●信心ライブ
「育子さんの宝物」
金光教放送センター
(ナレ)金光教の集会で行われた発表や講話などを録音で紹介する「信心ライブ」。
今日は、滋賀県・大津教会の山口育子さんが平成23年7月、金光教京都西部教会連合会の集いで行った講話をお聞き頂きます。
(山口)ちょうど高校3年の時に、父は、父の商売は高級応接セットを売る仕事でね。大丸とか高島屋、阪急さんとかに入れさせていただいて、商売をさせていただいておりました。ある時2千万の不渡りを頂いてね。それを挽回しようと思って色んなことをしたんですが、裏目裏目に出て、結局は倒産ということになりました。ちょうどそれが、私が高校でね、これから進路をどうするかというところでした。
父は羽振りのいい人なのでね、商売している時には、面倒見もいい父やったそうです。が、倒産てなったらね、一応家を売って、社員さんが住んでた横の、倉庫の上に私たちは引っ越したんですね。
それまでは、本当にお中元とかお歳暮は、50くらい業者の方が来て、いつも母が、「何々さん、何々」て書いてたぐらいしていました。で、もう倒産てなった時にね、皆さんにご迷惑を掛けるので、母は本当に、心を痛めたと思います。当然、今まで来たお中元お歳暮を持ってくる人もいない中、1人、ナカジマさんという人が、母を訪ねて来たんですね。 その時に、ちょっとお中元やったかお歳暮やったか忘れたんですけど、持ってきてくださってね、「これどうぞ」言うて。今でも憶えてますが、母は涙しながら、「もう、とんでもないです」って。「皆さんにご迷惑掛けたのに、もうこんなの頂けません」て母がもう涙ながらに言うてる姿を見たんですね。
その時、そのナカジマさんていう人が、「いやいや、そうじゃないです。ここまで育ててもろうたのは、社長さんのおかげなんです」って。「社長さんのおかげでここまでにさしていただけたんです。だから、倒産したいうてもちゃんと…まあ、何割かだけ返したんやと思うんですが…それも奇麗に清算していただいたんやから、もう、そんなに言うてもらわんでもいいです。どうぞこれ受け取ってください」っていうね、姿を見せていただいたんですね。
1人そういう方がいた。私はナカジマさんのように、恩を忘れない人になろうって。神様から、そのナカジマさんを通して、何が大事か、お金が大事なのか、健康が大事なのか、この感謝する心が大事なのか、一番何が大事なのかを、ここで学ばせていただきました。
「倒産したって不幸なことや。そんなもん昔ぜいたくしてるからこうなったんや」いう話ではあるんですが、ご信心を頂いていたおかげでね、ほんとに今は、倒産があったから今の私があると感謝しています。
(ナレ)高校3年生という多感な時期に倒産というつらい体験。しかし、育子さんはこのことを通して感謝する心の大切さを学んだと語ります。自分たちがつらい時に、思いを掛けてくれる人があった。それは、たった1人だけれども、どれだけ掛け替えのない1人であったか。どれだけの励みになったか…。誰かがつらい思いをしている時に、今度は自分がそんな1人になりたい。育子さんはそう話すのです。
その後、短大を卒業した育子さんは、夢がかなって幼児教育の道に進み、保育士として働きました。
今、育子さんは仲間たちと一緒に小さな保育園を運営し、子育て支援の活動にも取り組んでいます。そんな仕事柄もあって、小さな子どもを持つ若いお母さんたちと接する機会が多くあります。時には、こんな相談を持ち掛けられることもあるそうです。
(山口)本当に今、倒産が多いのでね、ある家は、本当に大きなおうちが、私立に子どもも行ってたんですね。で、やっぱり倒産した。その時も泣きながら電話してきて、「この子今、私立に入れたけど、辞めるか辞めへんか、この子の一生はどうなるやろか…」って相談受けたんですね。
で、その時も神様にお願いさせていただいて、「どうぞ、この人が助かるように」って言いながらね、「うちも倒産したんよ。でも、倒産しても暗く生きることも出来れば、それをおかげにして明るく生きることも出来るよ」ってお伝えしました。
そしたら、なんか、「あぁ、すっきりしました」って言って、「そうですよね、私が沈んでては駄目ですよね」っていうことで、それこそ元気になっていただいたり、そういうのがあるたびに、私が倒産したということは、本当に宝やったんやなあって思わせていただいてます。
(ナレ)「どうか、この人が助かりますように。この人が助かる話が出来ますように」と神様に祈りながら、育子さんは語りかけます。それは、つらい思いをしている人の心に寄り添いたい、苦しんでいる人の励みになりたいという願いからなのでしょう。
高校3年生の時に体験した倒産という出来事。育子さんは、そのことをつらかったけれども大切な宝物であったと語ります。その宝物があったからこそ、人の痛みを分かることも出来る、励みになることも出来ると。
育子さんの明るい笑顔は、今もたくさんの周りの人たちに生きる力を送り続けているのです。