●信者さんのおはなし
「今あるいのちを振り返って」
金光教放送センター
鹿児島県北部、熊本県に程近い、伊佐市大口に生まれ、今年、73歳を迎えた入木田覺さん。38歳の時から、 そろばん教室を続けています。毎朝、奥さんと夫婦そろって大口教会に参拝し、命を頂いていること、健康であることを神様に感謝して、1日の生活が始まります。
そろばん教室を始める前は、郵便局に勤務していました。24歳で採用され、翌年には結婚して穏やかな日々を過ごしていましたが、10年後の35歳の時、肝臓の病気を患いました。今でいうC型肝炎です。病状が進むうち、診断した医師から、「肝硬変に近い状態になっている」と言われました。さらに、「命の保証は出来ない」とまで言われ、郵便局の仕事は辞めて、無理のない他の仕事に就くことを勧められました。その医師の言葉通り、郵便局を退職して、そろばん教室を始めたのでした。
入木田さんが金光教と出合うのは、命と向き合うことになった、肝臓病を患ったことがきっかけでした。
病気が分かってからも、体調が悪いのを押して仕事を続けていましたが、やがて入退院を繰り返すようになりました。名古屋にお住まいの奥さんのご両親は、そんな入木田さんが心配で仕方ありませんでした。ついには仕事を辞めて鹿児島へ渡り、同居して入木田さん夫婦を支えてくれました。
奥さんのお義母さんは、熱心に金光教の信心をされていた方でした。お義母さんは毎日、朝、昼、夕、1日3回大口教会にお参りして、入木田さんの回復を懸命に祈ってくれました。そんなお義母さんの姿に毎日触れるうち、「このままではいけない。私のために、必死に祈ってくれているのに…」と、入木田さんは心を動かされ、「教会へお参りしよう」という思いが湧き起こったのです。
お義母さんの後を追いかけるようにして、初めて教会に参拝したのは、昭和52年11月1日のことでした。外は一面に霜が降りて、とても冷え込んだ朝でした。37歳の時でした。
教会の先生から、「今は八方塞がりの状態ですね。神様にすがって、乗り越えさせてもらいましょう」と言葉を掛けられ、お義母さんと毎朝の教会参拝が始まりました。
お義母さんは、参拝の行き帰りに、信心の仕方や作法などを、丁寧に教えてくれました。
参拝を重ねるうち、だんだんと体調も落ち着き、新しく始めたそろばん教室の仕事も、療養しながら、毎日無理なく出来ました。
52歳のころ、インターフェロンによる治療を、医師から勧められました。ところが、教会の先生からは、「今は時機が良くない」と言われました。毎日参拝を続け、教会の先生と相談しながら、治療開始の時機をうかがっていました。
そしてようやく61歳の時、インターフェロン治療を始めました。大変効果がありました。費用の面でも、もし医師から勧められるまま、すぐに治療を始めていたら、1本3万円もの治療費がかかっていました。タイミング良く、保険が適用されるようになり、1本1万円という3分の1の費用で、治療を受けることが出来たのでした。半年間で83本の注射治療を受け、翌年ついに、「C型肝炎は完治した」と、医師から告げられました。30年間にわたる病との生活でした。そして、C型肝炎が完治してから、今年はちょうど10年の節目の年になります。
病気の経験は、肝臓病だけではありませんでした。10代後半に、脊椎(せきつい)の結核と言われる脊椎カリエスにかかったこともあります。回復するまで2年間、病院で寝たきりの生活を送りました。その後、20歳の時、経理学校に入学して、簿記やそろばんなどを習いました。この時習得したそろばんの技能を生かして、そろばん教室を思い立つのでした。
金光教には、次のような教えがあります。
「神様は、人間を救い助けてやろうと思っておられ、このほかには何もないのであるから、人の身の上にけっして無駄事はなされない。信心しているがよい。みな末のおかげになる」
入木田さんは、金光教と出合う以前から、すでに神様は道筋を付け、歩む道を準備して、助かりへ導いてくださり、今につながっているように思えてなりませんでした。
そして今、入木田さんは、「病気の中からギリギリのところで神様に助けていただいた命である」ということ、「助けられて今がある」ということを心に留めて、毎日神様に感謝しています。さらに、神様から頂いたこの命と健康を、どのように使わせていただくかということを課題にしながら、命の恩返しをしていきたいと思っています。
課題に取り組む一つとして、鹿児島刑務所で受刑者の方々にそろばん指導をしています。
「そろばんを通じて、忍耐力や我慢強さといったものを養ってもらいたいんです」と、お役に立てる喜びをかみ締めながら、意気揚々と語られます。
また、次のような目標を掲げ、実践に努めています。
「人の悪口を言わない」
「人を責めない」
「腹を立てない」
「不平不足を言わない」
「人の助かりを祈る」
「地域のボランティア活動を推進する」
中でも、「腹を立てない」という実践に苦心されている様子で、「家内に小言を言われると、つい言い返してしまうんです」とはにかみながら、おどけるように話します。そんな入木田さんからは、夫婦仲むつまじく、毎日を大切に過ごされている様子がうかがえるのでした。