シリーズ「天地は語る」第2回「あなたこそ大丈夫ですか」


●シリーズ「天地は語る」 
第2回「あなたこそ大丈夫ですか」

金光教放送センター


(ナ レ) 金光教の教祖である、金光大神こんこうだいじんの教えに次のようなものがあります。
 「我情我欲がじょうがよくを放してまことの道を知れよ」
 今日はこの教えについてのお話です。

(聞き手) 先生、今日の教えですが…。
(先 生) はい。まず、「我情我欲を放して…」という言葉ですが、我情は、「ワレのナサケ」と書き、我欲は、「ワレのヨク」と書きます。「放す」は、お話しをするの「話す」ではなく、手放すの「放す」です。そして我情我欲というのは、自己中心的な欲望のことです。「我情我欲を放して真の道を知れよ」というこの教えは、短い言葉なんですが、伝えようとする中味は、大変大切なことを言っていると私は思っています。
(聞き手) 「我情我欲」とか「真の道」だとか、何だか難しそうですが…。
(先 生) そうですね。我情我欲は、あらゆる宗教が唱える「人間の苦しみの根っこにあるもの」と言えるでしょうね。言葉こそ違いますが、共通のテーマだと思います。
(聞き手) どう理解すればいいのでしょう?
(先 生) 結論から言いますと、かたくなに凝り固まった自分がある。これが我情我欲ですね。そして、そのかたくなな自分を解き放すことで自分に変化を与え、新しい価値観を発見し、扉が開かれ、そこに出来た道を歩み始める。これすなわち、「真の道」ということになります。
(聞き手) そんな簡単にいくのでしょうか?
(先 生) 難しく感じるかも知れませんね。例えば、こんな話があります。
(聞き手) はい。
(先 生) 私の教会にお参りする親子の話です。中学3年生の娘さんが、いつものように自転車で登校したんですが、その途中で交通事故に遭ったんですね。
(聞き手) えーっ!
(先 生) ところが本人は何事もなかったかのように登校したんですね。
(聞き手) 大丈夫だったんですか?
(先 生) その事故を、知り合いの方がたまたま見ておられ、学校へ通報して下さり、先生が本人に確認すると「ぶつかって飛ばされた」というので、急いで、おうちに電話で知らせて下さったんです。本人はとにかく遅刻するといけないから、「大丈夫」と言って、現場からサーッと学校へ行ったというんですね。
(聞き手) 軽く済んで良かったですねぇ。
(先 生) ええ。その日の夕方に双方が警察署に出向いて事情を話すことになったんですね。相手の方は30代の女性の方でした。娘さんの方は、お母さんが付き添われました。ただ、その時は娘さんも気が張ってて、大丈夫と言っていたようですが、晩になって首が痛いと言い出し、翌日病院で診てもらうことになったんですよ。
(聞き手) やっぱりそういうことってあるんですね。
(先 生) あくる朝、相手の方に、一応このことを電話で伝えると、「一度そちらへごあいさつに伺いたい」とおっしゃり、会社の昼休みに、お宅へお見えになったそうです。
(聞き手) それでどうなったんですか?
(先 生) 「この度はご迷惑をお掛けしてすみませんでした。お嬢さんはどうですか?」と随分、緊張気味にごあいさつ下さったそうです。
(聞き手) そうでしょうねぇ。
(先 生) それに対してお母さんは、こうおっしゃいました。
「昨日は大丈夫と言っていたのに、後になってこんなこと言ってごめんなさい。私も事故の経験があるけど、後々嫌なものだし、気持ちが落ち着いたかなと思っていたの、あなたこそ大丈夫?」と話されたんだそうです。
(聞き手) 「あなたこそ大丈夫?」と声を掛けられたんですか!? ちょっとビックリしました。
(先 生) ええ、そうなんですね。交通事故を起こすと、双方が互いに主張し合い、被害者感情が増し、相手を責め合うことが往々にしてありますが、このお母さんは、相手の方に、「大丈夫?」と声を掛けられたというので、私もどうしてこのような心境になれたのかと思い、聞いてみたんですね。
(聞き手) 私も興味あります。
(先 生) そのお母さんはね、こうおっしゃってました。
「娘も一つ間違えれば命を落としていても不思議でないところを神様のお守りを頂いて、何事もなかったかのようにしてくれているのに、もうこれ以上何を望む必要がありますか。自分も前に事故を起こして苦い経験をしており、いらぬ感情は捨てて、あの時の経験から、おそらくこの方も心苦しいだろうと思うと、この人に早く立ち直ってもらいたいと、自分のことのように心配になった」とおっしゃってました。
 娘さんが元気であると言うことと、事故の苦い経験が、相手を責める気持ちを取り払い、相手を慈しむ気持ちへと変わっていったようです。まさに我情我欲を放せたんだと思いますね。
(聞き手) そういうことが背景にあったんですね。
(先 生) よく聞いてみると、その30代の女性は、5歳と2歳の2人のお子さんの母親だということで、それを聞いて、こうもおっしゃったそうです。
 「あなたが、いつまでもつらそうな顔をしていると、お子さんも、どうしたのかな、と心配すると思いますよ。起きてしまったことは 仕方がないから、後は保険会社にお任せして、元気な顔をお子さんに見せてあげてね。そして、あなたも私もこれから気を付けましょう」とおっしゃったそうです。落ち込んでいる相手の方も「そんな優しい言葉を掛けていただいて…」と、ホッとされたようです。
(聞き手) 交通事故って話がこじれて難しいことになるとばかり思ってましたが、全く違いますね。
(先 生) この話を聞かせてもらって、我情我欲を放し、相手の立場に思いを寄せ、互いが助かっていくように取り組む。まさに教えの通り、「我情我欲を放して真の道を知れよ」を実践された良い実例だと思いました。自己中心的な凝り固まった思いから解放されることで、互いに助かっていく世界が無限に広がるのだと信じています。
今日の教えは、一見すると取っつきにくい教えに思えますが、このお話のように、実は身近なところに、この教えの実践の場がいくつもあるということが分かります。
(聞き手) そうですね。先生、ありがとうございました。
(先 生) こちらこそ、ありがとうございました。

(ナ レ) 今日は「我情我欲を放して真の道を知れよ」
 この教えについてのお話でした。

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