神様と二人暮らし


●信者さんのおはなし
「神様と二人暮らし」

金光教放送センター


 「えっ本当に96歳なんですか?!」
 富山市にある神通じんつう教会にお参りの高井三枝たかいみえさんの第一印象です。髪は、少し白髪のあるどちらかというと黒髪。薄化粧して、聡明で上品な話し方。そして時折見せるチャーミングな笑顔。どうしたらそんな風に歳を重ねることが出来るのでしょうか。お話を伺いました。
 三枝さんの実家は、母親が熱心な金光教の信者で、子どものころから教会にお参りしていました。昭和13年、父親の転勤で家族は、満州に渡り、三枝さんもタイピストとして働くようになります。昭和19年、ご縁を頂き、満州で結婚をしました。けれども、戦争は激しさを増し、三枝さんの夫も2カ月後、招集されました。時を同じくして、父親が亡くなり、三枝さんは満州から実家のある富山に引き揚げました。
 帰って数日後の昭和20年8月1日から2日に掛け、アメリカ軍による富山大空襲がありました。その日、三枝さんは、防空壕にいましたが、家はB29の爆撃を受け大破しました。とっさの判断で、防空壕を飛び出し、川に飛び込んだことが幸いし、奇跡的に命を助けられました。
 富山市街地の99.5%が焦土となったと言われる大空襲の中、「これは、神様のお守りあってのこと」と三枝さんは思いました。そして、命を助けられた感謝の気持ちが、ますます神様を信じる強い気持ちになっていくのでした。
 家を焼け出された三枝さんは、農家の末っ子だった夫の実家に身を寄せることになりました。そこでは、総勢24人の食事の仕度をする日々が続きました。しかし、戦争が終わっても戦地の夫は、いつ帰るとも分かりません。末っ子の嫁がいつまでもここでお世話になるわけにもいかない。ましてや、神様に助けられたこの命。この先、私の成すべきことはなんだろうと、そんな思いが三枝さんの中に湧き上がってきました。
 そこで、三枝さんは思い切って、夫の実家を出て暮らす決心をしました。この先どうなるのか不安はありましたが、神様にお礼をしたいという強い思いの中、道がついていきました。
 昭和21年4月、まだ戦後の混乱が続く就職難の中、自ら富山にある大手企業に売り込み、三枝さんは働き始めました。仕事だけでなく、生かされた自分が成すべきこととして、自ら婦人会を発足させ、女性の労働状況改善のため、動き始めるのでした。
 その後、シベリアに抑留されていた夫も帰宅した昭和25年、三枝さんに卵巣嚢腫のうしゅが見付かり、手術をしました。思いの外、病気が進行しており、手は尽くしてもらいましたが、全てのうみは取り切れませんでした。退院後、三枝さんは、教会の先生に頂いたご神米しんまいを頼りに、傷口の痛みも気にならず家事に務めました。
 ご神米とは、神様のお米と書きます。天地の恵みのシンボルである、祈りの込められたお米が小さな和紙に包まれています。その神様のお徳が込められたご神米を頂き切り、元の暮らしが出来るようになりました。本当にありがたい気持ちでいっぱいでした。
 しかし、この様子を間近で見ていたはずの夫は、いっこうに神様を信じようとはせず、三枝さんの信心にも理解を示してくれませんでした。戦争に翻弄ほんろうされ、傷ついた夫でしたが、だからこそ一緒に信心をしてほしいと三枝さんは、常々思っていました。
 三枝さんが思い切って夫に理由を尋ねると、「お前は、いつも俺を責める」と言われ、驚きました。自分は、一度も夫に不足を言わずにいたつもりでしたが、口にしなくとも、「なぜ分かってくれないのか」という不満が、態度に現れていたのだと気付きました。「これは、申し訳ない。この神様は、慈しみの神様、人助けの神様なのに、こんな狭い心で、人を責めていては神様は喜ばない」と気付き、神様にお詫びしました。「責めない心」に取り組むうちに、夫も共に信心するようになっていきました。
 三枝さんは、改めて、助けて頂いたお礼として、神様の喜ぶ人助けをしようと思い、ボランティアで、老人家庭奉仕員を6年間勤めました。さらに、生け花に出会い、生け花を教えるようになりました。
 その生徒さんに三枝さんは、今もいろいろな相談を持ちかけられると言います。ある方が、「町内の役をいつもやらされて、嫌でならない」と言われたことに、「皆さんに信用されているから、健康だからこそ出来ることなんですよ。喜んでやらせてもらいましょうよ」と話したそうです。
 神様から教えて頂いた人を責めない心。そしてこれまで神様にすがって歩んできた経験。そのことが、三枝さんの包容力とそこからにじみ出る慈愛の言葉になり、自然と相手の心が和らぎ、何かと相談を持ちかけたくなるようでした。
 三枝さんは、現在一人暮らしをしていますが、不自由することはないと言います。教会の先生が、「三枝さんは、一人暮らしというより、神様と二人暮らしですからね」と言われ、なるほどと思いました。身の回りのことも全て自分で出来、日々神様とお話しながらの三枝さんの暮らしは、まさに神様と二人暮らし。それが、チャーミングな笑顔の秘訣なのだと教えられました。

タイトルとURLをコピーしました