●信者さんのおはなし
「ありがとね」
金光教放送センター
岐阜県の金光教笠松教会にお参りする小森糸子さんは今年67歳、デイサービスの事業所で若いスタッフに交じって元気に働いています。
60歳の時、長年勤めていた金属加工会社を定年退職した後、まだ自分に出来る仕事はないかと、いろんな就職先を探した結果、採用してもらったのが、このデイサービスでした。
介護資格のない彼女ですが、資格の必要なこと以外は何でもやります。洗濯、食器洗い、事務、雑用、何でもこなします。粗相のないようにと、常に神様にお願いしながらの毎日です。
彼女は、名前を覚えた利用者さんに対しては、「誰々さん」と、名前で呼び掛けます。利用者さんの方からも、「小森さん」と、名前で呼ぶ人が大勢います。
若いスタッフは介護の知識は豊富ですが、利用者さんの大半は高齢なので、心のケアまではなかなか行き届かないことも多いのですが、その点、若いころから苦労を重ねてきた小森さんですから、少しは利用者さんの気持ちが理解出来るのです。
時には、気心の知れた利用者さんから、家庭内の相談を受けることもあります。そんな時は、「あなたの奥さんもお年ですから、介護は大変ですよ~。足りないこともあるでしょうけど、足りないところばかりに目を向けて不足を言っていたら、奥さんが可哀想。してもらってるところに目を向けて、お礼を言ったらどうでしょう?」と優しく答えます。
小森さんは右足が少し不自由なのですが、そんな彼女を気遣って利用者さんの方から逆に、「大丈夫ですか?」と声を掛けてもらうこともあります。そんな時、小森さんは、「ありがとね」と答えます。
彼女の口癖は、「ありがとね」。どんな小さなことでも、「ありがとね」を繰り返す彼女を見て、若いスタッフは不思議がるほどです。仕事上のことでも、何かをしてもらうと、「ありがとね」なのです。「ありがとね」が、彼女の生き方の原点なのですが、その「ありがとね」の心を育てているのが、金光教の教会へのお参りです。
小森さんが初めて教会に参拝したのは、実はその足の痛みがきっかけでした。彼女が15歳の時、お父さんが病気で亡くなりました。2人の妹がいたこともあって、家計を助けるために彼女は中学を出てすぐに働き始めました。
金属加工会社で総務の仕事をしていた32年前、小森さんが35歳の時、仕事場の階段を上がり降りすると、それまで何ともなかった両方の股関節に痛みを感じるようになったのです。痛みは日増しにひどくなり、我慢が出来なくなって、町の病院で検査を受けたのですが、結果はなんと、股関節の脱臼。それも先天性だというのです。生まれてからそれまで、何の問題もなく、元気に運動も出来ていた両足なのですが、生まれつき脱臼していたというのです。
小森さんは、病院で勧められるまま手術を受けることになりました。その入院の準備をしていると、妹のお姑さんから、「そんな大事な手術をするのだったら、一度教会へお参りしたらどうか」と言われ、その時参拝したのが笠松教会でした。お姑さんはこの教会の信者さんだったのです。
教会へお参りすると、先生は、ご神前で神様にお祈りした後、すぐに、「岡山県にある金光教の本部まで参拝しませんか」と言われたのです。小森さんはびっくりしました。初めてお参りしたばかりなのですから。それも、もう痛くて1人では歩けなくなっていた彼女を、80歳近い高齢の教会長先生が、奥様と一緒になって、夫婦で彼女の両脇を抱えてお参りしようというのですから。何という優しい温かい先生だろうと、感激しました。
本部では、金光教の教主である金光様に病気のことをお話出来ました。そして先生方と一緒にご神前でお祈りし、その後帰り道、岡山の治療院で治療を受けることになり、そこでの治療の後からは一人で歩いて帰れるほど楽になったので、その治療院の先生の言われるまま手術は回避することになったのです。
それ以来ずっと、手術はしないで、岐阜で治療を続け、今では左足は股関節に治まり、右足はまだ半分外れたままなのですが、時折起こっていた痛みも数年前には全くなくなりました。
頑張り屋の小森さんは、60歳まで勤めていた金属加工会社時代、よく上司とぶつかったと言います。自分の意見を聞いてもらえず、そのために仕事がうまくいかなかった時などは、悔しくて悔しくて泣きながら教会へお参りしたことも数々ありました。教会で先生に何でも聞いて頂き、腹の中を全部吐き出して元気になってまた仕事へ、そんな繰り返しの日々でした。
教会に参り始めのころは、自分の願い事だけが叶えばいいと思っていましたが、教会で先生や信者さんたちと触れ合っているうちに、人々やいろんな物のお世話になっている自分が見えてきました。それに従って、段々感謝の心を大事にした生き方が身に付いていきました。その結果が、今の、「ありがとね」という言葉となって現われてきたのです。
介護は決して楽な仕事ではありません。それどころか、むしろきつい仕事です。それでも、今の小森さんの願いは、いつまでもこの仕事を続けること。彼女の今の一番の楽しみは、利用者さんの笑顔を見ることなのです。いくらきつい介護の仕事でも、利用者さんの喜ぶ顔さえ見れたら、それだけでいいのです。
小森さんは今日も笑顔で、「ありがとね」の言葉と共に、介護の仕事に頑張っています。