●昔むかし
「ハナと雀とスイカ」
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金光教放送センター
朗読:杉山佳寿子さん
昔むかし、ある山あいの小さな村にハナという女の子がおりました。
ハナの家の近くには、奇麗な小川が流れています。そこには小さな魚も泳いでおりました。
暑い夏には、ハナもその小川で水遊びをするのが大好きでした。そしてハナのそばでは、いつも雀のチュン助が羽をパタパタさせながら水浴びをしておりました。
この雀は、小さいころ、巣から落ちて弱っていたのをハナが見付けたのです。ハナはいつもお父さんから、「命を大切にしなさいよ」と教えられていましたので、とても可哀想に思い、わらでおうちを作り、大切に育てたのです。そして子雀に「チュン助」という名を付けました。チュン助はもうすっかり大きくなり、ハナをお母さんのように思っているみたいでした。
ある時、嵐が来ました、いつもの嵐と違って、それはそれはひどい風と大雨の日が3日3晩も続きました。お父さんもお母さんもハナも、せっかく育てた畑の作物がどうなっているかとても心配でした。
やっと嵐が去り、お日様がカンカン照っております。みんなは畑に行き、倒れてしまった作物の後始末に大忙しです。ハナの肩に止まっているチュン助の、「チュンチュン」という鳴き声が、皆を励ましているようでした。
帰りに小川に行ったハナは大層驚きました。何と、透き通るような川の水が茶色になっていたのです。お父さんは、「これは嵐のせいで2日もすれば元の川に戻るだろう」と言いました。
けれど、何日経っても川は奇麗になりませんでした。お父さんは村の人たちと山に登り、川上の様子を見に行きました。しかし途中で大きな岩が道を塞ぎ、それ以上は登れません。皆ため息をつくばかりです。
ハナは良いことを思い付きました、
「ねえチュン助、山に飛んで行って川の様子を見てきてよ」
チュン助はすぐに飛び立ちました。しばらくして戻ってくると、
「ハナ、大変だよ。山の崖があちこち崩れて泥水がどんどん流れているよ。山の上の大きな池も泥水でいっぱいだ」と言いました。
川はいつまで経っても元の川に戻りません。その内に行きずりの旅人が川にゴミを捨てるようになりました。きっと、「こんな汚い川ならゴミを捨ててもいいだろう」と思ったのでしょう。
以前の奇麗な小川を知っているハナは悔しくてなりません。それで、小川の掃除をすることにしました。
ある時ゴミを取り除いておりますと、小川の中ほどに土がこんもりと盛り上がっている所に、何か小さな葉っぱのような物が出ていることに気付きました。それから毎日のように見ておりますと、その小さな葉っぱは少しずつ大きくなり、そしてその先からは、つるのような物が伸びているのに気付きました。
「一体これは何の葉っぱだろう」とハナは思い、こんな汚れてしまった小川に何か新しい命が誕生しているようで、うれしくなりました。
何日かすると、つるの辺りに小さな丸い物が付いていました。さらに何日かするとまた大きくなっています。よく見ますとその丸い物にしま模様があるではありませんか。ハナは急いでお父さんを呼びに行きました。
お父さんはつくづくこれを見て、
「へえー、ハナ、これはスイカだよ。こんなに汚れた川でもスイカは一生懸命に生きているんだねー。こんな所で小さな種から命が生まれ、すくすく育つなんて、天地のお恵みって凄いなあ」
ハナは胸がワクワクしてきました。
気のせいか、小川の水が以前より奇麗になったような気がします。
「月日が経ったら、また前のように奇麗な川になり、魚が戻って来るかもしれない」
ハナはそう思うと、とても楽しいことがいっぱい待っているような気がして、毎日のようにチュン助と仲良く小川を見に行くのでした。
そしてスイカは元気に大きくなっていきましたと。
おしまい。