●ラジオドラマ「鈴木家の教訓」
第7回「ドッジボール」
金光教放送センター
登場人物
・誠
・治美
・清一
治美 誠、何ぐずぐずしてるの? 学校遅れるわよ。
誠 …うん。
治美 どこか具合悪いの?
誠 そうだったらいいんだけど。
治美 何言ってるの?
誠 ああ、学校、行きたくないなー。
治美 どうして?
誠 だって今日の体育の時間、ドッジボールなんだよ。苦手なんだ…。
治美 ふーん、フフ…。
誠 あっ、お母さん、笑った。ひどい!
治美 だって、私も小学校の時、ドッジボール苦手だったの。ぶつけられてアウトになってばっかりだった。
誠 へえー。
治美 下手くそでも一生懸命やればいいのよ。ちょっとは元気出た?
誠 うん、行って来まーす。
治美 その日の夕方。
治美 誠、ドッジボールどうだった?
誠 あのね、頑張ってやろうと思ってたんだ。僕のところにボールが転がって来たから拾って、「うまく投げよう!」と思ったら、武志って強い子が「誠は下手くそだから」って言って、僕のボール取り上げて投げちゃった…。(涙声)せっかくチャンスだから頑張って投げようと思ったのに…。
治美 誠、その武志ってお友達も、悪気があって言ったんじゃないと思うよ。だから、言われたことも気にしないの。
誠 でも…悔しい…。
治美 ほら、手のひら広げてごらん。
誠 え?
治美 5本の指があるでしょう。その指が皆同じ長さだったらどう? 物もつかみにくいし、きっと手も握りにくいんじゃないかな。長い指や短い指があるからいいの、それぞれ個性があるのよ。人間だって得意なものもあれば苦手なものもあるでしょ。
誠 …うん。
治美 そうだ、私も高校のころすごい苦手なことがあった。
誠 何、それ?
治美 家庭科の授業、縫い物。
誠 へえー。
治美 針はしょっちゅう手に刺すし、出来上がりがゆがんだりして…。
誠 でも僕の幼稚園の時のお弁当袋なんか、お母さんが作ったんでしょ。
治美 そうよ、頑張ったのよ。誠も頑張ったらうまくなると思うよ。お父さんとドッジボールの練習したら?
誠 うん!
治美 それにね、誠だって得意なものもあるでしょ。
誠 えー?
治美 ほらー、大好きな恐竜のことなら、何でもよく知ってるじゃない。
誠 そっか、そうだよねー。
治美 この間の恐竜展を見に行った時の作文…、えーと、ジュラ紀は…。
誠 アロサウルスやステゴサウルス。そして白亜紀には、プテラノドンやティラノサウルス。お母さん。
治美 なあに。
誠 恐竜ってみんな首が長いと思ってるでしょ。
治美 そうよ、思ってる。
誠 首の短い恐竜も居たんだよ。
治美 へえー。
誠 竜脚類のディクラエオサウルスの仲間で…。
治美 あー、もういいわ、恐竜の名前って舌をかみそう…。ね、あの作文、先生にとっても褒めてもらったでしょ。
誠 うん、分かった。僕、お父さんとドッジボールの練習して、上手になるよ。
(カラスの鳴き声)
清一 誠、緩いボール投げるからな、受けろよ。
誠 うん。
清一 行くぞ。
誠 いいよ。
清一 えいっ!
誠 (ボールを受ける)あっ、取れた!
投げるよ。
清一 (ボールを受ける)おう、そら!
誠 (ボールを受ける)ヤッター。えい!
清一 (ボールを受ける)よーし、その調子だ。今度はちょっと強いボール。いくぞ。
誠 いいよ。
清一 えいっ!
誠 (ボールを受ける)わあ!
清一 受けられたじゃないか。
誠 えいっ!
清一 (ボールを受ける)よーし、もう一丁。ほら。
(ガシャン、犬小屋に当たる)
(キャン、キャン!)
誠 お父さん、もうちょっとでジローを直撃するところだったよ。
清一 ジロー、ごめんごめん。僕も久し振りだからなー、手元が狂っちゃった。いくぞー。
誠 オッケー。
清一 両手でしっかりと受けろ。
誠 分かってる!
清一 おっ!
誠 (ボールを受ける)よし! えいっ!
清一 (ボールを受ける)いいぞ、いいぞ。
(朝、鳥の鳴き声)
治美 おはよう。お父さん顔しかめてどうしたの?
清一 久し振りに運動して、筋肉痛だ。あ痛たた…。
治美 あらまあ、でも当分は練習続くかも…。
清一 そうだな…、覚悟しなきゃな。
治美 運動不足のあなたのためにもいいんじゃないの?
清一 何だよ、ニヤニヤして…。
治美 練習の成果か、誠は、授業以外の昼休みもドッジボールの仲間に入っているとうれしそうに言った。ある日のことだ。
誠 お母さんお母さん。今日ね、クラスの中でも強いボールを投げる友達のが取れたよ。それで投げ返してアウトを取った。
治美 そう、練習したかいがあったわねー。
誠 ドッジボールが楽しくなった。
治美 良かったねー。
誠 翔君って友達がいるの。翔君が他の友達から、「早く投げろよ、何ぐずぐずしてんだ」って言われて元気がなかったから、僕が、「大丈夫? 気にしなくていいよ」って言ってあげたんだ。
治美 そう、誠は偉い。以前の誠と同じ思いをした翔君に声を掛けて上げたのよね。翔君もその内に、誠みたいに頑張れるといいね。
誠 うん! あのね、今はお母さん縫い物得意だけど、お母さんのもっと得意なものってあるよ。
治美 えー、何だろう?
誠 遠足や運動会の時のお弁当、いつも最高だよ!
治美 誠ったら…、アハハッ、ありがとう!
治美 今日の教訓『みんなそれぞれ良いところがある』