中学2年生)
 ・鈴木 まこと (小学4年生)


誠   僕の名前は誠、苗字は日本で一番多い鈴木。家は東京の郊外にあって6人家族だ、おじいちゃんは…。
信一郎 オッホン。鈴木信一郎。
房子  鈴木なんて誠がさっき言ったから、言わなくていいのよ。私は房子。
誠   これはおばあちゃんだ。そしてお父さん。
清一  僕は清一、会社が忙しくてたまらん。
治美  あら、このご時世に忙しいのは結構だわ。私は治美。
誠   お母さんだ、パートに行っている。そして、何事もぶきっちょな姉ちゃんの美絵…。
美絵  こらー誠! ぶきっちょとは何よー!

(ワンワン)

誠   あっ、ジローが外でほえてる。
美絵  逃げるな誠、待ちなさい!

(風呂場、シャワーの音)

誠   うん、ピッカピカだ。奇麗に掃除出来た。お母さーん、お風呂の掃除終わったよー。
治美  はい、ご苦労さん。それじゃ30円。

誠   僕はこうして家の手伝いをして、お小遣いをもらっている。何でも1回30円だ。お皿洗いも30円。僕はせっせと貯金をしている。絶対に欲しい物があるんだ。それはゲームソフト! そのためならちょっと欲しい物でも我慢して貯金をする。
    ある日のことだ。

美絵  ねえ誠、今日お母さんのお誕生日よ。
誠   あ、そうだった!
美絵  でさあ、2人のお小遣いでお母さんにバースデーケーキ買わない?
誠   えっ! 僕…そんなにお小遣いたまってないよ!
美絵  何言ってるの、時々貯金箱のぞいてニヤニヤしてるくせに。
誠   姉ちゃん、僕の貯金箱見たの? 最低ー!
美絵  失礼な! 誰がそんな! さ、行こ。

(商店街のノイズ)

美絵  誠、そんなにブスッとした顔してついて来ないの! お母さん絶対に喜ぶから。
誠   そんなこと分かってるさ!
美絵  あっ、ここ、ここ。ここのお店のケーキ、超おいしいんだって。
誠   あっちの方にもケーキ屋あるよ。
美絵  駄目よ! あそこは安いけどおいしくない!
誠   そうだけど…。
美絵  さ、入ろ。

(ドア、カランコロン)

誠   (小声)ヒェー! 姉ちゃん、メッチャ高いよー。僕たちのお小遣いでこんな大きなバースデーケーキなんて買えないよ。
美絵  それは、まあ、そうだね。家は6人家族だからね。
誠   (小声)このケーキの値段なら、ゲームソフト買える…。
美絵  誠、何ブツブツ言ってるの?
誠   別に…。あのさあ、お母さん一人に1個だけってのは駄目かなあ。
美絵  それじゃあ、意味がない。あのさ、ほらあれ。
誠   あの、ちょっと小さ目の?
美絵  そう、あれなら何とかみんなで分けて食べられると思うよ。あれにしよう。
誠   うん…。(ほとんど独り言)でも高いよなあ…。 

(ハッピーバースデーお母さんの歌)

治美  ありがとう! 2人からこんな素敵なプレゼントもらうなんて…。すごくうれしいわ。
美絵  (小声)良かったじゃん、誠。
誠   (小声)うん!

(皿やフォークの音など)

治美  奇麗なケーキ、切っちゃうのもったいないみたい。
誠   ねえ、早くしてよ。
美絵  じゃあ私が切る。
誠   姉ちゃんはぶきっちょだから駄目。おばあちゃん。
房子  はいはい。じゃあね、うん、うん。…あらら、あらあら…。
誠   大っきいのや小っちゃいのが出来たー! 
美絵  誠の真剣な目! 魂胆は分かってるよ。
誠   姉ちゃんの意地悪!
美絵  (歌うように)今日はお母さんのハッピーバースデー。
誠   (心の中で)じゃあお母さんが一番大きいの、次に大きいのが僕かな…。
信一郎 そう言えばなあ…。
美絵  何?
信一郎 去年の震災の時、食べ物が行き渡らなくて、一切れのパンやおにぎりを、みんなで分け合って食べてたって話を、テレビで見たような気がしたなあ。
房子  そうでしたねえ。人への思いやりや助け合いの心に感心しましたね。物が豊かになると、そういう心が影を潜めてしまうから。
信一郎 自分の欲を捨てて…。
誠   自分の欲って?
信一郎 欲望。欲しいと思う心を手放すことかな。
誠   欲を手放す?
信一郎 そうだよ、なかなか難しいことだと思うがね。そうして震災の後、みんなで助け合っていたんだ。立派なことだと感心したよ。
誠   ふーん、すごいね。僕なんか…。
美絵  …出来る訳がない。
誠   どうせそうだよ!
清一  おいおい、母さんの誕生日へ話を戻そう。
房子  そうそう、じゃあお皿に分けますよ。はい、はい、はい。
誠   お母さんに一番大きいの!
治美  あらあら。
誠   だって、今日の主役だから。
美絵  誠、言うねえ。見直したよ。じゃ、次に大きいのは?
誠   うーん…。じゃあ、年の順でおじいちゃん。
信一郎 いやいや、私は年寄りだから…。

誠   (心の中で)僕は泣く泣くお金を出したんだけど、一番小っちゃなケーキで我慢しよう。おじいちゃんが言った、「欲を手放す」っていうのをやってみよう。でも、すごい決心がいるなあ…。
治美  誠。
誠   え? 何か言った?
治美  何ボーッとしてたの? 私のこの大きいケーキをどうぞ。
誠   えっ、いいの? 本当に?
治美  いいのよ。誠がおいしそうに食べるのを見ているのが、私には2つ目のプレゼント。
美絵  誠、良かったね。
誠   へへっ。

(ワンワン)

誠   あっ、ジロー。僕このケーキの上のイチゴ、ジローにあげてくるよ。
美絵  誠、イチゴ大好きなのに…。
誠   いいんだよ、ジローにだってお母さんのお誕生日を祝って欲しいもの。

誠   今日の教訓『欲を手放すと、みんな笑顔に』

ジロー(犬)ワンワン。

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