二度とあんなことは言わない


●信者さんのおはなし
「二度とあんなことは言わない」

金光教放送センター


 皆さんには、どうにもならない困難さを抱えた時、ありのままを打ち明けられる場所がありますか。今日は、そんな場所に導かれ、生きる支えとなる、しなやかな強さを自分のものにした方のことをお話しします。
 タオルの製造や造船業が盛んな愛媛県今治市。しまなみ海道の四国側の出発地としてもにぎわうこの街で暮らす松本將人まつもとまさとさんは、愛媛県生まれの46歳。奥さんと2人のお子さんの4人家族です。大学で排水処理について学び、料理のたれなどを製造する食品メーカーに就職、今もそこに勤めています。
 初めの何年かは、商品管理の仕事をしていましたが、やがて工場の排水処理などを担当するようになりました。大学で学んだことが生かせる職場です。電気工事の資格を取るなど、充実した毎日。奥さんと知り合い、結婚したのもこのころです。仕事も、プライベートも言うことなし。何もかも順調だったのに、そのころは、「面白くない」と、よく口にしていたそうです。
 そんな松本さんに、大きな変化が訪れます。35歳になるころのことでした。一つは、長男の誕生。結婚して3年で初めての子どもを授かりました。もう一つは、工場の機械や設備を修理したり製作したりする部署への異動でした。そこで待ち受けていたのは、機械に関する未経験の仕事と、物腰は穏やかだけれど、仕事には非常に厳しい上司だったのです。
 上司は、知識も技術も素晴らしいものを持った人であるだけに、配属されたばかりの松本さんにも、高い水準の結果を求めたのかもしれません。
 松本さんは、次々と仕事を与えられますが、知恵を絞って取り組んでも、足りない点を、厳しく追及されるばかりです。上司の期待に応えようと頑張りますが認めてもらえず、仕事は前に進みません。「上司の指摘はやっぱり正しい。明日こそは…」と、毎晩気持ちを立て直し、次の日も出勤するのですが、なかなか、「よし」と言ってもらえないのでした。
 半年も経つと、すっかり自信を失ってしまい、「技量の乏しい私には出来ない」「私が悪い」と、自分を責める思いばかりが湧いてきます。気持ちは塞がり、朝、通勤のバイクにまたがると手は震え、じっとりと脂汗がにじむまでになってしまいました。そして、ある日とうとう、捨て鉢になった松本さんは、「もうここには居られない」と、工場長に直接訴えたのでした。
 「今日のところは帰りなさい」と工場長から告げられた後、気が付くとなぜか、導かれるように金光教今治教会に向けてバイクを走らせていました。
 実は、松本さんは、幼いころから両親と金光教の教会に参拝しており、中学高校のころには、部活の試合や試験の時に、「いい結果が出ますように」と、教会の先生に電話を掛けて神様にお願いしていました。けれども、大学生になると、神様にすがることは、「自分は弱い」と認めているような気がして、教会から遠ざかっていたのです。
 導かれるように訪れた教会では、仕事のこと、体のことなど、ありのままを教会の先生に打ち明けることが出来ました。「随分長い時間をかけ、事細かに話を聞いてもらって、すっきりしたんです」と、松本さんは振り返ります。先生は、「大丈夫。おかげを頂けるから」と言って受け止めて下さいました。
 それからは、出勤前に必ず教会に電話をし、「昨日はミスをしたので、今日は失敗がありませんようお願いします」「昨日は順調でした。ありがとうございます。今日もよろしくお願いします」と、毎日神様にお願いしてから、会社に向かうようになりました。折に触れて教会にも足を運び、少しずつ失っていた自信を取り戻していきました。
 会社では部署替えがかない、上司とは離れて製造現場の主任となったことで、手の震えなど身体の不調はなくなりました。ただ、生産の手順は複雑で、間違えれば、無駄が出てしまいます。部下も抱えており、以前とは別の難しさがありました。
 けれども、もう以前の松本さんではありません。つらくても願いを受け止めて下さる神様が支えになりました。
 つらい時こそ、「金光様、金光様…」と唱えて願う。夜寝る時には、「今日も何とか終わりました。ありがとうございました」というお礼の祈りを込める。朝起きたら、「今日のいのちを頂き、ありがとうございます」というお礼の祈りを込める。そんな風にして、その日、その日を大切に刻んでいるうちに、2人目の子どもを授かり、「大丈夫。おかげを頂けるから」という確かな思いが、松本さんの心に生まれてきたのでした。
 やがて、製造現場での仕事が2年になろうとするころ、新しい部署が設けられ、松本さんは、得意だった排水処理施設の運転管理をすることになりました。機械設備が専門の、厳しかったあの人が上司でしたが、「大丈夫。おかげを頂けるから」という確信が、自信としなやかな強さを松本さんに与え、良い間柄となっていきました。
 結婚当初、あんなに順調だったのに、「面白くない」が口癖だった松本さん。今、家族もみんな幸せで、やり甲斐をもって仕事に打ち込んでいます。そして、こう話します。「しんどいことはしんどい。でも、しんどいくらいの方がいいんです」と。神様に向かうことで、しなやかな強さを得た松本さんの、力強い言葉です。
 どん底の時も妻が黙って見守ってくれていたこと、上司のおかげで仕事の力がついたこと…。実は、いつも恵まれ通していたことに気付いた松本さんは誓うのです。「二度と『面白くない』なんて言わない」と

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