●信者さんのおはなし
「心の美人になりたくて」
金光教放送センター
「全て神様のおかげです」と、優しいまなざしで語ってくれる藤本美子さんは、現在63歳。祖父から続く信心を受け継いでいます。
幼稚園まで金光教の中心である岡山県金光町で暮らしました。生まれた時に当時の教主金光様から、漢字で美しい子と書く「美子」という名前を付けてもらいました。神様が「美しい心の人間になりなさい」と願って下さっての名前だと思い、心の美人になりたいと願って今日まで生きてきました。
今から21年前の春、美子さんが42歳の時です。47歳のご主人が会社に行く途中で突然倒れてしまい、救急車で病院に運ばれました。呼吸も心臓も停止状態でした。
当時ご主人は、銀行の支店長をしており「お客さんのためにも、家族のためにも、ここで頑張らないといけない」と、自分に妥協を許さず働いていました。人を大切にする性格からたくさんの人たちに信頼され、また、家族であるご両親、3人の子どもたち、美子さんにとっても深い思いやりのある人でした。
病院で何とか命を取り留めることは出来ましたが、意識は戻らず、日常生活全般が一切出来ない状態になってしまったのです。
けれども美子さんは、嘆き悲しむことはありませんでした。それは「無い命であったのを神様が救って下さったんだ」と感じたからであり、また「神様はどこにでも居て下さる。何があっても神様のなさることとして全てを受け止めよう。神様のなさることに無駄事はないはず」と、強い思いを持ったからです。
病院治療の1年後には自宅療養をすることになりました。それからの介護生活は、片時も目を離せない大変なことでした。ご主人が息を詰まらせないように1日何回も痰を吸い取り、鼻から流動食を入れて命をつなぎました。
周りの人たちはみんな「大変でしょう」と、美子さんを気の毒がってくれました。中には「あの時に亡くなっていたら、こんな苦労をすることもなかったのに」と言う人もいました。美子さんにとって愛する夫を無意味な命と見られることは大変つらいことでしたが、自分の心を奮い立たせて、神様に命あることのお礼を申しながら介護しました。
ご主人は、話も出来ず目の前にいるだけでしたが、ここに愛する夫がいるということがありがたく心強く、家族みんなを大きな力で守ってくれていると感じられました。「夫にとっては仕事が出来なくなったことは悔いが残ったかも知れませんが、私にとっては心の持ちようが大きく変わりました。神様の大きな愛に包まれる中で、これを機会にして心の美人になるための勉強をしなさいというお示しを受けたように思うんです」と、美子さんは言います。
もちろん介護生活をする中で、ご主人に相談したいと思うことは度々ありました。思春期の子どもたちの様々な問題や進路のことです。また、落ち込んだこともありました。そんな時には教会に電話して先生に相談し、アドバイスをもらったり、心のもやもやを聞いてもらいました。
今年の1月、ご主人は亡くなりました。介護を始めてから20年と10カ月の間、頑張って生き抜いてくれました。ある朝、目が覚めると、静かに旅立っていました。ご主人の体調は、昨年の夏から悪くなっていたので、新年のお正月を一緒に迎えさせてもらえたことがありがたく、突然の別れに落ち込むことはありませんでした。「夫は亡くなってからも家族みんなをいつも見守ってくれている」と確信しています。
美子さんは「夫と夫の両親を看取らせてもらったのも、私自身が元気でいさせてもらったのも、全ておかげです。私の祖父は、いつも何に対してもありがとうと言い、感謝の心で生活を送ってきました。今、私自身がありがたいと思う心でいっぱいなのは、祖父の信心の影響と神様のおかげだと思います。私は、たくさんの方々に支えてもらい、お世話になり、生かされてきたんです。だから、お礼の心をもっと持たせてもらわないといけません」と、にこやかに話してくれました。
葬儀の時には、会葬してくれた人たちから「ご主人は幸せだったね」と言ってもらい感激しました。
現在、美子さんは、教会のお祭り日はもちろんのこと、日々のお参り、お手伝いをさせてもらう中にも、神様にお礼申し上げることを欠かしません。お茶をたてたり、料理を作る時にもお礼の心を持って謙虚に取り組んでいます。そんな美子さんの魅力に引かれて、たくさんの人が周りに集まってきます。
「私は、人の話を聞いてあげたいし、その人のことを祈ってあげたいんです」と、瞳をキラキラさせて美子さんは言い切ってくれました。
「夫がいるから私がいる。私がいるから夫がいる。2人で1つだったんです」と話す美子さん。言葉は交わさずとも心は通い合い、お互いに支え合ってきた20年でした。今日まで共に生きてこられたことが嬉しく、これまでのことは全て神様のおかげであり、神様のなさることに無駄事はなかったと実感されているそうです。
長年にわたって懸命の介護をされ、ご主人のいのちを輝かせたことが、同時に美子さん自身のいのちをも輝かせることになったのです。
心の美人を目指して、今日も笑顔の美子さんに、ご主人も神様もほほ笑んでおられます