●先生のおはなし
「今朝も笑顔で」
金光教豊中南教会
水野節子 先生
遠い九州から大阪の教会に嫁いで3年が過ぎたころ、先の東日本大震災が発生しました。私はこの震災で石巻に住む大切な友人を亡くしました。告別式への参列で被災地の様子を目の当たりにした私たち夫婦は、亡くした友人への思いも募り、金光教少年少女会東日本復興支援団の活動に参加しました。
被災者の方々から直接、避難生活についてのお話を伺い、日頃の地域との繋がりがいかに大切かを学んだ私たち夫婦は、地元大阪に帰ってから、早速、自治会長さんや、商店街を取り仕切る理髪店の店長・徳夫さんにそのことを報告しました。そして、それがきっかけとなり、理髪店の徳夫さんと、地域の防災や救命救急について話し合うようになりました。
私がかつて一般の企業に勤めていたころ、赤十字ボランティアとして救急法の普及活動に参加していたことから、嫁いでからも、地域の人に救急法を身につけていただきたい、という願いがありました。教会へ嫁いでからは、その活動からも離れ、その念願は叶わぬ夢となっていましたが、この徳夫さんとの出会いを機に商店街の人を対象に救急法の講習会を開催することが出来ました。会場選び、人集めも、すべてこの徳夫さんの後ろだてです。
人のお役に立ちたいと願う徳夫さんは、毎年地域で開催される盛大な夏祭りの仕掛け人でもあります。初めて来た人が、「今時珍しくにぎやかなお祭りや」と驚くこのお祭りは、遊びも食べ物も50円から150円と激安。特設ステージでは、ダンスや歌など盛りだくさん。徳夫さんは、子どもたちがわずかなお金でたくさん楽しめるようにと、数カ月も前から週に1度の休みを利用して物品の準備に駆け回ります。遊具もすべて徳夫さんの手作りです。お手伝いに来る若者たちにごちそうしては徳夫さんは嬉しそうです。
今年は私たち夫婦も徳夫さんに誘われ、夏祭りのスタッフとして参加しました。炎天下、スタッフの汗と努力が子どもたちの笑顔に繋がり、夏祭りは大盛況でした。救急法講習会の開催、夏祭りへの参加と、私は徳夫さんに支援してもらったことがうれしく、お礼をと思うのですが、徳夫さんは、「喜んでくれるだけでいいよ」と言います。
徳夫さんは髪は金髪で、体格も良くて、一見ヤンキーのお兄さんにも見えますが、役所など交流関係が広く、人情に厚いためか、困っている人に頼まれたらじっとしていられません。理髪店は、お客さんでなくても彼を慕って集まる人で賑わっています。「若者不足」や「不景気」とは無縁です。
徳夫さんは、「まずは自ら動いて誠意をみせる。人にお願いする限り自ら3倍ぐらいこなさないとあかん、と自分自身肝に銘じてます。少しずつ皆さんが喜びを分かちあえれば良いじゃないですか、たくさん笑顔あふれる街になれば良いと思うよ」と話してくれます。
一方で、教会の近所にお住まいの自治会長さんも、「町内の若者は自分の子ども、ちびっこは自分の孫、あなたのことも息子のお嫁さんのように思うのよ、町内の皆が喜んでくれたらうれしいの」と、人知れず早朝から町内の掃除をしたり、自治会の行事に力を尽くされています。おかげで地域の活動も活発で、自治会長さんの周りにも喜ぶ人が集まります。主人は、震災後から積極的に自治会のお手伝いをさせていただくようになり、今では自治会の防災部長として活躍しています。
金光教には、「自分のことは次にして、人の助かることを先にお願いせよ。そうすると、自分のことは神が良いようにして下さる」という教えがあります。人の喜びが自分の喜びである徳夫さんと自治会長さん。人を助けることで、喜ぶ人に囲まれて幸せそうなお姿は、まさにこの教えのようだと思います。
こうして、震災で親友を失ったことを通して、徳夫さん、自治会長さんと出会い、その生き方に学び、地域との交流を深めるようになった私たち夫婦。人それぞれ持ち場・立場がありますから、誰しも徳夫さんや、自治会長さんのようには動けません。しかし、真似事とまではいかなくても、私たち一人ひとりが仕事場や何気ない日常生活を通して、人の助かりにつながることを、何か出来ると思うのです。
例えば、電車で席を譲ったり、急いでいる人に道を空けたり。ほんの少しだけ、自分のことより人を優先することを心掛けてみる。また、朝のあいさつでも良いかもしれません。
私たち夫婦は、毎朝玄関を開けると、金光教の本部のある岡山に向かって祈りを捧げます。祈りが終わると、前の通りのゴミ拾いをします。ゴミ拾いをしながら、毎朝通学・出勤される方にあいさつをしますが、お互い名前さえ知りません。それでも、毎日あいさつを交わすことで随分顔見知りの方が増えました。
先日、毎朝顔を合わす方と、町でばったり出会いましたが、お互い自然にあいさつが出来ました。「あの人誰?」「朝、あいさつしてくれる人」という会話が聞こえてきて、とてもうれしく思いました。
人の助かりを祈り、ゴミを拾い、こちらからあいさつをすることで、私はこんなにも幸せを頂いています。
今朝も笑顔で、「おはようございます。行ってらっしゃい」と声を掛けます。ゴミの無い通りを気持ちよく通学・出勤していただければとの思いを込めて。