●信者さんのおはなし
「パニックさん、ありがとう」
金光教放送センター
（ナレ）皆さんは、「パニック障害」という病気をご存知でしょうか。ある日突然、漠然とした不安に襲われ、心臓の高鳴り、呼吸困難などで気持ちをコントロール出来なくなり、パニックに陥ります。そして、「このまま死んでしまうのではないか」という強い恐怖感が慢性的に起こります。
大阪府四条畷市にお住まいの坂本昭枝さんは現在70歳。結婚して間もない24歳の時、通勤途中のバスの中で、パニック発作に襲われました。
（坂本）そのバスで、とっても混んでましたのでね、もう急に降りたくなって、途中次の駅で降りたんですね。その時に、新婚旅行に行った時の昔のネガがなくなっていたのに気付いて。混んでいるのも怖かったんですけど、その時に、その大事な、もう取り返しが付かないネガが無くなったということで、すごいね、怖い…。大事な物を無くしたっていうのと一緒で、もうそれ以来、混んだバスが乗れなくなったんですね。
（ナレ）坂本さんの症状は、段々と日常生活にも大きな支障をきたすようになりました。
（坂本）いっぱい出てきましたね、どっーと。例えば、8時になったら病院が閉まりますよね。そうしたら病院に行けない。翌日まで開かないですね、救急車以外は。時計を見ながら、7時になってきたら、もう毎日の生活が苦しかったですね、もう病院は閉まるって。診てもらえないって。この苦しく、がっーと締め付けられるような気持ちになった時に、何かして欲しいっていうそういう不安がもう毎日ありましたね。ですから、「8時病」って自分で名付けてるんですけど、8時になるのが怖い病気がまたそこでありましたね。
もう一つは、「書けない」っていうのも出てきましたね。ポストに入れたら、手元に返ってこないっていう。ほんと怖いんですね、出すのがね。だから、友達に書いてもらって出してもらうとか、年賀状も書かなくなったから、友達も減りましたね。ほんとに自分でも何でやと思うけど、書けないですね。
家事も出来ないし、もうふつうの生活が出来ない、そういう状態でしたから、もう生活苦しかったです。
（ナレ）あれも出来ない、これも出来ない、そんな苦しい毎日を送っていた坂本さんでしたが、45歳の時、信心をしていたお姉さんの勧めで、金光教の教会に初めてお参りしました。
金光教では、教会の先生が参拝者の悩みや願いを聞いて神様にお祈りをし、お話してくれます。これを「お取次」と言います。坂本さんは、先生に心の内を全て打ち明けました。そこでの「お取次」が、坂本さんの人生を大きく変えることになります。
（坂本）ほんとに助かりたい一心ですから、今の教会長先生にね、ここに来させて頂いた理由をね、ずーっと今までのことを延々とお話させてもらったんですね。で、その時に頂いた言葉がね、「神様は、あなたと一緒に悲しんでおられる」っておっしゃったんですね。「えー」って。「あなたが悲しむと神様も悲しんでおられるよ」っていうことをお聞きして、「神様ー」ってひれ伏すような神様ではなくて、自分の身近にね、一緒に共に居て下さる神様なんておられるんだっていうのがあって、これはすごいなあって思いまして、その言葉を頂いた時に、「もう私は助かるなあ」って思いましたね。
（ナレ）坂本さんの心は救われました。そしてこの神様のことをもっと知りたいと思うようになります。
（坂本）もう毎日、お参りしたくてですね。もう聞くことがうれしくてですね。「明日、塩辛を食べるからといって、今からお水を飲むわけにはいかない」とかいう、そういうのなんて、一番分かりやすいみ教えで、もう夢中でしたね。お参りがうれしかったですね。神様のみ教えっていうのが逆に薬になりました。
そして「8時病」というのも消えましたね。教会は何時にでも開いていて聞いて下さるという、そういう安心感がありましたから。
（ナレ）教会にお参りし、お取次を受ける。こうした毎日が坂本さんのパニックを安心に変えていきました。やがて、つらかった症状も次第に改善し、出来ることが増えていきました。そして、気付かされることもありました。
（坂本）この病気があったからこそ、どこに行くのも当たり前じゃない、電車に乗っていくのも当たり前じゃない、食事を頂くのも当たり前じゃない、で、トイレに行かせて頂くのも、「ああトイレ行かせてもらえる、有り難い。トイレ出てありがとうございます」って、これをきれいごとじゃなくてほんとに心から思わせて頂けることだったんですね、そのパニック症があったからこそね。
（ナレ）坂本さんには２人のお子さんがいます。お孫さんも出来ました。ご主人も、坂本さんを温かく支えてくれます。坂本さんは振り返って、こう話してくれました。
（坂本）出来なかったことはいっぱいありましたけれど、出来ていることもいっぱいありますね。それ以上にあると思っています。私もまだパニック症が全部が治った訳じゃないんですね。地下鉄は怖いですし。けれども、お願いしながら地下鉄に乗らせて頂くとか、いろんなことはですね、願いながらさせて頂けるものを、私は、残して頂いていることがおかげだと思っているんですね。だから、どこに行くのも有り難いって思えます。他の方よりは倍ね。「行けるかな、どうかな、神様」って願って実現することですから。「私は有り難い自分だなあ」と思ってるんですね。私はこれはあえて神様が、置いといて下さっていると、そう思わして頂いているんです。だから、もうこれは全部平気になったらだめだと逆に思っていますので、これは自分でもほんとに確信して持っていますね。
なぜこんな病気になったんですか、これは治して下さいっていう初めの思いはですね、この病気があるから、有り難いことも、当たり前ではないことも教えて頂けたっていう道筋だったと思うと、もうほんとに、「この病気さんありがとう」っていう、そんな気がしますね。
（ナレ）「神様はあなたと一緒に悲しんでおられる」という人生を変えたお取次から二十数年。坂本さんのパニック障害は、いつしかなくてはならない大切な宝物となったようです。