●昔むかし
「梅吉の仕事さがし」
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金光教放送センター
朗読:杉山佳寿子さん
むかしむかし、ある村に梅吉という若者がおりました。
梅吉は両親と兄の松吉と一緒に、毎日田んぼや畑仕事をしておりました。
でも、梅吉は体が弱く、畑仕事は苦手でした。
ある日梅吉は、意を決して両親に言いました。
「おらぁ、どうも畑仕事に向かねえようだ。町に出て他の仕事をしてえんだが、行かせてくれねえか?」
おっかあは内心、「もっともだなあ」と思いました。
おっとうは、「なあ梅吉、どんな仕事も体が第一じゃ。健康で丈夫じゃねえと、何をしても長続きはしねえんだぞ」と言って諭しました。
実は梅吉は、畑で採れた同じ野菜ばかり毎日毎日食べ続けることに飽き飽きしていたのでした。
「松吉はしっかりと働いて、もう嫁を取るというのに…。全く梅吉には困ったもんだ。やれやれ、これから収穫で忙しくなるって時に…」
さて、梅吉は町に出ることにしました。
「町に出れば好きな物がいっペー食べられる。さてと、まずは仕事を探そう」
梅吉は、町を歩きました。
「ふー、さすがだ。いろんな店があるもんだなー…」
どんどん歩き続けるうちに、海辺まで来てしまいました。
「あー、腹が減ってきた。ぐうぐう鳴ってる」
梅吉は一軒の店に入りました。焼き魚が出てきました。
「うんめえ! よし決めた! おら漁師になるぞ! 漁師になれば、きっとこんなうめえ魚が毎日食べられるんだ」
梅吉は、漁師の親方に頼み込んで、雇ってもらいました。
しかし漁師の仕事は梅吉にはきついものでした。家に居た時より早起きをし、力仕事の上、海に落ちて溺れそうになったことさえあります。親方には怒鳴られてばかり。おまけに毎日おいしい魚が食べられるわけではありませんでした。
ある日、親方は梅吉に尋ねました。
「どうだ梅吉、漁師の仕事は?」
「おらぁ、実は、毎日うめえ魚が食べられると思って漁師にしてもらったけど、やっぱりおらにはキツいです」
「何? 毎日うめえ魚が食べられるだと? バカヤロー! おめえはどうも食べ物の好き嫌いが多いようだが…。いいか、そもそも食べ物っていうのはな、神様が作って授けて下さってる物なんだ。どんな物でも有り難く頂かなきゃならん。食べ物に不足を言ったり、食べ物を粗末にするなんてことは、神様のお恵みや人の骨折りといったものを無駄にすることになる。そうは思わねえか?」
親方に言われ、梅吉はハッとしました。
「確かに、お天道様や雨や土がねえと作物は出来ねえもんなあ…。それに、おっとうやおっかあの身になったら、一生懸命汗水垂らして作った野菜を、不足に思いながら嫌々食べられたもんなら、やってらんねぇだろうなあ」
「そうだろう。それならこれからは食べる時には、不足を言ったり粗末にすることのねえように、何でも有り難く頂くんだ。体が喜ぶような頂き方になるといいなぁ」
1年が経ち、秋になりました。
梅吉は、親方や漁師仲間と秋祭りに行きました。何やら人だかりが出来ています。
「親方親方、あれは一体何でしょう?」。梅吉が尋ねました
「米俵を担いで力自慢を競い合うんだ。おっ、どうだ、梅吉も出てみねえか?」
梅吉は、1年前とは見違えるほどたくましくなっていました。
「よーし、一丁やってみるかー!」
そんな梅吉の姿を、ひそかに見詰める女性がいました。
「さあ、いくぞ… ぺっ、ぺっ、おりゃ~~~」
あちこちから驚きの声が上がり、続いて、拍手が湧き起こりました。梅吉は見事、1等賞になったのです。
「梅吉さん」
しばらくして、女性の声が聞こえました。振り向いた梅吉はドキッとしました。そこには、とても美しい女性が立っていました。
「ど、ど、ど、どちら様でぇ?」
「えっ、忘れたの? 子どもの頃、一緒に遊んだおしのよ」
(心の中で)「えっ!? あの泣き虫おしの?? あのおしのが、こんな美しい娘に…?」
梅吉は驚きのあまり、声が出ませんでした。
それから時が経ち、梅吉は漁師を辞め、田舎に帰ろうと決心しました。
「おっとう、おっかあ、ただいま! おら、嫁さもらうぞ!」
おしまい。