行ってらっしゃい


●先生のおはなし
「行ってらっしゃい」

金光教仙崎せんざき教会
浜田寿惠はまだひさえ 先生


 「行ってきまぁす」
 「はぁい、行ってらっしゃい。気をつけてね」
 毎朝、慌ただしく登校する我が家の3人の子どもたち。私は他の用事をしていても、出来るだけ元気よく声を掛け、子どもたちを送り出すようにしています。そして、「気を付けてね」と言った後に、声にこそ出しませんが、「今日もよろしくお願いします」と、神様に子どもたちの一日の無事をお願いしています。
 でも、それは子どもと私が機嫌よく朝のひとときを過ごせた時のことで、1週間の半分は、「はよう起きて」「はよう行きいや」などと、けんか腰で送り出したりしています。そして、子どもたちが出掛けた後で、「しまった! またやった。神様ごめんなさい、また怒ったまま送り出してしまいました」と神様にお詫びをするのです。
 さて、私は金光教の教会で、両親や祖母の祈りの中で大きくなりました。大人になっても両親の私たちに対する祈りは少しも変わっていないと思います。
 今から15年前、私たち家族は当時住んでいた社宅を引っ越すことになりました。借家を探している最中に、母に、「いいところがなかなか見付からんのよ」と愚痴をこぼしました。すると母は、「いい所が見付かりますようにって神様にちゃんとお願いさせてもらうから安心して探しよき」と答えてくれました。実はこの時、私は駅まで近いとか、家賃が安いとか、条件のいい所を探していると言ったつもりでした。しかし、母は純粋な気持ちで、「いい所が見付かりますように」と神様に願ってくれていたのではないでしょうか。
 その後、何とか駅に近い今の家を見付けることが出来ました。そして、引っ越していくと、近所の方たちが私たち家族を驚くほど温かく迎えて下さいました。子どもたちのこともまるで自分の孫のように可愛がって下さいます。子どもたちは山で遊ばせてもらったり、畑のそばを歩けば野菜を頂いたり、優しい言葉を掛けてもらったりと、色々な体験をしながら、のびのびと成長しています。あの時母が神様に願ってくれたからこそ、今の生活があるのだと思います。
 また、今でも実家の教会へ帰省した折、我が家へ戻る時は、父が必ず私たちの車が見えなくなるまで、ずっと手を合わせて祈るようにして見送ってくれています。移動中の無事や、今後の私たちの無事を神様にお願いしてくれているのだと思います。
 その両親に比べて、今の私は親としてどうなのでしょう。金光教の前の教主金光様のお歌に、「ちちははも 子どもとともに 生れたり そだたねばならぬ 子もちちははも」「ちちははも 子どもとともに 生れたり そだたねばならぬ 子もちちははも」というものがあります。
 日々成長していくのは子どもたちだけではありません。親自身がその子どもの親として日々成長しなければならないのです。
 長男が小さい時にこんなことがありました。元々よく熱を出していましたが、その時も1週間くらい38、39度の熱が続いていました。夫はいつものように残業だったので、2人で夕食を済ませ、寝かし付ける準備をしようと思っていた矢先、私が目を離した隙に、ドスンと物が倒れる音がしました。ふざけているのかと思いながら部屋に戻ると、子どもが硬直したまま倒れていました。「えっ」。私の頭の中はパニックです。子どもを抱き抱えながらも何が起こったのか分かりません。その時思わず、「金光様!」と声を出していました。と同時に、頭の中に、以前おしゅうとさんから聞いた話が浮かんできました。
 「ええか、寿恵さん。子どもが小さいうちは高い熱が出た時に、ひきつけを起こすことがある。でも、すぐ治まることが多いから慌てんでもええ」と、お舅さんの知り合いの小児科の先生の話を聞かせてもらっていたのです。「子どもがひきつけを起こしたら、お母さんはまず自分を落ち着かせることが一番じゃ。まずは子どもの様子をしっかり見といてやれ」という内容でした。それを思い出した途端、私の頭の中はすーっと冷めていきました。とりあえず子どもの様子を静かに見ようと思えたのです。
 しばらくして子どもはひきつけが治まり、落ち着くことが出来ました。私はお舅さんに話を聞かせてもらっていて良かった、それを思い出すことが出来て良かったと思いました。そして、自分がパニックになった時、無我夢中で頼ることが出来る神様に出合えていて良かったと、心の底から感じました。
 このように子どもを育てていると、親であってもどうにもならないことが次々と起こってきます。だからこそ神様にお願いさせてもらうことが大切だと思います。
 「行ってきます」と出掛けた子どもたちに親の目は届きません。「ただいま」と無事に帰ってこられるように、神様にお願いさせてもらうばかりです。
 子どもたちの年齢にふさわしい親として、私自身が少しでも成長出来るよう、神様に心を向けて毎日を過ごしていきたいと思っています。

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