●こころの散歩道
第3回「雨へのお礼ができてなかった」
金光教放送センター
今年も、もうすぐ雨の季節がやってきますね。皆さんは、雨はお好きですか? まあ、雨が好きだなんていう人は、そう多くないでしょうね。傘を差すのが面倒だし、暗いし、カビは生えるし、洗濯物は乾かないし、何かと不便です。私も正直なところ、やっぱり晴れた日の方が心地良くて、好きですね。
でも、雨が降らないと水が無くなる。水は私たちの命の元といってもいいくらいのものですから、雨が降るからこそ、私達は生きていけるわけで、そう考えていくと、雨というのは、命の恵みが天から降り注ぐということ。これに文句を言っては、身勝手というものでしょう。
自分の都合や気分だけで雨のことを見てきたのが申し訳ないことだったなあと、この頃ちょっと反省しているんです。
50を過ぎたころに、私は趣味でシイタケ栽培を始めまして、それがきっかけで、お湿りというものの有り難さを実感するようになりました。鉢植えのランも喜んでいるようですしね。ですから近頃は、雨もそんなに嫌いじゃありません。
それにしても、私たちが天気のことを口にする時、喜ぶ言葉はめったになくて、「暑いですね」「寒いですね」と、嘆くようなセリフが圧倒的に多いですよね。雨なんかはとくに、「降りますねえ」と、降っただけで文句を言われています。
日照りが続けば、「少しは降ってもらわんと困ります」なんて言うし、降っても降らなくても迷惑がられる雨。命の水を運んでくれてるのに、割が合わないですよね。お気の毒なことです。
私は、自分のそういう身勝手さが気になるようになってから、雨に対して、文句だけは言うまいと心に決めました。そしてその「一人キャンペーン」を現在実施中です。まあ何とか実行出来て、不平は言わずに来ていますが、お礼の方はまだまだ足りない。これが次なる目標です。
私の住む岡山は晴れの日が多いのですが、それでも中国山地や3本の大きな川があり、ダムが整備されたおかげもあって、少々日照りが続いても、ありがたいことに水の心配はほとんどありません。
ところが、かなり前のことですが、長い間日照りが続き、猛暑と相まって県内にある水がめの多くが大ピンチに陥ったことがありました。その時はみんな焦りました。給水制限なんて、ほとんど経験したことがなかったのですから。
「たくさんあるうちは自由に使えばよい」という考え方で、日頃の備えを怠っていることにも問題があるように思うのですが、そんなことは棚に上げ、ピンチになったのは何もかも雨が降らないことのせいにして、空に文句を言いながら、みんな必死で節水を始めました。普段から無頓着な使い方をしていますから、いざ節水となると大変でした。
水の豊富な岡山に引き換え、お向かいの香川県では、よく水枯れが起こるようです。山が急で、大きな川が無いせいもあるのでしょう。そのことを香川県に住む友人に聞いてみると、「昔から香川に住んでる人の家にはたいてい井戸があるし、まあ、もともと雨の少ないところだから、降らないからと言って、とりたてて不平を言う人は少ないんじゃないかなあ」。
そんな彼の話を聞いていて、以前、北海道の友人が遊びに来た時のことを思い出しました。季節は冬だったのですが、部屋の中で、「寒い」を連発していたら、その彼が、「北海道は寒いに決まっているので、誰もそんなに寒い寒いと言わないよ。うちには薪ストーブがあるから、室内は冬の間ずっと暖かい。ま、その代わり、冬が来る前に薪の準備をしておくのが大変だけどね」。
北海道の人たちは、寒さへの準備を十分に整え、覚悟を決めて冬を迎えるのだという。なるほど。それに引き換え、私はどうでしょう。温暖な気候に恵まれているのをいいことに、冬支度をろくすっぽしないで、ちょっとの寒さで愚痴を言っている。
恵まれていたら、そのことを喜ぶのが当たり前だと思うのですが、そう単純なことではなさそうです。恵まれていればいるほど、その有り難みが見えなくなって、わずかなことにも不足が出やすくなる。ああ、そうはなりたくないなあ。
朝起きると、さっそくトイレで水を使います。続いて顔を洗うにも炊事にも洗濯にも入浴にも水を使い、体の中にも水を取り入れます。これはすなわち、知らず知らず雨のお世話になっているということですよね。雨はほんとに、ありがたい。
そこで私は遅まきながら、60を過ぎた今からでも、「雨にお礼を言う」という一人キャンペーンを開始しようと思います。
さて、具体的にはどうするか。一日の生活の中で、水のお世話になる回数がいちばん多いのは何かと考えてみると、出た答えは「水洗トイレ」でした。雨が降らないと、実はトイレにも行けなかったんです。これは大発見でした。
そこで、雨への感謝を忘れないための自分だけのスローガンを考えてみました。出来たのが、これ。
「雨が降らねばトイレにも行けない」
雨の度に、このスローガンを思い出して、お礼を言おうと思います。