●信者さんのおはなし
「神様を使っていいんですか?」
金光教放送センター
萩焼きで知られ、錦帯橋や秋芳洞など観光資源が豊富な山口県。白坂広子さんが参拝する宇部東教会は、空の玄関口となる山口宇部空港がある宇部市にあります。
18年間、訪問介護ヘルパーの仕事を続けている広子さんは67歳。3人の娘と息子たちは、それぞれ家庭を持ち、2人の孫がいます。定年を迎えたご主人に送り出され、ほぼ毎日、数軒の利用者さんのお宅を訪問し、はつらつと日々を過ごしています。広子さんの真心のこもった仕事ぶり、奮闘ぶりを知る周囲の人は、皆一様に感心し、「大変ね~」「すごいね~」と口にします。広子さんは決まって、「いいえ」と首を振り、「大変じゃないんです、楽しいんです」と、目を輝かせながら笑顔で答えます。
訪問介護ヘルパーは、ケアマネージャーが作ったプランに沿って、介護を必要とされる方のお宅を訪問し、お世話をします。体を拭いたり、オムツ交換や入浴の介助など、体のお世話をする「身体介護」と言われる内容と、食事作りや買い物、掃除、洗濯など、家事をサポートする「生活援助」と言われる内容があり、利用者さんの希望もくみながら、状態に応じて必要な内容が決められます。
曜日毎に複数のヘルパーが一人を受け持つので、日によって内容に違いがあってはいけません。制度の上でも、決められている以外のことは出来ないのですが、広子さんは、常に、あれもしてあげたい、これもしてあげたいという思いがあふれます。
ここ最近は、認知症の方をお世話することが増えてきました。体のお世話や生活のお世話だけではなく、心のケアも大切だと感じ、心を寄り添わせながら取り組んでいます。
広い敷地の大きな家に一人で暮らす90代のおばあさんのお宅を訪問した時のことです。着くと、家の前にはパトカーが停まっていて、家の窓ガラスが割れています。おばあさんと話をしている警察官は困り果てている様子でした。広子さんが近付いていくと、おばあさんは広子さんを見るなり、「あんた、何でパトカー呼んだのよ」と、叱るように広子さんに言いました。これはきっとおばあさんが自分でガラスを割ってしまい、自分でパトカーを呼んだものの、パニックになってしまったんだなと察した広子さんは、「ごめんね、間違えちゃった」と、とっさに答え、おばあさんを落ち着かせました。そして警察官におばあさんの状態を説明してその場は納まりました。
おばあさんは、認知症の影響で、時折暴言を吐いたり、杖でテーブルを叩いたりすることがあり、訪問出来るヘルパーがなかなかいません。続かなくて辞めてしまう人がほとんどです。広子さんは約6年間、神様にお願いしながらお宅を訪問し、お世話を続けました。おばあさんは段々と広子さんに信頼を寄せるようになり、「あれをしてほしい、これをしてほしい」と自分から頼んだりしていました。特に入浴の介助は広子さんにだけ委ねていました。
ある日、広子さんは朝目が覚めると同時に、なぜかふとおばあさんの顔がまぶたに浮かびました。おばあさんは体調が優れずしばらく病院に入院していました。入院して2週間後、おばあさんは亡くなりました。実は顔が思い浮かんだというその日はおばあさんが亡くなった日でした。そのことを知った広子さんは、おばあさんと心を通わせることが出来ていたのかなと、悲しい中にも穏やかなものを感じました。
広子さんの信心は、子どものころ、お母さんに連れられて教会にお参りしたことに始まります。結婚して生まれ育った土地を離れても、教会参拝は続きました。広子さんの信心に理解を示すご主人が、教会を探し、参拝を後押ししてくれました。子どもに問題が起きた時など、当然のように神様に向い、神様を信じておすがりしていくうちに、「神様にお願いしたら大丈夫」という安心感を得ていきました。ヘルパーの仕事をする時も、教会の先生が書いて下さった教えの言葉を常に携帯し、「何事も神様がさせて下さる」「神様がいつも一緒だから」という安心感に包まれて利用者さんと向き合っています。
オムツを交換することを嫌がる方に対して、「おしりにできものが出来ているから見せて」という言葉がとっさに口から出てオムツ交換が出来たことや、便が出なくて苦しんでいる方がいた時は、神様にお願いしながらお世話をしていると排便が出来た、という不思議なこともありました。すべて神様が言わせて下さり、させて下さっていると感じています。
けれど時には、うまくいかないこともあり、さらに神様にお願いします。お願いしてばかりで、「こんなに神様を使ってもいいのかなあ?」と、ちょっぴり心配になりながらも、広子さんは一層祈りを深めています。
金光教の教えの中に、「信心するといっても、みな神様を使うばかりで、神様に使われることを知らない。神様は人を使いとなさる。神様に使われることを楽しみに信心せよ」という教えがあります。
広子さん自身は、神様を使うばかりだと感じているようですが、もうすでに神様は広子さんを使って下さっていて、多くの助かりや喜びが生まれているのだと、思えてなりません。
そして広子さんは、利用者さんから、「ありがとう」、「また来てね」と言ってもらえることが嬉しくて、元気をもらいます。「神様がさせて下さる間は、この仕事を続けたいです」。そう言って、一際目を輝かせる広子さんは、喜びに満ち溢れているのでした。