●信者さんのおはなし
「ここに来れてよかった」
金光教放送センター
奈良県の北西部に信貴山という山があります。標高437メートルのこの山は、聖徳太子が、「信ずべし貴ぶべき山」として「信貴山」と名付けたそうです。
その信貴山の麓にある金光教王寺教会に参拝する北谷千加子さん、65歳。親しい方はもちろん、教会の先生や奥様からも、「ちかちゃん」の愛称で呼ばれています。年齢を感じさせない可愛らしい印象から、つい釣られて、「ちかちゃん」と呼んでしまいそうな、呼びたくなるような、初めて会ったと思えない親しみを感じます。
千加子さんは結婚して41年になります。金光教の信心をしていた夫のご両親が、千加子さんを娘のように優しく温かく迎え入れてくれ、その喜びが今も千加子さんの大きな支えになっています。
そのご両親はすでに亡くなり、現在は3歳年上の夫と2人暮し。息子と娘はそれぞれ家庭を持ち、近くに住んでいます。月に1度、教会の先生に来てもらい、自宅の神棚でお祭りをしていますが、4人の孫たちを含め3世代10人が揃います。お祭りの後、皆で食事をすることも楽しみで、料理に腕を振るいます。
千加子さんの信心は嫁いでから、お義母さんに連れられて教会にお参りしたことから始まり、ご両親が信心のお手本でした。
ご両親の信心は、お義父さんが病弱だったことがきっかけでした。お義父さんは会社の行き帰りに教会に参拝し、自分の体のことはもちろん、家族のこと、親戚や知人のことまで神様に祈っていました。何度か入退院を繰り返しましたが、病院でも同じ部屋の方のお世話をしたりと、心配りの出来る優しい人でした。お義父さんは口癖のようによくこう言っていました。「神様にお願いしたら、何でもさせてもらえる」。これは、千加子さん夫婦の信心の礎になっています。
お義母さんは、どんなに荒れた天気の日も、毎日教会にお参りしていました。特にお義父さんが入院している時は、病院へ行った帰りに必ず教会へ足を運びました。お義父さんの様子など教会の先生に話を聞いてもらうこと、そして先生の話を聞くことが何より楽しみでした。神様に打ち明けるつもりで、うれしいことも心配なことも全て話し、聞いてもらうと安らぎと力をもらえるようでした。そして家に帰ると、疲れていても明るく家事をこなしていました。千加子さんは仕事に出ていたので、家事や子育てに苦労を掛け、お世話になったと今も感謝の思いを忘れません。
千加子さんは縫製の仕事を長年続けていて、今の会社では自動車に関わる部品を縫っています。仕事を始めたころ、黙々と大量の製品を縫い上げていく千加子さんをねたましく思えたのか、こっそり手を抜いて千加子さんに負担を掛けようとする人がいました。しかし、そのことは仲間から知らされるまで全く気が付かなかったようです。なぜなら、千加子さんにとっては、大好きなミシンの仕事が嬉しくて、一枚でも多く縫えることがただただ喜びでしかなかったからです。
「何十枚、何百枚と同じ物を縫っても使うのは一人の人だよ。使う人に喜んでもらえるような物を作ることが大切ですよ」という教会の先生から頂いた言葉を胸に、使うミシンに感謝しながら取り組む毎日です。
ある日こんなことがありました。一日の仕事を終えてタイムカードを押している時、通り掛かった工場長から、「何をブツブツ言っているの?」と尋ねられ、ハッとしました。今日も一日無事に仕事をさせて頂けたことにお礼を言っていたのです。
千加子さんは知らず知らずのうちに、お礼の言葉を口にするようになっていました。それは、夫の全克さんの影響でした。全克さんは先天性の脊椎の病気で体が不自由になり、杖を頼って歩きます。1本だった杖が今では2本必要です。転んで何度も肋骨を傷めました。全克さんはそんな自分をふがいなく思っても不思議ではないのに、「だんだん転び方が上手になった」と言います。
全克さんは毎日、朝起きるとまず目が覚めたことに感謝し、休ませてもらった布団にも手を合わせ、車を運転して教会参拝に向かいます。車を止めて、教会までどんなに時間が掛かっても一歩一歩杖にお礼を言いながら歩き進み、神様に祈ります。
日曜日など、野球の記録員や審判にと声が掛かると喜んで出掛け、後輩の育成にも務めます。仕事をしている千加子さんに代わって、買い物にも出掛けます。神様にお願いして出掛けると、車の乗り降りを手伝ってくれたり、買い物力ートを押してくれたりと、まるで神様が手を貸して下さるかのように、誰かが助けてくれます。
そして、夜寝る時には一日のお礼を申し、休ませてもらう布団にもまた手を合わせ、一日が終わります。
全克さんは何事もうれしくありがたく受け止め、その時の喜びを千加子さんに話さずにはいられません。
いつしか千加子さんもバイクに乗る時、お手洗いへ行く時、どんな時にも何かを始める時には、「ありがとうございます」と言って取り掛かり、終わるとまた、「ありがとうございました」と、口にするようになりました。
そんな千加子さんに、実家のお母さんが亡くなる前、「ちかちゃんは幸せやなあ。お母さん心配ないわ、安心や」と言ってくれたのです。親孝行が出来たかなと思うと、うれしい限りでした。
「北谷の家に嫁いで来れて良かった」
持ち前の素直さで何事も神様にお願いし、お礼の心を大切にした喜びあふれる生活に、この上ない幸せを感じている千加子さんでした。