酒呑童子(しゅてんどうじ)の酒飲み大会


●昔むかし
酒呑童子しゅてんどうじの酒飲み大会」

金光教放送センター

朗読:杉山佳寿子さん

 昔むかし、ある山あいの村に、米吉よねきちという百姓がおりました。米吉はとても働き者で、夫婦仲良く畑仕事をしておりました。
 そのうち、女の子が生まれ、「みつ」と名付け、喜んでおりましたところ、また次々と4人もの子宝に恵まれ、以前にも増して、一生懸命に働いておりました。
 あるお正月に、米吉は村の庄屋さんの所にあいさつに行ったところ、幼なじみの平太へいたとばったり出くわしました。
 庄屋さんが、
「米吉、正月の祝い酒だ。まず一杯」とお酒を勧めますと、
米吉は、
「いえ、私はさっぱり頂けない口なんで」
 すると平太が、
「お前は飲めないんじゃなくて、今まで飲まなかったんだ。せっかく庄屋様が勧めて下さるんだ。一杯だけでもちょうだいして帰ろうじゃないか」
 そこで米吉は、
「それでは一杯だけ」と、お酒を飲み干しますと、ややあって、
「こんなにうまいものは初めてでごぜえやす」
「そうかそうか」と庄屋様は喜び、そうして米吉は何杯もさかずきを空け、平太と良い気分で家に帰りました。
 さて、それからです。
 今までまじめ一方だった米吉は、すっかり打って変わって酒飲みになり、平太と連れ立っては酒を飲み、酔い潰れて、平太に背負われて家に帰るようになりました。そういうことが度重なりますと、さすがに平太にも愛想を尽かされ、誘っても断られる。そうしますと米吉は、朝から家でお酒を飲むようになりました。
 暮らし向きは段々と苦しくなり、10歳になるみつを始め、弟たちも母親を手伝って畑仕事をしました。
 「初めに酒を勧めた自分が悪かった」と、平太が時々様子を見がてら、米や麦を届けてくれます。
 ある時みつは、
「おっかさん、おとっつぁんはお酒がうまいうまいと毎日飲んでいるけれど、体に良いものなの?」
と聞きますと、おっかさんはとても悲しそうな顔をして、
「良いわけないでしょう。そのうちに体を壊してしまいますよ」
 それを聞いて以来、みつは畑仕事の行き帰りに、小さなお地蔵様の前で、毎日熱心におとっつぁんのために祈りました。
 ある日平太が訪ねて来て、米吉に言いました。
「3日後に山一つ向こうの村で、酒呑童子が酒飲み大会をするそうな。おい米吉どうする?」
 もちろん米吉はそれに飛びつきました。
「大酒飲みの酒呑童子かぁ。ちょっと怖い気もするが、いくらでも飲めるんだな?」
「当たり前だ。でもな米吉、お前、今のように酔っ払っていては、これ以上酒は飲めないぞ。それに山を越えることも出来ない。これから3日の間は酒を我慢しろ」
「なるほど、それはもっともだ」
 信じられないことに、本当に米吉は3日の間お酒を我慢したのです。そして畑仕事にも久しぶりに出ました。でも心の中では、「酒が腹いっぱい飲める」と、そればかり楽しみにしていたのです。
 さて、当日平太が迎えに来ました。2人で歩いておりますと、お地蔵様の前でみつが何やら熱心に祈っております。何か欲しいものでもあるのかなと、コッソリ近付いて聞いてみると、
「おとっつぁんがお酒を飲み過ぎて病になりませんよう、どうぞどうぞお守り下さい」
 それを聞いた米吉は、ハッとした顔になり、そのうち顔が涙でぐしゃぐしゃになりました。
「こんなオレのことをそんなに心配してくれていたんだ」。
 そしてくるりと向きを変えると、畑の方に向かって走って行ってしまいました。
 みつは、平太に聞きました。
「おじさん、酒呑童子って怖い鬼なんでしょう、本当に山一つ向こうに居るの?」
「そんなもの、とうに居ないよ」
「じゃあ、なぜ?」
「お父っつあんの酒は、おみっちゃんたちにとって酒呑童子のような鬼だろう。3日酒をやめて、それに山歩きをしたら酒が抜ける。それで酒と縁が切れるかなぁ…と、俺なりに考えて、悪いけどだましたんだ。でもおみっちゃんの、おとっつぁんを案じる気持ちには負けたよ。ハハ…」
 その日以来、米吉はまじめに働くようになりましたとさ。

 おしまい。

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