●金光教教務総長・年頭放送
「『ありがたい』と思える心を育てる」
金光教教務総長
岡成敏正 先生
皆様、新年明けましておめでとうございます。共々に今日の命を頂いて、つつがなく新しい年を迎えられましたことを心よりお慶び申し上げます。
昨年は、戦後70年の節を迎え、平和への祈りや決意を新たにさせられました。社会に目を向けてみますと、宗教や文化の違い、また、国家間の経済格差や人種差別などによる紛争やテロが世界各地で頻発し、国内でも、人命を軽視した事件が続いております。まことにつらく悲しい現実であり、その背景には、様々な事情や問題があるのだろうと思われます。
そうした現実に出遭わされるにつけ、思い起こされるのは、かつてアメリカのシカゴ大学教授、ピアス・ビーバー博士が、金光教本部を訪問された時のことです。
ビーバー博士は、当時の教主金光攝胤様に、「日本の人々だけでなく、世界中の人々に対して、何かメッセージがありましたらお聞かせ下さい」と言われました。つまり、現在、世界情勢が不安定である。戦争が起きてはならぬが、どうしたらよいか。また、世界の人々の生活に不平等があり、人種差別もあって、大きな問題になっている。そういう問題について何かメッセージがあれば聞かせてもらいたいと言われたのであります。
それに対して金光攝胤様は、「いろいろ願いがありますから、そのご都合を頂かれますようお願い致しております」と答えられたということであります。
金光教には、教祖様以来、「世間になんぼうも難儀な氏子あり、取次ぎ助けてやってくれ」との神様のみ心を受けて始められた取次があります。それは、いろいろな人、どんな願いでも、「難儀な氏子」の悩みや生活上の問題を、しっかりと聞き受けて神様にお届けし、その立ち行きを祈ることであります。金光攝胤様は、ありのままに、日頃お祈りになっているところを、そのままにお話になられたのだと思われます。
それについて、宗教学者の荒木美智雄先生は、「金光攝胤様の願いの中身は、はるかに日本の各宗教を超え、全ての宗教の、そしてありとあらゆる人の願いに開かれている。『開かれている』というのは、全ての人、どんな願いでも受け入れるということで、そこには、対立も、対抗も生まれようがなく、生まれるのは、『いろいろと願いがありますから、ご都合、お繰り合わせを頂かれますよう、お願いしております』という祈りであり、その祈りには『全ての枠を越え行く大きさ』がある」と指摘されております。
私は、この指摘を通して、そのような深い祈りに包まれている自分であることに改めて気付かせられ、その尊さ、ありがたさを思わせられたのであります。
さらに、金光攝胤様のみ後を受けられた前教主金光鑑太郎様は、
「世話になるすべてに礼をいふこころ人が助かり立ちゆくこころ」
「世話になるすべてに礼をいふこころ平和生み出すこころといはん」
というお歌をそれぞれ詠んでおられます。
そして、この「世話になるすべてに礼をいふこころ」について、金光鑑太郎様は、次のようなお話をなさっております。
人間は、「今日までの歴史の中で、誰一人として、自分で生んでくれと言って生まれてきた人はいない。天地のお働き、恵みの中に、命の働きが、ずっとおかげを頂いてきて、生まれた所や時やいろんなことはそれそれに違いはあっても、親の子として、恵みの中にお世話になって、命を頂いて生まれてきたということは皆同じであり、それが人間の出発であると思われ、そのお互いが、恵みの中にお世話になって生まれてきたことにお礼を申すことは、人間として当たり前のことではないか」と。
また、誰もが歩む喜怒哀楽の人生について、「天地の恵みの中に生まれてきた命が、たとえば、『目が覚めることが出来た、食事を頂くことが出来た、歩くことが出来た』というように、皆『出来た』ということで成り立っている。人は『した』と言うけれども、おかげで、お世話になって、することが出来たということを、『した』と表現しているだけで、中身は、そういうことであり、そのことにもお礼を申しながら人生を歩んでいくことが大切である、と。
さらには、人間は、お世話になることに慣れると、お礼を言うことを怠りがちになる。お世話になってありがたいという生き方にならずに、当たり前のこととして過ごしていく生き方になりやすい、ともお話になっております。
つまり、私たち一人ひとりは、天地のお働きの中に、尊い命を頂いて生まれ、恵みの中に生かされて生きているお互いであります。そのお互いがお世話になり合って生活させて頂いているということに気付かせられますと、「ありがたい」と思う心が生まれてまいります。お礼を土台とした生活が始まれば、神様がお喜び下さり、「人が助かり立ち行く」道が開かれてくる。しかも、それがそのまま「平和を生み出すこころ」になると、お示し下さっているのであります。
新しい年を迎えるに当たり、皆様にもお世話になって「ありがたい」と思える心を大切に、一日一日をお過ごしになり、ここからの一年が喜びに満ちあふれた素晴しい年でありますよう、心よりお祈り申し上げます。