●信者さんのおはなし
「神様が与えてくれた仕事」
金光教放送センター
北海道函館市に住む若林憲章さんは昭和26年生まれで現在62歳。
恵まれた家庭に生まれましたが、高校生の時、青年特有の悩みを持ち始めます。「何のために生きているのだろうか、なぜ勉強しなくてはいけないのか」と。
その時、憲章さんの向かった先は函館市内にある金光教亀田教会でした。幼い頃よりお母さんに連れられてお参りしていたところです。教会の先生に悩みを打ち明けると、先生は親身になって話を聞いてくれました。
憲章さんは「神様のことはよく分からないが、この先生にすがっていけば自分の悩みも解決していくかもしれない」と思えたのです。その後は教会参拝を続け、先生に悩み事を聞いてもらい、先生と一緒に神様にお願いしていると、少しずつではあるけれど、暗闇に光が差すような気がしてきました。
ところが大学受験には失敗、先行きの見えぬ不安は続きます。そんな中、ある知り合いの紹介で眼科の病院に就職することが決まりました。教会へお参りに行き、就職することを報告すると、憲章さんのことを毎日神様にお祈りしてくれていたのでしょう、教会の先生はとても喜んでくれました。
憲章さんが就職したところは函館市内でも大きな眼科医院で、1日に500人以上の患者さんが来院します。憲章さんに求められたのは、視能訓練士になってお医者さんを手伝うことでした。視力の視に能力の能と書いて視能、視能訓練士はその当時新しく定められた国家資格で、お医者さんの指示のもと、目に障害のある人に対する機能回復のため、矯正訓練や必要な検査を行なうのです。
憲章さんは院長先生から、東京へ行き、その資格を取ってくるように言われました。上京後、目標が定まった憲章さんはしっかりと勉強し、お医者さんと肩を並べるほどの知識を得ました。すると欲が出てきます。医者になれば良かったと。しかし、院長先生から資格を取るように託されている手前、途中で辞めるわけにもいきません。
医者にという思いを抱きつつも、2年後には資格を取って東京から函館へ戻り、視能訓練士として病院で働き始めました。職場では無難に仕事をこなしていきつつも、どこか充実感が得られません。それは、どんなに適切な矯正訓練や検査をしても、結局手柄はお医者さんに取られてしまうような気がするからです。思い詰めて仕事をやめてしまおうと思い、教会へ行きました。その時、教会の先生は次のように言ったのです。
「あなたは一番大切なことを見失っています。あなたの仕事は神様が与えて下さったものと私は信じています。あの時、あなたにこの仕事が与えられて、誰より有り難く思ったのは、私だったと言ってもよいでしょう。だから私は忘れられないのです。あなたもまたそのことを忘れない限り、神様の恩恵はあなたの上にゆたかに輝くでしょう」
先生のこの言葉を聞いても、憲章さんには仕事を辞めたい気持ちが残りました。「神様がくれた仕事だったら、どうしてもっと自分に向いた仕事じゃないのか」と思ったのです。ただ、自分のことをずっと見守り続け、祈り続けてくれていた先生が言うのだから、もう少し頑張ってみようかと思い、仕事を続けていきました。
そんなある日のこと、患者さんから「ありがとうございました」と言われ、ハッと思ったのです。ただ自分がしていると思っていたことが、患者さんに喜んでもらえているんだということを。
それからは少しでも患者さんに喜んでもらえるように心がけていきました。すると、視能訓練士という仕事は、ただ訓練したり検査するだけでなく、患者さんの心配や不安を少しでも和らげることが出来ることに気付いたのです。
たとえば、まだ幼い子どもさんが検査の結果、弱視ということが分かり、眼鏡を掛けることになります。その時、お母さんが悲しい顔をしていては子どもが不安になるので、お母さんには笑顔で接するよう促します。
また、お母さんに次のように話します。「家に帰ったら、お祖父ちゃんお祖母ちゃんにも協力してもらって下さいよ、『可愛い孫に眼鏡だなんて、可愛そうに』という風になると、子どもさんが眼鏡を掛けたくなくなります。今この時期に眼鏡を掛けることが本当に大切なので、『眼鏡を掛けて偉いねぇ』と褒めてもらうようにお祖父ちゃんお婆ちゃんにも話して下さいね」とお母さんに伝えます。
患者さんへのこのような気配りを心がけ、一日も休むことなく早朝から深夜まで働き続けていきました。「何のために生きるのか」と悩んでいた憲章さんが、患者さんに喜んでほしい、そして少しでも人様のお役に立ちたいという思いに変わり、そのことが生き甲斐となり、結局41年間無事に仕事を勤め上げたのでした。
退職後、憲章さんは視能訓練士の資格を取ろうとする若者たちを専門学校で教えています。その講義の中で、患者さんの病気が治っていくことはもちろんのこと、心も助かっていくことが大切だと強く訴えています。それは、どんなに的確な検査や訓練が出来ても、患者さんの心が元気にならなければ、良い治療にはならないと思っているからです。
視能訓練士という仕事は、患者さんの心のケアまで配慮出来る仕事であり、今は本当に神様が憲章さんに与えてくれた仕事だったと思っています。今日も、教会へ参拝し、神様にお願いしながら、後輩たちの指導に取り組む憲章さんです。