●先生のおはなし
「剣道師匠からの授かりもの」
金光教高知教会
道願正美先生
私の剣道の師匠は、剣道日本一に2回もなった人です。その師匠との思い出が、私の20年近い学校教員生活の心の糧となり、そして現在、教会で日々勤める中にも、金光教の教えと共に、今の私を突き動かす力の土台となっています。
私の母校は、中学高校一貫校です。私が中学校に入学した時、約50人もの男女同期生が師匠に憧れて剣道部に入部しました。私もその中の一人だったのです。
けれども、鍛えに鍛え抜かれたせいでしょうか、気に入っていた剣道が、高校時代には嫌でたまらないものとなったのです。とにかく逃げ回り、さぼりまくった時期がありました。何かチャンスがあれば剣道部を退部してやろうといつも考えていました。そんなことですから、師匠にはたくさんの迷惑を掛け、数え切れぬほど怒られました。
ある日、師匠から厳しく叱られた後、「いいか、剣道は人に勝つことだけが全てじゃないぞ。自分に打ち勝つことを目指すのが剣道で何より大切なんじゃないか。自分のことばかり考えないで、もっと人のことを考えてみろ」と、諭してもらったことを思い出します。
師匠は、誰に対しても差別なしに厳しく、そして一生懸命頑張る者をたとえ勝てなくても試合に出してくれる人でした。そんな師匠の導きに助けられ、私は剣道を最後まで続けることが出来ました。高校引退の時の同期部員は男女わずか9人となっていましたが、その中の1人となることが出来たのです。
そして、高校卒業で終わりにしようと思っていた剣道を大学でも下手ながらに続け、卒業後、母校の臨時教員を1年間勤めることとなったのです。臨時教員の終わる3日前、学校から正採用の教員として残って欲しい、という話がありました。
ところが私は困ってしまいました。なぜならば、師匠と一緒に剣道部の指導もお願いしたい、ということも聞かされたからです。私のような剣道の未熟な者が剣道日本一の師匠と共に剣道部の指導をすれば、昔のように師匠にたくさんの迷惑を掛けてしまうのではないか、という不安と心配があったからです。悩んだ末、師匠に電話をしました。すると師匠は私の不安や心配を取り払うかのように、「何を言っているんだ。来い!」のひと言で電話を切ったのです。このひと言で、私は母校で教員を勤め、剣道部を指導することを決めました。
翌日、師匠に会いに行くと、「たくさんいる教え子の中でも、まさかお前と一緒に剣道を教えることになるとは思わなかったぞ」と笑い、「いつかお前は教会の実家を継ぐことになるだろうが、その時まで共に頑張るぞ。お前にはお前の役割がある」と言ってくれたことが忘れられません。
金光教の教えに、「もし、五本の指がみな同じ長さでそろっていては、物をつかむことが出来ない。長いのや短いのがあるので物がつかめる。それぞれ性格が違うので、お役に立てるのである」というものがありますが、師匠はその教えに通じることを言ってくれたのだと思います。
師匠は、人の個性や得意とするところを見つめてくれて、それぞれに役割を与えてくれました。そして師匠は高校剣道部監督、私は中学校剣道部監督となったのです。
それからわずか2年後、師匠は修学旅行引率中の事故で帰らぬ人となりました。
私も修学旅行の引率に師匠と一緒に行くことになっていましたが、ひと月前になって急な学校の事情から学校に残ることになったのです。
師匠と別れてからの私は、ただ剣道を指導することで悲しみを紛らわせていたように思います。
しばらくした時、師匠の親友であった人が、生前師匠からいつも聞かされていたという私の話をしてくれました。それは、「あいつは剣道はまだまだだが、人がいい。あいつが来てくれて本当に良かった」と、会う度ごとにうれしそうに話してくれたというのです。この話を聞いて、私の心はどれほど助けられたことでしょう。
また、師匠が、教員になった私にかんで含めるように言ってくれた言葉は、「人を大切にしろ」でした。今になって振り返って考えてみますと、師匠が私に教え伝えたかったことは、「剣道の心と技を磨き、日本一を目指して頑張ることも大事だが、それ以上に、『人を大切にする心』を磨き、自分のできる役割を担って、人を助け導く、よりすばらしい人間になりなさい」ということではなかったかと思うのです。
金光教の教祖様は、人を大切にされた方でした。「自分のことは次にして、人の助かることを先にお願いせよ」という教えもあります。「人を大切にしろ」という師匠の言葉が教祖様の教えと重なるような気がしてなりません。
もうすぐ師匠と別れて、25年目がやってこようとしています。
現在、私は師匠との思い出を胸に、人を差別せず人を大切にすることをモットーに教会の仕事と少年剣道の指導を頑張っています。そして、たくさんのすばらしい金光教の教えを頂いて、人のことを祈り助け導く教会の先生を目指し、努力を続けています。