モモとポン太


●昔むかし
「モモとポン太」

金光教放送センター

朗読:杉山佳寿子さん

 むかしむかし、ある山里に、モモという名の女の子が居ました。生まれた時、桃の実のようなほっぺをしていたからです。でも、モモを産んでくれたお母さんは、去年、村を襲った流行り病で死んでしまいました。

 モモは毎日独りぼっち。お父さんは山の仕事が忙しくて、日暮れまで帰って来ないのです。

 秋です。モモの小さな家の前に、大きなイチョウの木があります。モモは、寂しくなると、庭に降り積もったイチョウの葉っぱを手に取って見詰めます。そして、お母さんのことを思い出すのです。

 「モモ。これだけたくさん葉っぱがあったら、同じ形のものがあっても良かろうに、ほうら、よく見てごらん、全部違う。何と神様はすごいなあ。一つの葉っぱを作るにも、少しも手抜きをなさらん。いろんな葉っぱに、それぞれの美しさがあるように、おまえにも、おまえにしかない、良いところがあるんだよ」

 お母さんの言葉を思い出すと、モモは元気が出るのでした。
 その時、庭の片隅で、ガサッ、ゴソッと音がしました。見ると、子どものタヌキです。イチョウの葉っぱを頭に載せ、体をくねらせてピョンピョン跳んでいました。
 「何してるの?」
 子ダヌキは驚いて、くりくりした目を向けました。
 「ねえタヌキさん、あたし、友達が一人も居ないの。友達になろうよ」
 子ダヌキは、恥ずかしそうに、「うん」と言いました。
 「ねえ、あんたの名前は何て言うの?」
 モモは尋ねましたが、子ダヌキは首をかしげるばかりです。
 「じゃあ、あたしが名前を付けてあげる。『ポン太』っていうのはどう?」
 「えー、ポン太?」と、子ダヌキは、ヒゲを引っ張りながら、ちょっと考えました。
 「うん。いいよ」

 それからポン太は、毎日遊びに来て、フサフサのしっぽで落ち葉掃除を手伝ってくれました。そして、その合間に、またピョンピョン跳びはねるのでした。
 「よっぽど跳ぶのが好きなのね」
 「違う、違う。化ける稽古をしてるんだよ。イチョウの葉っぱを頭に載せて、ヨイショ! こうすると、いろんなものに化けられるはずなんだけどなあ」
 そう言ってポン太は、またもや体をくねらせて、ピョンピョン飛ぶのでした。その様子はとても滑稽で、モモは思わず大声で笑いました。あまりに笑ったので、ポン太は怒ってしまいました。
 「おいら、もう帰る」
 「ちょっと待って、それならイチョウの葉っぱをたくさん持って帰っておうちで稽古しておいでよ。奇麗な葉っぱを探してあげるからね。そうしたらうまく化けられるかも知れないよ」
 そしてモモは葉っぱを拾いながら、
 「ポン太、見てごらんよ。みんな同じように見えるけど、葉っぱの形や模様は一枚ずつ違うよ」
 「へーえ」
 ポン太は感心して、1枚1枚丁寧に見ました。
 「おっかさんが教えてくれたんだ。いろんな葉っぱに、それぞれの美しさがあるように、ポン太にも、良い所があるんだよ。今は出来なくても、いつかきっと、他のタヌキには真似の出来ない、すてきなものに化けられるようになるよ」

 明くる日は雨でした。ポン太は遊びに来ません。
 「ポン太はお家で、化ける稽古をしているのかなあ…」
 次の日から、秋の気持ちの良い天気が続きました。でも、ポン太は遊びに来ません。次の日も、その次の日も…、ずーっと。
 ポン太はもう私のことなんか忘れてしまったのかなあ…、とモモは思いました。
 木枯らしが吹く寒い日、モモは寂しくて、悲しくて、思わず山に向かって叫びました。
 「おっかさーん」

 すると後ろのやぶがガサゴソと音を立てました。振り返ると、なんとそこに、忘れもしないお母さんが立っていたのです。モモは思わず走って行って、お母さんに抱きつきました。嬉しくて涙がほっぺたを伝いました。お母さんは、涙をそっと、フサフサのしっぽで拭いてくれました。
 「あれ! 何でおっかさんにしっぽがあるの? あッ!」
 モモはハッとしました。そして、もっと強く抱きしめました。
 「ありがとう、ポン太!」

 おしまい。

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