足裏へ祈りを込めて


●先生のおはなし
「足裏へ祈りを込めて」

金光教枚方ひらかた教会
四斗晴彦しとはるひこ 先生


 私の奉仕する教会にお参りする康子やすこさんは、今年53歳になる女性です。幼い頃から教会にお参りし、ずっと信心を続けています。
 康子さんは、20歳で結婚し、2人の女の子を授かりました。しかし、37歳で、離婚してしまいます。決断するまで、本当に苦しくて長い長い道のりでした。その時、お参りしている教会の先生からは、次のような金光教の教えを教えてもらいました。
 「神様は、人間を救い助けてやろうと思っておられ、このほかには何もないのであるから、人の身の上にけっして無駄事はなされない。信心しているがよい。みな末のおかげになる」
 康子さんは、この教えに触れても、決してすぐには前向きになることは出来ませんでしたが、ここからの新しい人生のスタートとして、どこか神様に背中を押してもらったような気持ちになりました。
 離婚してから、これからの生活のために仕事を探していた康子さんは、葬儀会社の案内係として就職することが出来ました。その葬儀会社では、案内係の仕事をこなす中で、大切な人が亡くなり、悲しみにくれる人たちに対して、どのように接したらいいのかを少しずつ覚え、人の心の痛みが分かる人間に育てていただいているんだなあと感じました。
 案内係の仕事は、ずっと立ちっぱなしです。仕事が終わると足がむくみ、腰も痛くなります。康子さんは、いつしか足のマッサージを受けるようになっていました。マッサージを受けると、足のむくみがすーっと引いていき、何ともいえない心地良さを感じます。この時は、マッサージってすごいなあと漠然と感じていましたが、これがマッサージとの出合いとなりました。
 そんな時に康子さんは、足裏のマッサージを特集していたあるテレビ番組を見たのです。「これだ!」と、自分の天職を神様が教えてくれたかのように感じ、また腰の痛みもあって、思い切って葬儀会社を退職し、足裏マッサージの学校に通うことに決めました。その数カ月後には、無事に資格を取得することが出来たのです。
 しばらくしてから、縁があって、近所の病院のスペースを貸りて、足裏マッサージの仕事が出来ることになりました。その病院は、自宅から歩いて数分の距離にあります。近くで仕事を見つけることが出来ればと、ずっと教会で願ってはいましたが、まさかここまで近い所で働くことが出来るとは思ってもいませんでした。すぐに、その病院で働かせていただくことにしました。
 いよいよ、念願だった足裏マッサージの仕事の始まりです。最初は、ほとんどお客さんもいませんでしたが、少しずつ、マッサージを受けて下さる方が出てきました。もううれしくてうれしくて、全身全霊を込めて、取り組みました。足裏をマッサージしていると、「ああ、この人は疲れているなあ」とか、「ああ、この人は、落ち込んでいるなあ」とか、足の裏を通して、その人の体や心の状態が伝わってきます。そんな時には、心の中で「早く元気になって下さいね」という気持ちになれずにはおれませんでした。 そんな状態の人が続いたこともあり、康子さんは、足裏マッサージを通して、まずは、目の前にいる人のことを一生懸命に祈る稽古をしよう、と決めました。「私が導かれるように足裏マッサージの仕事をしているのは、人を祈ること、その尊さを神様が教えてくれようとしているんだなあ」と感じたのです。
 それからは、どんな人でも、その人が明るく元気に毎日を過ごせるようにと、神様に祈りながらマッサージをしました。うつ状態で苦しんでいる人や、人間関係で悩んでいる人からは、しっかりとお話を聞き、そのことを教会に参り、神様に祈るようにもしました。
 苦しんでいた人が、マッサージが終わって、「何か心が軽くなったわ」と明るい表情で言ってくれた時には、「祈りが少しずつ伝わっているのかなあ」と少し照れ臭く、うれしく感じました。そんな日々を送りながら、祈りの対象は、目の前にいる人だけではなく、その人の家族や周りの人々にも、少しずつ広がっていったのです。
 ある日、自律神経失調症で悩んでいる年配の女性の方がマッサージを受けに来ました。その人は、見た目は全く正常で、とても重い症状を抱えているようには見えません。しかし、マッサージをしながら、病気のことを聞いたり、身の上話をしていると、その方の苦しみがじわじわと伝わってきます。康子さんは、いつにも増して祈りを込めるようになっていました。康子さんが、金光教の教会にお参りし、人のことを祈る稽古をしていることも伝えました。その方は、少しずつ病気から回復されていかれる中で、ある日ふとこんなことをつぶやかれたのです。
 「私は、康子さんのように、みんなのことを祈ることは出来ません。でもね、何か自分の家族など身近な人のことは、最近、祈らせてもらうことが出来るようになったんですよ」
 特定の宗教を信仰している人ではないのですが、人を祈ることの尊さを感じてもらえたことに、康子さんは本当に大きな喜びを感じました。
 康子さんが離婚を機に新しい人生へ踏み出した日から16年。人の痛みを感じる人間、さらには、人を祈ることが出来る人間に、神様から育てていただいたのです。
 今では、2人の娘も結婚し、孫が2人生まれました。おばあちゃんになっても、康子さんは、足裏をマッサージする日々を続けています。

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