●先生のおはなし
「幸せをかみしめて」

金光教八木教会
八木道徳 先生
私は車である場所を通ると、必ず2年前の出来事を思い出します。
息子の亨が小学6年生のある日、友だちのお父さんに連れられて泣きながら帰宅してきました。スケートボードに乗っていて、勢い余って転倒しアスファルトで頭を強打したとのことでした。転倒した時の記憶が無いようで、大事をとって車で送ってきて下さったのです。
目立った外傷や出血が無かったので、しばらく頭を冷やして様子を見ていましたが、横になると、「頭が痛い!」と泣いてしまいます。普段の様子と違うので、近くの病院に救急外来での診察をお願いしましたが、脳外科の先生がおられないので対応出来ないとのことでした。他の病院を探している間に、子どもの顔色がどんどん悪くなり、寒気と吐き気を訴えたので救急車を呼びました。
救急車の到着後、救急隊員に事情を話すと、搬送先を懸命に探して下さいましたが見付からず、とりあえず子どもと妻を乗せて救急車が出発しました。出発して間もなく、搬送先の病院が決まり、私は車で後を追いました。
搬送後、すぐにCT検査をして頂きました。担当医から、頭がい骨骨折、硬膜外血腫であると告げられ、「出血で脳圧が上がり、頭痛、めまい、吐き気の症状が出ている」との説明を受けました。さらに、「点滴で止血剤を投与し、2時間後にもう一度CTを撮って出血が止まっていれば、入院をして経過観察をしますが、出血が止まらなければ開頭手術をします」と告げられ、事の大きさに頭が真っ白になりました。
処置室から個室へと変わり、亨はベッドの上で泣いていました。実は、指折り数えて楽しみにしていた修学旅行が11日後に近付いていたのでした。痛みと不安で泣き続ける亨に私は、「今は泣いてもいい。でも泣き続けることはあかん。過去には戻れないから悔やんでも仕方がない。神様はけがが治るように働いて下さっているから、亨に出来ることは気持ちを落ち込ませないことや。『ありがとう』という言葉を増やして、心配な時は、『こんこうさま。こんこうさま』と心の中で唱えなさい。修学旅行に行けることを楽しみにして頑張らなあかんで…」と、子どもの気持ちを落ち込ませないために、精いっぱいの言葉を掛けて励ましました。
救急車で搬送されたことを聞かれた教頭先生と担任の先生は、夜分、遠方にもかかわらず病院に駆けつけ、励まして下さいました。聞けば、学校でも先生方が遅くまで残って心配して下さっているとのことで、申し訳なく思うと同時に、快復を祈って下さっていることを本当にありがたく思いました。
2時間後の検査で出血が止まっていることが確認出来た時は、安堵しました。翌朝から食事を摂ってもいいこと、退院には10日から2週間掛かることを告げられました。さらに、生まれつき左の脳に水の袋があり、今後、柔道・ラグビーなどの頭に衝撃を受けるスポーツはしてはいけないことが判明しました。思い掛けない形で、息子にとって大事なことを知らせて頂き、神様のお働きを感じずにはいられませんでした。
病院は完全看護なので付き添うことが出来ず、深夜12時頃に病院を後にしました。その後、自宅の神前で夫婦そろってご祈念をしました。親としての不徳をお詫び申し上げ、そのような中にも多くの方々のお世話になって助けて頂いていることに、御礼を申し上げても申しきれない気持ちで神様に向かいました。
翌朝、通勤前に病院へ向かいました。搬送された病院は通勤途中にあり、行き帰りに様子を見ることが出来るので本当に助かりました。
修学旅行に行けるかどうか、ギリギリのところでしたが、本人は行けることを楽しみに、気持ちを前に向けて、「こんこうさま。こんこうさま」と唱えて頑張っていたようです。食事をしている時や頭を動かすと痛がりましたが、「ありがとう」の言葉を大切に取り組んでもいました。おかげで入院から2日後の夜には24時間点滴が取れ、トイレまでの歩行が許可されました。当初は歩くとふらつきがあり、心配しましたが、少しずつ改善していきました。
入院中には、校長先生や担任の先生が忙しい中にもお見舞いに来て下さいました。何より、クラスメートから、「一緒に修学旅行に行こう!」との励ましの寄せ書きをもらって、本人も元気をいっぱい頂き、皆にお礼の手紙を書くことも出来ました。
その後も順調に快復し、入院して5日目に退院させて頂くことが出来ました。また、修学旅行にも条件付きながら行っても良いとの許可を頂き、親子だけでなく学校の先生方や保護者の皆さん、友達までも自分のことのように喜んで下さいました。
教祖様は、「神は、人間を救い助けてやろうと思っておられ、このほかには何もないのであるから、人の身の上にけっして無駄事はなされない。信心しているがよい。みな末のおかげになる」とみ教え下さっています。あれから2年が過ぎ、亨は中学2年生になりました。マット運動や柔道の授業に配慮して頂きながら、大好きな野球や勉強にと頑張っています。
通勤途中、車で病院に向かった場所を通ると、今でもあの時のことを思い出します。そして、必ず、今の幸せを当たり前にせず、神様のご恩に応える生き方が出来ているかどうか、自問自答させられます。今日も精いっぱいご恩返しが出来るように頑張りたいと思います。