●信者さんのおはなし
「化粧品店を続けて50年」
金光教放送センター
市内のあちらこちらに、「メガネ」と書かれた看板が多く見られる福井県鯖江市は、地場産業であるメガネの生産量日本一を誇る山に囲まれたのどかな町です。
この鯖江市で化粧品の専門店、「コスメティックス美香」を経営して50年。金光教武生教会に参拝される藤枝和美さんは71歳。化粧品販売では、県内でも有数の売り上げを誇るお店を経営しています。今も70代とは思えない、奇麗な肌、明るい笑顔でお客様と向き合います。
藤枝さんは、小さいころから人の顔や髪を奇麗にすることが大好きで、大きくなったら化粧品屋さんになるのが夢でした。
化粧技術の勉強をしながら働いていた20歳の時、通勤する電車の中でご主人と出会いました。お付き合いする中、藤枝さんが、「いつか化粧品の店を持ちたい」と話すと、ご主人も賛成してくれ、話はトントン拍子でまとまり、21歳で結婚、そして、西鯖江駅前に小さいながらも念願の化粧品店をオープンしました。
当時は、短い時間でどれだけのお客様を奇麗にして、満足頂けるかが勝負で、役所や農協、メガネ屋、会社などに出掛けて販売に回る毎日でした。
藤枝さんは、「1日100回ありがとうございますを言おう」という信念で商売に励みました。
藤枝さんの信心は、幼いころ、お母さんにおぶさって教会に参拝した記憶から始まります。夏の夜の参拝の帰り道、お月様が奇麗で、美しい星が光り輝いていました。お母さんは、「金光様は、天地の神様だから、お月さま、まんまんちゃんに手を合わせなさい」とか、帰りにおしっこをしたくなった時には、「地面の神様に申し訳ないから、早く帰りましょう」と藤枝さんの手を引き、急いで家まで帰ったこともありました。「天地を尊び、汚さないように」とお母さんから教えられたことは、今でも心に残っています。
藤枝さんが19歳の時、お父さんが食道ガンで亡くなりました。その時もお母さんは、「手術は大変だったが、あまり苦しまずにいられたのは、神様のおかげだった」と大きな心で受け止めます。
何かと苦労の多い人生でしたが、お母さんはいつもニコニコと感謝の心を大切にされました。そのお母さんの言葉や行動が、お店の合い言葉「1日100回はありがとうを」につながっています。
藤枝さんは長女、長男、次女と3人の子どもを授かりました。子どもたちが学校から帰って来て、「お母さん今日学校で…」と、いろいろ話そうとしますが、「後で後で」となってしまうほど仕事は忙しく、3人の子どもたちに構う時間がありませんでした。
長男は、小学校1年か2年の作文に、「お母さんはお店にいる時はニコニコとしてるけど、家へ帰ると鬼の顔」と書くほどでした。藤枝さんは、「その時は仕事に一生懸命だから子どもの気持ちが分からなかった。もっと子どもの目線で見てやれば良かった」と後悔します。
やがて子どもたちも成人したころ、今度はお姑さんが認知症になりました。ご主人は名古屋へ転勤のため、藤枝さん一人で、仕事、主婦、介護の三役をこなすことになりました。そんな時、あいにく藤枝さんは胆のう炎となり、入院を余儀なくされました。
その時、東京にいた大学4年生の次女が、「お母さん一人では大変だから」と帰郷し、手術する間お店を手伝ってくれることになりました。仕事に明け暮れる毎日で、家庭のことを全く顧みなかった藤枝さんには思いも寄らないことでした。
入院した藤枝さんの所には、お客様などたくさんの人がお見舞いに来られて、お医者様も驚くほど病室がお花で埋まりました。その様子を見た次女は、「お母さんはこんなにお客様から慕われていたんだ」と、お店を継ぐことを決心したのでした。長男、長女もそれぞれ独立し、藤枝さんを陰ながら支えてくれるまでになりました。
藤枝さんは、人とのお付き合いを大切にする中で、お客様からいろんな相談を受けることも次第に多くなりました。中には悩みの相談もあります。そんな時は、お客様の話に耳を傾け、一生懸命心の中で祈りながら話します。
開店50年を迎える今日では、お客様も3世代に渡るようになりました。「お客様や関わりある方々のことを祈らせて頂き、お役に立つことが出来る喜びを感じています」と、藤枝さんは言います。
お客様と長くお付き合いをさせて頂きながらも、今は、大型店が次々とオープンし、インターネットで商売をする業者も多く、決して順風満帆とはいきません。
時には、「せっかくお客様に一生懸命お化粧したのに売れなかった」と娘さんに愚痴ると、最近では、「お母さん、お客さんに話を聞いてもらっただけでいいじゃない」と言ってくれます。その時、ハッとさせられ、娘さんから気付かせてもらうこともあります。
藤枝さんは言います。「振り返るといろんなことがありましたが、 私は本当にいっぱい、いっぱいおかげを頂いています。これも小さいころ、母の信心と、教会の先生の祈りが、私の心に信心の基礎とでもいうべきものを植え付けてくれたからだと思います。それは、何があっても笑顔で、そして感謝の気持ちを忘れなければ必ず神様が守って下さる、何とかして下さるというものです」
「1日100回ありがとう」をモットーに、藤枝さんは今日も笑顔で娘さんと一緒にお客様に向き合います。