お弁当の話


●先生のおはなし
「お弁当の話」

金光教尻池しりいけ教会
谷口信一たにぐちしんいち先生


(ナレ)おはようございます。パーソナリティの大林誠おおばやしまことです。
 お弁当と言えば、皆さんどんな思い出がありますか? 遠足や運動会に作ってもらった時なんかは、ふたを開ける瞬間、わくわくしたのではないでしょうか。
 今も毎日お弁当を作ってもらっている人も多いと思います。でも、お弁当箱という限られた空間に、栄養や色合い、好き嫌いを考えながら、おかずを詰めていくのは、とても大変なことだと思います。
 今日お話しくださるのは、金光教尻池しりいけ教会の谷口信一たにぐちしんいちさんです。タイトルは、「お弁当の話」。

(本文)今から30年くらい前のことです。
 私は、中学・高校、そして専門学校の間、お昼ご飯は母にお弁当を作ってもらっていました。
 当時、母は、家で父の仕事を手伝ったり、家庭用の畑の手入れをしながら家事をしていました。
 お弁当には定番の卵焼きと、色々なおかずが入っていて、ずーっと8年もの間、本当に休みなく作ってくれました。
 私自身、8年の間には色んなことがありました。
 部活動は軟式テニスをしていたのですが、早朝練習で朝早く学校へ行き、夜はへとへとになるまで頑張りました。試合に負けても、試合に出られなくても、母はお弁当を作ってくれました。
 勉強の成績は良い方ではありませんでしたが、とことん悪くなった時もありました。いじめに遭って学校へ行くのが怖い時もありました。出来もしないのに、どうやって
復讐ふくしゅうしてやろうかと考え込んだこともありました。機嫌が悪く、腹が立ってばかりの時も、失恋してものすごく落ち込んでしまった時も、受験で悩んでいる時もありました。どんな時も母は変わらずお弁当を作ってくれました。
 母自身が調子の悪い時もありました。風邪をひいたり、腱鞘炎で腕が痛い時も、父が入院して家事が大変な時も、変わりなくお弁当を作ってくれました。
 本当に色んなことがありました。だけど母がお弁当を作ってくれることは変わりませんでした。
 ある時、弟がこんな話をしてくれました。
 弟が高校生の頃、学校から帰ってきて弁当箱を母に返すと、母に、「あんた間違えて、お弁当持っていったやろ」と叱られたそうです。弟にしたら、間違えたといっても中身も同じような物ですから、「そんなに怒らなくても…」と思ったようですが、母は、「一つ一つに、その子その子への祈りを込めて作ってるんやからな。だから弁当は一つ一つ違うんやからな」と言ったそうです。
 そんな思いで母がずっと弁当を作り続けてくれてきたのかと、心から「すっごいなあ」と思いました。びっくりしました。うれしかったし、ありがたいなあと思いました。そこで母に、「今までお弁当作ってくれてありがとう」と言いました。
 それからは、台所まで弁当箱を持っていって、水で流して、母に、「お弁当ありがとう。おいしかったで」と言うようになりました。私が毎日毎日言うものですから、弟たちが、「お兄ちゃん、ちょっとわざとらしいわ」と言うこともありました。
 だけど、母は、「そんなことない。お母さんはうれしい」と言ってくれて、「明日は何作ってあげよ」と言ってくれたりしました。
 それまで、私と母との間柄は、悪くはなかったのですが、「ありがとう」とお礼が言えるようになってからの間柄は、さらに深まったと思います。
 母は、金光教を信仰する家庭で育ち、同じく信仰をもつ父と結婚しました。そして、第1子を早産で亡くしてしまいましたが、その後、私を含めて3人の男児を産んでくれました。
 私たちを育てる時には、毎日神様に、「元気で頭の良い、真面目で素直で、神様のお役に立たせていただき、皆様に可愛がっていただき、感謝を忘れない、心の優しい子どもにお育てください」と欲張って、いっぱいお願いしてきたそうです。
 そして私たちは、そんな母の信仰による温かい雰囲気と親心に包まれて育ちました。
 特に秀でたところや取り柄があるわけではない私を、母親が大事に思ってくれている。だから私は、「自分自身を大切にしよう」と思えるようになったのだと思いますし、祈られている自分を実感できる時ほど、幸せな時はないと思うのです。
 そして、そんな母の姿の奥に、私は神様の親心を感じるのです。
 金光教にはこんな教えがあります。「神様は親、人間は子、親子の情はどこまでも変わるものではないぞ。親神様は人間氏子がかわゆうてなられぬのぞ」。
 弁当を作り続けてくれた母の姿を思うと、神様もずっとずっと母のように私のことを祈ってくださってきたのだと、よく分かります。
 それこそ、私が母の思いに後から気付いたように、神様も私が気付くずっと前から、私のことを祈り続けてくれていたのでしょう。
 そんな神様の親心に気付かせていただいて、幸せを感じながら、母にも、神様にも、喜んでもらえるような日々を過ごしていけたらいいなと思っています。

(ナレ)いかがでしたか?
 谷口さんは、お弁当の中に、お母さんの親心と、さらにその奥にある神様の親心を感じ取っていかれました。
 目に見えないものを見る、そんな心の目を開けば、私たちの毎日の食事も一層おいしく、ありがたくなるでしょうね。
 今日も放送を聞いていただき、ありがとうございました。

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