●こころの散歩道
「バレーボールのけいこ」
金光教放送センター
私はバレーボールが大好きな40代の主婦です。ママさんバレーを楽しみながら、バレーボールを始めた小学生のころのことをよく思い出します。
4年生の時、少女バレーボールクラブを立ち上げるという先生に誘われてバレーボールを始めました。先生はトスやレシーブ、サーブといった基本のプレーを手取り足取り教えてくれました。テレビで見ていたバレーボールのアニメの世界が憧れでした。
土曜日の午後、小学校の体育館では、隣の県立高校の女子バレー部が練習をしていて、よく見に行きました。バレー部のお姉さんたちは、体格も良くてとてもパワフルでした。テレビで見ていた憧れのプレーが目の前で繰り広げられ、大興奮でした。思い切りジャンプをしてパシッとスパイクが打ち込まれると、そのボールはズドンと床にバウンドして、ネットの高さほど高く弾みます。そんなプレーに目を見張り、圧倒されながら、「早くこんなプレーが出来るようになりたい」と思いが高まり、知らず知らずバウンドしたボールを追い掛けていました。ボールを渡すとお姉さんたちは、「ありがとう」と、にっこりほほ笑んで受け取ってくれました。照れ臭くもあり、誇らしくもありました。
お姉さんたちの練習の始まりは、1年生がネットを張って準備をして、しばらくすると2年生、3年生が体育館に入ってきます。先輩たちに気付いた1年生は、「こんにちは~」と体育館に響き渡る大きな声であいさつをします。
けれど不思議に思うことがありました。一番初めに来た1年生は、まだ体育館には誰もいないはずなのに、先輩にあいさつするのと同じように、「こんにちは~」と大きな声であいさつをしながら体育館に入っていくのです。
ボール拾いを楽しんで家に帰ったある日、両親に、「こんにちは~」のあいさつのことを話しました。すると、父が言いました。「これから練習をさせてもらう体育館に、『お世話になります。よろしくお願いします』という思いを込めてあいさつしているんだと思うよ」と感心しながら言いました。不思議に思っていた、「こんにちは~」の謎が解けました。
さらにお姉さんたちは、練習が終わると、体育館の入口に立って、「ありがとうございました~」と声を響かせ、一礼して帰っていました。
6年生になると、だんだんと練習時間が長くなり、家に帰る時間も遅くなっていきました。帰り着くと家族は晩ご飯を食べ始めています。急いで食卓に着くと、隣に座るおじいちゃんがいつも決まって、「今日もバレーボールのけいこしてきたんだね」と声を掛けてくれます。
「ウン」と返事はするものの、「おじいちゃんは変なこと言うなあ…。バレーボールは『けいこ』なんていう言い方はしないのに…。バレーボールは『練習』って言うのに…。おじいちゃんはおかしな言い方をするなあ…」と心の中で思っていました。
剣道や柔道なんかは「けいこ」と言っているのを聞いたことがありましたが「バレーボールのけいこ」という言い方は聞いたことがなかったし、なんだか昔っぽい、古臭い言い方だと感じていました。「違うよ、バレーボールは『けいこ』って言わないよ。バレーボールは『練習』って言うんだよ」。そう言おうとしたことが何度となくありましたが、「毎日よく頑張るね」とねぎらってくれるおじいちゃんに、「違うよ」と言うのは何だか悪い気がして、いつも言葉を飲み込んでいました。
どれくらい後のことだったか、おじいちゃんの部屋の壁に、「信心のけいこ」と書かれた色紙が掛けられているのを目にしました。その瞬間、「そうか、おじいちゃんが『けいこ』って言ってたのはこの言葉からだったんだ」とピンときました。自分の心を育てていくのを「けいこ」と言ってたんだろう。あの時、「違うよ」と言わなくて良かったなと思いました。
練習を終えて帰りかけたある日、少年野球クラブのメンバーが、練習の後、グラウンド整備を済ませると横一列に並んで、「ありがとうございました~」とグラウンドに深々と一礼しているのが目に留まりました。
「あっ、お姉さんたちもやってたことだ。私たちもやろうよ!」。熱い思いと勢いに乗って、チームメイトと約束しました。練習の後コートに向かって、「ありがとうございました~」が始まりました。
ママさんバレーを楽しむようになった今も、「ありがとうございました~」は、自然と続いています。
年を重ねるごとに体力は落ちてきて体の負担は増してきますが、元気に大好きなバレーボールが出来ることに、うれしい思いやありがたい思いが湧いてくると、その喜びがパワーとなるのか、心が踊ると体も弾んで動きが後押しされるように感じます。
感謝の心、喜びの心を大切にしながら、これからも「バレーボールのけいこ」を楽しみ、励んでいこうと思います。